飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

読書メモ(ブラックホールのTS(冨松‐佐藤)解)

2007-04-02 07:49:53 | 佐鳥新の教授&社長日記
書 名: 『パリティ2007年3月号』 p.61
執筆者: 松田 卓也
出版社: 丸善


 今回は知る人ぞ知る「TS解」について紹介する。

 TS(冨松‐佐藤)解とはアインシュタインの重力場方程式の厳密解の一つである。1972年当事、京都大学の大学院生であった冨松彰と、京都大学基礎物理学研究所の助教授であった佐藤文隆により発見された。アインシュタインが1916年に提案した一般相対性理論の骨格をなすのが重力場方程式である。これは2階の非線形偏微分方程式で、解析的厳密解を求めることは一般に極めて困難である。

 厳密解は大まかにいって、星のような孤立した天体が作り出す重力場を表す解と、宇宙全体を表す解に分けられる。前者の場合、最も有名なものはシュバルツシルトが1916年に導いた、球対称のシュバルツシルトの外部解である。これは後に、ブラックホールの存在を予言するものであることが分かった。シュバルツシルトの解に電荷を持たせたライスナー・ノルドストローム解、回転を持たせたカー解(1963年)、カー解に電荷を持たせたカー・ニューマン解などもある。

 カー・ニューマン解がブラックホールを表す最も一般的な解であると考えられてきた。その意味で、ブラックホールには質量、角運動量、電荷という3つの特徴しかないといわれている。

 これに対して、ワイル解という厳密解があり、この解を遠方から見ると重力場の四重極モーメントを持つことから、歪んだ物体の外部解とみなされる。もっとも、現実の天体はガスでできており、回転していない歪んだ星はありえない。その意味ではワイル解は厳密解ではあるが現実的ではない。冨松‐佐藤解は、ワイル解に回転を与えた解、あるいはカー解に歪みを与えた解と考えることができる。