つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

時代伝奇にしては

2007-01-13 17:30:12 | 伝奇小説
さて、菊池秀行以来になるのかなの第774回は、

タイトル:陰陽宮1 安倍晴明
著者:谷恒生
出版社:小学館 小学館文庫(H12)

であります。

昼休憩、と言うのは1時間しかないので、こんなときに図書館に行くといつもに増して考えもせずに適当に手に取るわけなんだけど、これもその一冊。
まぁ、個人的に平安ものは好き、と言う理由だけだったので期待せずに読んでみたかな。

ストーリーは、タイトルのとおり……と言いたいところだけど、実は違って21歳の若き藤原道長の物語。
若く、凛々しく、覇気と才気に溢れる道長は、謙譲術数に長け、親兄弟で骨肉の権力争いを続ける藤原北家にあって、栄達を求めない風変わりな京人だった。

あるとき、屋敷に出入りする風の法師なる男とともに京の都に出かけていた道長は、人買いから逃げ出してきた少女を助ける。
その少女は、道長に泉州信太の森へ来るように告げ、道長は学生がくしょう時代からの友人橘逸人とともに信太へと赴く。
そこで再び出会った、助けた少女サキに連れられ、深い森の奥にある庵で安倍晴明に出会い、その自らに与えられた運命の一端を知る。

だが、そんな道長の前に現れるのは、花山帝を巡る父兼家、兄道隆たちの権力争いや、京を跳梁跋扈する凶悪な盗賊たち……。
源雅信の娘倫子との恋、結婚、後の一条帝中宮となる彰子の出生などの幸せな出来事の中、道長は時代を担う者として歩み始める。


私は、道長が大っ嫌いです。
理由は単純。
定子様への扱いのためです(爆)

なので、最初は道長が主人公で、しかもいい感じの貴公子に描かれているところに、かなり抵抗感があったわけなんだけど……。

時代ものの伝奇小説としての出来は、かなりよい。
タイトルではちと晴明を前面に出しているが、内容は道長が腐敗した平安王朝を建て直すような展開を予想させる物語となっており、そうした中で要所要所で道長を助けるために晴明が登場する、と言うパターンになっている。
伝奇小説らしい戦いは、この巻では道長と盗賊たちの斬り合い、晴明の助力など、どちらに偏るわけでもなく、荒唐無稽なところが強すぎず、バランスがいい。

またストーリーの主体が、道長を中心とする王朝での話となっており、そうした部分も、史実に基づいてきちんと描かれている。
戦闘に偏りがちな伝奇小説としてはこうしたところはしっかりしていて好感が持てる。

ただ文章がとにかく硬い。
こうした政争を描いたりする場合には、重々しい文章は似合っているのだが、使う漢字に難しいものが多いのが難点。
時代の用語は仕方がないが、それ以外にも多用されているので気軽に、と言うわけにはいかない。

また、他に適当な単語がなかったのだろうが、「リズム」と言ったカタカナが入るのもマイナス。
他はすべてカタカナなしの文章になっているので、こうしたカタカナ文字を安易に使うよりもきちんと漢字の単語を使ってもらいたいところ。

とは言え、総じて腐敗した王朝のどろどろした雰囲気はしっかりとあり、物語としても続きを読ませられるだけの力がある。
いままで伝奇小説は、ワンパターンだが菊池秀行が安心して読める唯一の作家だったが、これは菊池以外に読めそうな伝奇小説だろう。

ただ、どうしても道長が主人公となると、個人的にとてもいやぁな予感がしてしまうのが難点だが……(笑)