小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

香港のデモに、なぜ日米政府は知らんぷりなのか――「民主主義とは何か」がいま問われている。⑧

2014-12-01 08:02:10 | Weblog
 香港で高校生や大学生を中心とする民主派グループに対する政府側の弾圧が激しさを増している。イギリスによる租借期間(99年)が終わって香港が中国に返還されたのは1997年7月1日。その瞬間を見ようと私は友人たち数名と0泊2日の日程で香港に行った。急きょ、ほんの思い付きで3日前に決めたため、ホテルが確保できず、夜通し香港見物をして早朝便で帰るというあわただしい日程だった。学生も市民も警官も含め、国を挙げての大祝賀パーティが随所で行われ、花火がきれいだったのを覚えている。香港に住む中国人が、ようやく祖国の国民としての誇りを持てる生活を始められるという、喜びに満ちた日でもあった。
 中国共産党政府も、99年間イギリスの制度のもとで生活を送ってきた人たちの混乱を防ぐため、一挙に香港の制度を中国本土と同一化しようとはしなかった。そうした中国共産党政府の配慮もあって、香港は当面「一国二制度」による特別行政区として、ほとんど独立国と変わらない自治権が保証されてきた。通貨ですら中国の「元」ではなくイギリスの統治時代から定着していた「香港ドル」がそのまま存続されてきた。通貨としての香港ドルの取引高はいま世界で8位を占めている。はっきり言って香港は、少なくとも通貨の価値や信用性の面では先進国並みの扱いを受けている。
 が、「一国二制度」の状態を中国が永遠に続けるとは、世界のどの国も考えていないことも明らかだった。中国政府がどれだけの期間をかけ、どうやって本国との同一化を図っていくのか、それともそれ以前に中国の共産党一党独裁体制が崩壊するのか、歴史の将来を予測するのは不可能だが、「ウサギとカメの競争」になると私は思っていた。
 中国共産党指導部が、急に香港の制度の本国との同一化に乗り出したのは2014年8月である。習近平氏が胡錦濤氏から完全に政権のかじ取りを委譲されたのが13年3月。以降習近平政権は覇権主義の色彩を鮮明にしてきた。尖閣諸島の領有権を声高に主張し始めたり、東シナ海や南シナ海での強引な海洋開発も始めた。香港への政治的支配力を強めようとしだしたのも、そうした習近平政権の覇権主義傾斜の顕著な動きの一環だ。
 メディアは、どうしてそうした習近平政権の一連の覇権主義への傾斜を、トータルで分析することが出来ないのだろうか。オバマ政権や安倍政権が香港の事態に口をつぐんでいるから、香港で生じている混乱も事実しか伝えてはまずいとでも思っているのだろうか。
  そもそも「一国二制度」の下で香港は独立国と言っても差し支えないくらいの高度な自治が認められてきた。いつまでもそうした事態を放置するわけにはいかないと、本土との制度一体化を強引に踏みだしたのが習近平主席である。
 習近平氏が中国独裁者としての地位を固めるために使った手法は巧みだった。
「虎もハエも」と汚職の撲滅に名を借りて政敵を片っ端から排除することに成功、胡錦濤氏ですら「お前、やりすぎだ」と口出ししたら危なくなるほどの強大な権力を確立してしまった。そもそも習近平氏が権力の座に昇り詰めるためにどういう手法を駆使してきたか。もちろん明るみには出ていないが、きれいごとだけで強大な権力を手に入れることは不可能であることくらい、常識で分かりそうなものだが…。
 香港では2017年の香港特別行政区行政長官選挙から1人1票の「普通選挙」が導入されることになっていた。が、習近平体制が確立してから開催された今年8月の全人代(全国人民代表者会議)で急きょ、香港の行政長官選挙の立候補資格が定められた。まず前もって指名委員会を設け、立候補するには委員会の過半数の支持が必要であり、立候補者も2~3人の少数に限定するとしたのである。もちろん指名委員会は中国共産党執行部が設置する。つまり習近平氏のおめがねにかなった人物を行政長官の地位に就けるというあからさまな「一国二制度」の否定である。香港の若者たちが激しい怒りを権力にぶつけたのは当然である。
 ウクライナ問題に対しては、民族自決権の行使(とまで言い切れるかどうかは分からないが、少なくともウクライナからの分離独立を要求している東部2州の活動家たちは「われわれはロシア人だ」と主張している)を要求している反政府グループの後ろ盾になっているとみられているロシアに対して、政治的経済的圧力を加えているオバマ政権の尻尾にくっ付いて、日本の国益を犠牲にしてまでロシアとの友好関係の確立を渋りだした安倍政権も、アメリカの国益のために中国の海洋進出に対しては神経をとがらせているが、香港で生じている民主化グループへの弾圧に対しては、なぜ口をつぐんでいるのか。
「内政干渉になるから」というなら、ウクライナの紛争はウクライナ国民が自ら解決すべきだし、ウクライナ紛争にロシア軍が軍事介入しているという証拠もない(プーチン大統領はロシア軍の介入を否定している)。アメリカや日本の民主主義とは、自国の国益に反することは否定するが、中国との関係をこれ以上悪化させたくないという国益については、民主主義より優先するということなのか。天安門事件を巡って、いまだに中国共産党指導部の人権問題を執拗に追及する米政府や日本政府は、なぜ香港の民主主義を守ろうとする人たちを弾圧している権力に対して非難の声を上げようとしないのか。