私たちが暮らす宇宙は「マルチバース(多宇宙)」の1つにすぎないという説が以前から提唱されている。だが、これまでは証明する手立てがなかった。私たちの宇宙はかつて、他の宇宙と何度もぶつかってきたとされる。その“傷”を見つける方法を国際物理学チームが考案した。
同チームは、宇宙の“傷”を検出できるコンピューターアルゴリズムを開発した。宇宙の形は完全な丸ではなく円盤状をしているが、ビーチボール同士をぶつけたときのように一時的に平坦化しているにすぎないという。
マルチバースは高速で膨張しているため、それぞれの宇宙は誕生直後にはるか遠くへ引き離された可能性が高い。そのため、衝突が起こったのは宇宙誕生初期だけだという。
望遠鏡技術の発展のおかげで、いまや誕生直後の全体像「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」を調べることができる。CMBは、ビッグバンから約38万年後までの宇宙空間を満たしていた高温プラズマが放出したマイクロ波である。ビッグバンは130億年以上前に起きたと考えられている。
「ずいぶん前から他の宇宙の存在が推測されていたが、実証は不可能と考えられていた」と、今回の研究に携わったカナダ、ペリメーター研究所の理論物理学者マシュー・ジョンソン氏は言う。
「今回、その理論から予測される信号を検出するアルゴリズムを開発した。理論の検証が可能になったことは大きな意味がある。主にソフトウェア開発の発展とCMBマップ観測の向上のおかげだ」。
◆宇宙に残るわずかな痕跡
マルチバースが存在するとすれば、何もない場所の混沌とした揺らぎから誕生した可能性がある。
他の宇宙は泡構造を取り、私たちがいる宇宙とよく似ているが、物理法則はわずかに異なるだろう。同時に誕生し互いにぶつかった後、マルチバース全体に拡散したようだ。
今回のアルゴリズムは、CMBの滑らかな模様の中から衝突のわずかな証拠を探す統計学に基づいた体系的方法である。人間だけでは見つけられない小さな痕跡を検出できるという。
◆結果は有望
アルゴリズムによって15の興味深い特徴が見つかっている。そのうち4つは証拠として特に有望視されたが、統計分析の結果は可能性止まりだという。
現在のCMBマップには、宇宙同士の衝突を示すわずかな動きをとらえられるほどの精度がないからだ。
そのため、研究チームは宇宙探査機プランクの新たな観測データを心待ちにしている。ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP)のデータを基に作成された最新のCMBマップと比べ、3倍の解像度を期待できるという。
プランクの全天観測は今年後半に完了の予定だが、地球寄りの天体の干渉による時空のゆがみを計算する必要があるため、最終的な成果が得られるのは2013年1月になるとみられる。
◆発見の可能性は低い
プランクの高精度な観測データが利用できても、ほぼ無限の可能性が存在するため、宇宙間の衝突の証拠を見つけられるかどうかは賭け事に等しい。
これから衝突が起きてどこかの宇宙が破壊され、その衝突の証拠が見つかる可能性もあれば、衝突が弱すぎて痕跡を検出できない可能性もある。衝突が複数回起きたために証拠がぼやけてしまうケースも考えられる。
ただし、検出可能なほど大きな衝突が起きたとしたら、他の領域との温度差、物質密度の不規則性などの目立つ異常が残るはずである。
研究チームは、アルゴリズムの汎用性を維持し、プランクの観測データにおける有意差をすべて洗い出す予定だという。
アルゴリズムに関する研究成果は2つあり、「Physical Review Letters」誌と「Physical Review D」誌にそれぞれ掲載される予定である。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110810-00000002-natiogeo-int