飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

読書メモ(ブレーンワールドとは何か)

2007-04-01 16:11:11 | 佐鳥新の教授&社長日記
書 名: 『数理科学2004年1月号 特集「ブレーンワールド新展開」』
執筆者: 佐々木 節
出版社: サイエンス社




究極の統一場理論として期待されているものにM理論というものがある。ブレーンというのは英語の「膜」を表す単語(membrane)を基にした造語で、決して「脳」(brain)のことではない。

我々の住んでいる4次元時空が3ブレーンであるというブレーンワールド理論と、5次元目の時空(相互作用を表現するための空間)が小さくなくてはならないというカルツァ・クライン理論があるが、ここでは前者のブレーンワールド理論の特徴を紹介する。

我々がブレーンワールドの上に住んでいるということは、言い換えると、通常の物質やそこの間に働く相互作用はブレーンの上にのみ存在しているということを意味する。ブレーン上にのみ存在している我々からは、5次元目の空間がたとえ大きくても、電磁気力など通常の相互作用によっては、その大きさを感じ取ることができないのである。

 もっとも、時空を支配する力=重力はその限りではない。5次元目の空間ももちろん重力の支配は受ける。逆に言うと、5次元目の空間の存在は重力を通してのみ、その存在を確認できるのである。

 ブレーンワールド理論の幾何学的に最も重要な点は、それが我々に時空に対する認識の大きな変更を迫るという点である。我々はブレーン上に拘束された存在であり、ブレーンの外、すなわちバルク時空には決して出ら得ない。これはバルク時空が我々にとっては「宇宙の外」であることを意味する。しかし、バルク時空は物理的な空間として存在し、そこにも重力は及ぶのであるから、原理的には「宇宙の外」を通しての情報交換が可能になる。




図1 2次元平面ブレーンモデル。ブレーン上では遠く離れた2点がバルクから見ればすぐ近くにある例。

図1は2次元平面を折り曲げて3次元空間に埋め込んだ図である。次元を1つ落として、その2次元平面が我々のブレーンワールドであるとしよう。図の点Aと点Bは平面上には遠くはなれているが、バルク空間から見ればすぐ近くである。すると、ブレーンワールド内で点Aから点Bへの情報を伝えようとすれば A → C → B のような遠回りの経路を通らなくてはならないが、バルクを通ると瞬時に情報を伝えることが可能となる。すなわち、「光より速く」情報が伝わるのである。

 もちろん、このブレーンワールド上で一見因果律が破れたように見える現象は、バルクから見れば完全に因果的な現象であるから、タイムマシーンのようなパラドックスは起こらない。図1のような極端なブレーンワールドが現実的モデルとして存在するかどうかは保証の限りではないが、しかし、ブレーンワールド理論が従来とは全く異なる新しい時空像を提供することに違いはないのである。