アベノミクスは成功だったのか、それとも失敗だったのか。
安倍総理は当然だが、口が裂けても失敗だったとは言えない。今年4月の消費税増税後の消費の冷え込みは、増税前の駆け込み需要の反動もあり折り込み済みの結果ではあった。が、過去の経験から増税後の消費の冷え込みは3か月もあれば解消するというのが、安倍内閣だけでなくエコノミストも含めて大方の予想だった。
が、2期目の7~9月期のGDPも年率換算でマイナス1.6%と予想(大方の予想はプラス2%だった)を大きく下回った。野党や一部のエコノミストは一斉に「アベノミクスは失敗だった」と攻撃を始めた。安倍総理が総選挙の争点を「アベノミクスに対する国民の信任を問う」とせざるを得なかったのもそのせいである。
APECを皮切りにした海外歴訪中も、安倍総理は「アベノミクスは順調に推移している」と強調していた。が、本当にそうか。
安倍総理が「道半ば」としながらもアベノミクスの成果として上げているのは、①輸出大企業の業績改善②株価の高騰③雇用の拡大④賃金の上昇、の4点である。
では、なぜ消費税増税後のGDPが2期連続マイナス成長を示したのか、については答えようとしない。というより答えられない。
内閣府は毎月、スーパーやデパートなどの消費動向の速報を出している。7~9月期のGDPどころか10月に入っても消費は回復していない。国内消費はGDPの約6割を占めており、内閣府は毎月、前月の消費動向の速報を明らかにしている。GDPのもう一つの大きな指標となる貿易統計も財務省が毎月、前月の貿易統計の速報を出しており、10月も赤字で28か月連続の赤字を記録した。もう少し正確に言うと輸出は2か月連続で黒字になったが、大幅輸入超によって赤字が続いた。ただ輸出が黒字になったからと言って手放しでは喜べない。急速な円安によって輸出数量が増えなくても、円換算での輸出金額が増加したというだけの話だからだ。
そもそもアベノミクスとはなんだったのか。
安倍政権が誕生したとき、国民が最大の期待を寄せたのが景気対策だった。アベノミクスとは「失われた20年」を取り戻し、国民の期待に応えて景気を回復するための経済政策だった。アベノミクスを考えるとき、この原点に立ち戻って検証する必要がある。
アベノミクスは基本的にケインズ景気循環論の立場に立っている。具体的には ①雇用機会の創出→②国民所得の増加→③消費の増加(需要の拡大)→④生産力の増強(供給の拡大)→⑤雇用機会のさらなる創出……という循環だ。この景気循環論は、実は経済活動の国際化の急速な進展とともに合理性を失っていた。そのことにエコノミストたちが気付かなかったことが、アベノミクスが失敗した原因である。そのことを論理的に証明する。
安倍総理はアベノミクスを成功させるために雇用機会を増やすことに最大のポイントを置いた。アメリカのニューディール政策のようなものと言っていいだろう。具体的にはアベノミクスの3本の矢の最初の2本である。
まず安倍総理は日本の輸出企業(自動車や電気製品など)が国際競争力を失ったのは円高のためだと思った。そのため日銀総裁に同じような考え方をしていた黒田氏を据え、円安誘導のための金融政策を打ち出した。具体的には日銀が国債を無制限に買うことによって通貨供給量を増大させた。通貨の価値も一般の商品の価値と同様、需要と供給のバランスによって価値が変動する。円という日本の通貨を乱発すれば円の価値が下がって為替相場は「円安」に傾く。円安になれば日本製品の国際競争力が回復して、国際社会における日本製品への需要が増大する。需要が増えれば日本企業は供給を拡大する必要に迫られ生産力を増強する。日銀がばらまいた金は企業の設備投資に回り、さらに雇用の創出につながる……はずだった。
が、何事もそう簡単には計算通りに行かないのは世の習いだ。なぜか日本企業の国際競争力は回復しなかった。輸出数量が、円安なのに一向に増えなかったからだ。本来なら円安メリットが大きいと思われていたソニーが、1円円安になると為替差損が20億円に上るということからも、日本の産業構造がバブル時代とは様変わりしていることに政府は気が付かなければならなかったのだが、そうした産業構造の変化を無視した金融政策がアベノミクスの第1の矢だった。アベノミクスの金融政策については次回のブログでさらに詳細に書く。
次に第2の矢である大胆な財政出動による公共工事だが、これは確かに一定の成果を上げた。が、公共工事による雇用の拡大はいわゆる3K(きつい・汚い・棄権)と呼ばれる肉体労働者(現業・技能系)に偏っている。
高度経済成長時代のはしりに「金の卵」と呼ばれる人たちがいた。中卒で地方から集団就職し、その後3Kと呼ばれるようになった現業・技能系の肉体労働者の卵たちだ。が、高度経済成長期を経て高学歴社会が日本にも訪れ、さらに少子化時代の到来によって親が子供の高等教育に力を入れることになった。その結果、現在高校進学率は97%を超え、大学進学率も50%を超えている。中学卒業予定者の高校受験は事実上の全員合格であり、高校卒業後の進路も短大や専門学校を含めると、進学希望者はやはり事実上の全員進学になっているだろう。そうした高学歴者が、かつての日本の中小企業の技能継承を担ってきた3Kの仕事にソッポを向くようになったのは、当然と言えば当然の結果だった。外国人の3K分野での雇用が拡大したのはその結果であり、政府も技能研修という名目で外国人の雇用を追認してきた。
アベノミクスが始まる前は、企業はこうした3K分野の外国人技能研修生を低
賃金・長時間労働でこき使ってきた。そうした労働事情も、3K労働者に対する需給関係が生み出したと言える。が、アベノミクスによって公共事業が拡大して現業企業の外国人技能研修生の奪い合いが始まった。当然彼らの賃金は高騰し、外国人労働者の賃金上昇は必然的に3K分野で働かざるを得ない日本人フリーター族の賃金にも反映されるようになった。安倍総理が強調する「アベノミクスの成果」のひとつである賃金上昇の実態とはそういうことだということをメディアは理解していないようだ。
安倍総理が今年の春闘に先駆けて、経済団体に社員の賃上げ要請をしたことについては私も一定の評価はしている。おそらく首相が経済団体に対し、労組の代理人のように賃上げ要請をしたことは、我が国憲政史上初めてのことではなかっただろうか。
金融政策や財政出動による公共事業の拡大によって企業だけがいくら潤っても、企業の収益が従業員に還元されなければ、消費は復活しない。消費が復活しない限りアベノミクスのベースになっているケインズ景気循環は実現しない。が、結果的には大企業を中心としたベースアップの復活によっても景気は回復しなかった。円安誘導と消費税増税による物価上昇に、実質賃金のアップが追い付かず、逆に目減りしてしまったからだ。
これは結果論ではない。当然円安と消費税増税による物価上昇は織り込み済みであり(アベノミクスとタッグを組んだ黒田日銀金融政策は消費税増税分を除いて2%の物価上昇を目的にしており、実質賃金のアップ率は5%以上にならなければ給与所得者の可処分所得は目減りすることくらい小学生でも理解できる話だ…小学生でも、とはちょっと言い過ぎか)、今年の春闘にベースアップ率から考えても、消費税増税直前の駆け込み需要の反動が3か月くらいで収まるわけがないことくらい、小学生は無理でも中学生なら理解できる話だろう。そもそもベースアップは労働基準法違反であり、それを黙認してきた政府も連合も、また厚労省のエリート公務員もアホばっかりか、と言わざるを得ない。この話も改めて書く。(続く)
安倍総理は当然だが、口が裂けても失敗だったとは言えない。今年4月の消費税増税後の消費の冷え込みは、増税前の駆け込み需要の反動もあり折り込み済みの結果ではあった。が、過去の経験から増税後の消費の冷え込みは3か月もあれば解消するというのが、安倍内閣だけでなくエコノミストも含めて大方の予想だった。
が、2期目の7~9月期のGDPも年率換算でマイナス1.6%と予想(大方の予想はプラス2%だった)を大きく下回った。野党や一部のエコノミストは一斉に「アベノミクスは失敗だった」と攻撃を始めた。安倍総理が総選挙の争点を「アベノミクスに対する国民の信任を問う」とせざるを得なかったのもそのせいである。
APECを皮切りにした海外歴訪中も、安倍総理は「アベノミクスは順調に推移している」と強調していた。が、本当にそうか。
安倍総理が「道半ば」としながらもアベノミクスの成果として上げているのは、①輸出大企業の業績改善②株価の高騰③雇用の拡大④賃金の上昇、の4点である。
では、なぜ消費税増税後のGDPが2期連続マイナス成長を示したのか、については答えようとしない。というより答えられない。
内閣府は毎月、スーパーやデパートなどの消費動向の速報を出している。7~9月期のGDPどころか10月に入っても消費は回復していない。国内消費はGDPの約6割を占めており、内閣府は毎月、前月の消費動向の速報を明らかにしている。GDPのもう一つの大きな指標となる貿易統計も財務省が毎月、前月の貿易統計の速報を出しており、10月も赤字で28か月連続の赤字を記録した。もう少し正確に言うと輸出は2か月連続で黒字になったが、大幅輸入超によって赤字が続いた。ただ輸出が黒字になったからと言って手放しでは喜べない。急速な円安によって輸出数量が増えなくても、円換算での輸出金額が増加したというだけの話だからだ。
そもそもアベノミクスとはなんだったのか。
安倍政権が誕生したとき、国民が最大の期待を寄せたのが景気対策だった。アベノミクスとは「失われた20年」を取り戻し、国民の期待に応えて景気を回復するための経済政策だった。アベノミクスを考えるとき、この原点に立ち戻って検証する必要がある。
アベノミクスは基本的にケインズ景気循環論の立場に立っている。具体的には ①雇用機会の創出→②国民所得の増加→③消費の増加(需要の拡大)→④生産力の増強(供給の拡大)→⑤雇用機会のさらなる創出……という循環だ。この景気循環論は、実は経済活動の国際化の急速な進展とともに合理性を失っていた。そのことにエコノミストたちが気付かなかったことが、アベノミクスが失敗した原因である。そのことを論理的に証明する。
安倍総理はアベノミクスを成功させるために雇用機会を増やすことに最大のポイントを置いた。アメリカのニューディール政策のようなものと言っていいだろう。具体的にはアベノミクスの3本の矢の最初の2本である。
まず安倍総理は日本の輸出企業(自動車や電気製品など)が国際競争力を失ったのは円高のためだと思った。そのため日銀総裁に同じような考え方をしていた黒田氏を据え、円安誘導のための金融政策を打ち出した。具体的には日銀が国債を無制限に買うことによって通貨供給量を増大させた。通貨の価値も一般の商品の価値と同様、需要と供給のバランスによって価値が変動する。円という日本の通貨を乱発すれば円の価値が下がって為替相場は「円安」に傾く。円安になれば日本製品の国際競争力が回復して、国際社会における日本製品への需要が増大する。需要が増えれば日本企業は供給を拡大する必要に迫られ生産力を増強する。日銀がばらまいた金は企業の設備投資に回り、さらに雇用の創出につながる……はずだった。
が、何事もそう簡単には計算通りに行かないのは世の習いだ。なぜか日本企業の国際競争力は回復しなかった。輸出数量が、円安なのに一向に増えなかったからだ。本来なら円安メリットが大きいと思われていたソニーが、1円円安になると為替差損が20億円に上るということからも、日本の産業構造がバブル時代とは様変わりしていることに政府は気が付かなければならなかったのだが、そうした産業構造の変化を無視した金融政策がアベノミクスの第1の矢だった。アベノミクスの金融政策については次回のブログでさらに詳細に書く。
次に第2の矢である大胆な財政出動による公共工事だが、これは確かに一定の成果を上げた。が、公共工事による雇用の拡大はいわゆる3K(きつい・汚い・棄権)と呼ばれる肉体労働者(現業・技能系)に偏っている。
高度経済成長時代のはしりに「金の卵」と呼ばれる人たちがいた。中卒で地方から集団就職し、その後3Kと呼ばれるようになった現業・技能系の肉体労働者の卵たちだ。が、高度経済成長期を経て高学歴社会が日本にも訪れ、さらに少子化時代の到来によって親が子供の高等教育に力を入れることになった。その結果、現在高校進学率は97%を超え、大学進学率も50%を超えている。中学卒業予定者の高校受験は事実上の全員合格であり、高校卒業後の進路も短大や専門学校を含めると、進学希望者はやはり事実上の全員進学になっているだろう。そうした高学歴者が、かつての日本の中小企業の技能継承を担ってきた3Kの仕事にソッポを向くようになったのは、当然と言えば当然の結果だった。外国人の3K分野での雇用が拡大したのはその結果であり、政府も技能研修という名目で外国人の雇用を追認してきた。
アベノミクスが始まる前は、企業はこうした3K分野の外国人技能研修生を低
賃金・長時間労働でこき使ってきた。そうした労働事情も、3K労働者に対する需給関係が生み出したと言える。が、アベノミクスによって公共事業が拡大して現業企業の外国人技能研修生の奪い合いが始まった。当然彼らの賃金は高騰し、外国人労働者の賃金上昇は必然的に3K分野で働かざるを得ない日本人フリーター族の賃金にも反映されるようになった。安倍総理が強調する「アベノミクスの成果」のひとつである賃金上昇の実態とはそういうことだということをメディアは理解していないようだ。
安倍総理が今年の春闘に先駆けて、経済団体に社員の賃上げ要請をしたことについては私も一定の評価はしている。おそらく首相が経済団体に対し、労組の代理人のように賃上げ要請をしたことは、我が国憲政史上初めてのことではなかっただろうか。
金融政策や財政出動による公共事業の拡大によって企業だけがいくら潤っても、企業の収益が従業員に還元されなければ、消費は復活しない。消費が復活しない限りアベノミクスのベースになっているケインズ景気循環は実現しない。が、結果的には大企業を中心としたベースアップの復活によっても景気は回復しなかった。円安誘導と消費税増税による物価上昇に、実質賃金のアップが追い付かず、逆に目減りしてしまったからだ。
これは結果論ではない。当然円安と消費税増税による物価上昇は織り込み済みであり(アベノミクスとタッグを組んだ黒田日銀金融政策は消費税増税分を除いて2%の物価上昇を目的にしており、実質賃金のアップ率は5%以上にならなければ給与所得者の可処分所得は目減りすることくらい小学生でも理解できる話だ…小学生でも、とはちょっと言い過ぎか)、今年の春闘にベースアップ率から考えても、消費税増税直前の駆け込み需要の反動が3か月くらいで収まるわけがないことくらい、小学生は無理でも中学生なら理解できる話だろう。そもそもベースアップは労働基準法違反であり、それを黙認してきた政府も連合も、また厚労省のエリート公務員もアホばっかりか、と言わざるを得ない。この話も改めて書く。(続く)