飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

宇宙関連情報: 大樹での大気球第1号機に成功!!

2008-09-23 10:57:46 | 北海道衛星
 大気球の実験場が岩手県三陸から北海道大樹町に移転することは以前の
ISASメールマガジン(2008年3月18日 第183号)でもお知ら
せしましたが、いよいよ、大樹での実験が始まりました。

 大樹町は北海道の南東、十勝平野の南部にあります。広大な耕地では酪農
や畑作が盛んで、牛乳やチーズ、ホエー豚などが特産です。太平洋に面して
いるため鮭、シシャモ、ホッケ、ツブ貝など、海の幸にも恵まれています。
町内を流れる歴舟川(れきふねがわ)は水質日本一に選ばれたこともある清
流で、いまでも砂金が採れます。

 このような大自然の中に、私たちの新しい実験場は、あります。この実験
場では、これまでもJAXAの実験が、航空機などの分野で、以前から行わ
れていました。しかし、今後は大気球の定常的な実験も加わることになった
ため、JAXAと大樹町の連携をもっと強化しようということになり、連携
協力を謳った協定が締結されました。このような協定をJAXAが自治体と
結んだのは初めてです。この協定により、実験場は「大樹航空宇宙実験場」
という名称になりました。

 協定の調印式は5月26日に現地で開催され、立川JAXA理事長や、
伏見大樹町長を始め、地元選出の中川昭一衆議院議員などの地元関係者も多
数加わって、行われました。式典では、地元の小学生100人が「宇宙への
夢を記したメッセージ」を添えた色とりどりの風船を大空に放つイベントも
行われ、その華やかな光景には多くの歓声があがりました。

 さて、大樹での大気球実験ですが、移転後の設備の最終調整や動作確認が
何度も重ねられ、5月末に実験の準備が整いました。そこで6月2日に第1
号機の実施に臨んだのですが、放球の直前にアクシデントが発生し、残念な
がら中止・延期されました。調査の結果、このアクシデントは実験場の移転
とは無関係なことが原因と分かり、なおさら残念だったのですが、これを機
に私たちはシステムの総点検を行い、再挑戦することを決意しました。

 そして、8月23日、風のない穏やかな朝、ついにチャンスが訪れました。
早朝4時から作業が開始され、ヘリウムガスが詰められた気球は、午前6時
19分、悠然と舞い上がり、雲の中へと飛び立っていきました。第1号機の
放球に成功した瞬間です! 6月のアクシデントのこともあり、非常に緊張
しましたが、無事に成功し、皆で安堵の握手を交わしました。

 9月5日には、さらに大型の気球実験が行われ、これも成功しました!
ひとえに、大樹町を始めとする関係各方面の方々の御尽力のお蔭と感謝申し
上げます。実験場での作業には、地元の町民7名に参加していただきました。
海上での回収作業には、大樹漁協の漁船や、近郊の港のクレーン船などに参
加していただきました。地元の皆さんとの「ちゃんちゃん焼き」の会では、
鮭、サンマ、トウモロコシ、ジンギスカン、などに舌鼓を打ちながら親睦を
深めました。

 当初の計画では、8月末から9月初めにかけての時期に、さらに2機ほど
実験を実施する予定でしたが、地上の天気と上空の風の両方の気象条件が良
好な機会が無く、実施できませんでした。

 8月末に関東や東海地方に連日記録的なゲリラ豪雨が発生した、いわゆる
「平成20年8月末豪雨」は、記憶にも新しいところですが、この主な原因
はジェット気流が平年と異なり大きく蛇行したことだと言われています。
気球実験に適した気象条件の一つに「ジェット気流がまっすぐ東に吹いてい
ること」があるため、異常気象が発生してしまうと、計画通りの実験実施が
どうしても難しくなってしまう傾向があります。

 大気球は熱機関や推力を持たない、とてもエコな乗り物なのですが、それ
ゆえに気象環境の影響を受けやすいというジレンマを抱えています。私たち
も、放球前の作業を屋内で行えるようにしたり誘導帰還システムの開発を進
めたりして気象環境から受ける影響の低減を目指していますが、そういう開
発のみならず、地球温暖化への取り組みも一層求められているのかもしれま
せん。(JAXAは温室効果ガスに関する「チーム・マイナス6%」に参加
しています)

 なにはともあれ、大樹での大気球飛翔に成功することができました。来年
度からの本格運用に向けて、さっそく準備を進めていきたいと思っています。

出典: ISASメールマガジン 第210号【発行日- 08.09.23】