★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
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第465回 ヘンな生物たち-造物主の気まぐれ

2022-03-25 | エッセイ
 造物主が(もしいるとすれば、ですけど)気まぐれで、面白がって造ったとしか思えない生き物たちがいます。「へんないきもの」(早川いくお 新潮文庫)から、その代表選手級を紹介しようという趣向です。遺伝子や進化の理屈を吹っ飛ばしそうな愉快な話題をお楽しみください。なお、画像は同書から拝借しました。

★海洋演芸大賞もの★
 思いっきりインパクトのあるものからいきましょう。その名も「ミミック(擬態、物まねする)オクトパス(タコ)」。画像右上のウミヘビ、右下のカニは、ほんの一例というから驚きです。



 狩りの時には弱い生き物に化けて相手を騙し、外敵相手には有毒生物に化けるという具合です。ご覧の例のほかに、エイ、ミニカサゴ、休憩中のタツノオトシゴ、ゆらゆら浮かぶクラゲなんてのも含めて「持ちネタ」は、なんと40種を超えるとも言われます。どれだけの奇跡が重なったら、こんな頭脳とカラダが出来あがるのでしょうか。著者が「海洋演芸大賞」を贈っているのに納得です。

★食うために生きる★
 ご覧の通りで、世界最小のほ乳類(体重10グラム)です。トガリネズミという名ですが、モグラです。



 あまりにも小さいため、体熱放射が激しく、エネルギーをまかなうために常に食わなければなりません、1日に自分の体重分も食べます。人間だったら60kgも食べる計算です。
 どんな相手だろうが構わず襲いかかります。ひたすら食って食って食いまくるしかなく、エサがなくなると3時間で死にます。生きるために食う、というより、食うために生きるという生き方です。随分厳しい生き方を選んでますよね。

★ひたすら待つ、待つ★
 え~っと、これが何かというと・・・・・・「ナガヅエエソ」という「魚」です。



 体長30センチほどで、水深600~1000メートルの深海に棲息します。異様に伸びた腹ビレ2本と、尾ビレ1本を三脚のようにしてじっと「立つ」のです。胸ビレが触覚センサーへと進化してエサを感知します。生きるための戦略は、エサが来るまで、エネルギーを温存し、とにかく待つ、ひたすら待つ、というもの。光も音もない深海で、ひたすら待つ・・・これも辛い生き方(そう)です。

★お願いして出来た?★
 「リーフィー(葉っぱのような)シードラゴン(タツノオトシゴ)」という名で、体長は40センチほどです。どう考えても造物主にお願いして出来上がったとしか思えません。ご覧のように、ものの見事に、海の藻屑に擬態しています。



 小エビなどをエサに、こちらもひたすら待つ戦略で、たまたま近くに寄って来たエサを、ストロー口で吸い込むという手口です。海草と間違えられて、パクっと食べられてしまいそうな随分アブナい生き方を選んだものです。

★昔の名前で出ています★
 今はほぼ死語のようですが、温泉マークからの連想で、男女がひと時を過ごす宿の隠語として「さかさクラゲ」というのが使われていました。生き物の世界では現役です。ご覧のとおり、一生を海底で、サカサクラゲのまま送ります。



 体内に「共生藻(きょうせいそう)」と呼ばれる藻(も)を飼育しているのです。クラゲは藻が光合成で作り出す栄養素をもらう代わりに、藻には排泄物を養分として提供するという共生関係が成り立っています。光合成してもらうためには、サカサになるしかないわけで、そんなお仲間がよく見つかったものです。

 いかがでしたか?もう少し「へんないきもの」がいますので、いずれ続編をお届けする予定です。それでは次回をお楽しみに。


第464回 「大阪発祥のモノ」語り-2

2022-03-18 | エッセイ
 パイオニア精神が旺盛で、新奇なアイディアを実現させるのが好き、というのが大阪人のひとつの特徴かもしれません。その成果(?)らしきモノ、サービスなどをご紹介するシリーズの第2弾になります(文末に、前回(第327回)へのリンクを貼っています)。ネタ元は「はじまりは大阪にあり!」(井上理津子 清風堂書店/ちくま文庫)です。久しぶりの続編をお楽しみください。

★お得感につながるアイディアで勝負★
 昭和30年代の日常的なお菓子といえば、グリコか、森永キャラメルでした。自分で買う時は、やっぱり「おまけ」に魅かれて、グリコが多かったですね。

 最近はあまり流行らないようですが、フィギュア付きのドリンクとか、お菓子がブームになったことがあります。レアなフィギュアを手に入れるために、「段ボール箱」買いする若者のことが話題になったりしました。
 その元祖とも言えるのが、1922年(大正11年)から、日本初の「おまけ付き」商品として発売を始めた「グリコ」です。

 当初の「おまけ」は、タバコをみならってカードでした。5年後から、豆玩具やメダルが中心になります。メダルは造幣局にも発注していたといいますから、本格的です。その後は、紙、土、ブリキ製の豆玩具を経て、戦後は、独自デザインで、プラスチック素材のミニ玩具へ、というのがざっとした「歴史」です。

 「おまけ」といえば、値段を安くするか、数量を増やしたり(八百屋だったら、「ネギ一束、おまけで、付けときまっさ」のように)するのが普通です。小さいとはいえ、違うジャンルの玩具を付けて、(カネにシビアな大阪の)子供でも分かるお得感に訴える・・・・・いかにも「大阪発祥」にふさわしい商品に懐かしさを覚えます。

★イチかバチかの勝負に賭ける★
 すっかりテレビ離れした私のお気に入りのラジオ番組は、「大竹まこと ゴールデンラジオ」(月~金 文化放送)です。テレビに比べれば注目度が低いということもあるのでしょうが、大竹本人やゲストのホンネトークが、連日炸裂しています。生ヌルイだけのテレビのコメンテーターの発言に飽き飽きしている身にはなんとも新鮮です。

 そんなラジオの世界で、日本初の「民放ラジオ」として、1951年(昭和26年)9月に開局したのが、「新日本放送」(現・毎日放送)です。
 民放開設を巡って、二転三転したGHQの方針が、1947年10月に確定します。そして、16社に予備免許が一斉に下りたのが、51年4月です。

 その中で、「新日本放送」が最初に開局できた「勝因」は、イチかバチかの見切り発車でどんどん準備を進めたことです。スタジオは、なんと、大阪のど真ん中、阪急百貨店の屋上に設けられていた新聞社の伝書鳩用の「小屋」、というのがすべてを象徴しています。当時の写真が残っています。



 いろんなところからかき集めた人たちが、ステテコ、アンダーシャツ姿で汗にまみれて、その「小屋」で準備に奔走したといいます。なりふり構わず、イチかバチかで一番乗りを目指すーーいかにも大阪的な努力が実ったのは何よりでした。

 テレビがなくなっても、いささかの痛痒も感じませんが、私にとって、ラジオだけは、ずっと残って欲しい情報源であり、娯楽です。大阪だけじゃなく、全国の民放ラジオさん、がんばってください。

 いかがでしたか?もう少しネタがありますので、いずれ続編をお届けする予定です。なお、前回へのリンクは<こちら>です。
 それでは、次回をお楽しみに。

第463回 あなたの日本語の語彙数は?

2022-03-11 | エッセイ
 だいぶ以前、幼児、子供が言葉を身につける能力とかプロセスを話題にしました(第259回 言葉を身につける(文末にリンクを貼っています))。私自身、日本語の習得に努力したなんて記憶はありませんし、親になって熱心に教えたつもりもありません。それでも、それなりに日本語が話せ、書けるようになっているのが不思議です。
 「日本語観察ノート」(井上ひさし 中公文庫)の「語彙数」という章を読んで、あらためてそんなことに思いが及びました。こちらの本です。



 それによると、満5歳になった幼児の持つ語彙数は、1050語前後(感嘆詞や固有名詞は除く)だというのです。
 根拠となっているのは、NHKラジオで1961年に始まった「ことばの誕生」という番組での調査結果です。全国から選んだ6人の0歳児の家に録音機材を設置し、テープは回しっぱなし。定期的に面接も行い、5年間追跡調査を行うという本格的なものでした。「幼児の用語」(1976年 岩渕悦太郎・村石昭三編 日本出版放送協会刊)所収の興味深いデータです。

 そこには、さらに「使用度数の高い20語」というデータも載っていて、上位から順に、「これ、居(い)る、ない、ここ、行く、する、いい、やる、くる、なに、ある、いや、こっち、こう、言う、どこ、取る、そう、なる、食べる」だといいます。今なら、「パパ」、「ママ」がランクインするはずですね。

 さて、1050語前後から始まった言葉の数が、成人になって、うんと増えているはずです。果たしてどれくらいまで増えているか、ご自身の語彙数(感嘆詞と固有名詞を除いて)をお知りになりたくはありませんか。
 同書によれば、なかなか面白い推計法が発案されたといいます。まずは、こちらの50の単語をご覧ください(便宜上、10ずつに区切っています)。

1.チャンピオン 2.祝日 3.爆発 4.ライン 5.さつま芋 6.毒ガス 7.枝豆 8.過ごす 9.朝風呂  
10.そもそも/
11.見極める 12.喜ばしい 13.本題 14.エンゲル係数 15.泊まり込む 16.預け入れる 17.言い直す 18.たしなみ 19.英文学 20.はまり役/
21.ごろ合わせ 22.労力 23.忍ばせる 24.勃発 25.宿無し 26.目白押し 27.請負い 28.塗り箸 29.気丈さ 30.茶番/
31.大腿骨 32.術中 33.泌尿器 34.血税 35.悶着 36.腰元 37.裾模様 38.旗竿 39.かんじき 40.すっこむ/
41.迂曲 42.告諭 43.辻番 44.ライニング 45.輪タク 46.懸軍 47.陣鐘 48.泥濘 49.釜がえり 50.頑冥不霊/

 これは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所が作成した「語彙数推定50問」で、使い方は簡単で、井上もそれが気に入ったと書いています。
 例えば、NO.1からNO.10まで知っていて、NO.11以下はわからないなら、推定語彙数は8800語です。以下、
 NO.15までなら1万3000語/NO.20までなら1万8000語
NO.25までなら2万3000語/NO.30までなら3万語
NO.35までなら3万9000語/NO.40までなら5万語
NO.45までなら6万語/NO.50までなら7万語

 私は、NO.41の迂曲で引っかかりました。それに続く単語でいくつか知っているのはありましたが、概ね5万語といったところでしょうか。
 井上は、NO.46の「懸軍(けんぐん)」が分からず、自らの語彙数を約6万と判定しています。「後方の連絡がないまま、遠く適地に入り込むこと。また、その軍隊」という軍事用語ですから、無理もないですが、さすがの語彙力です。

 皆さんはいかがでしたか?成人なら少なくとも3~4万という単語を基礎に、「て、に、を、は」、動詞などの活用、文の組み立てなどのルールを縦横に使いこなして、書いたり、しゃべったりしていることになります。ひとつの言語を操るってスゴいことですね。
 趣味としての英語は続けながら、日本語にも「更に」磨きをかけ、ブログをより良いものにしていかねば、と決意したことでした。
 なお、冒頭でご紹介した「第259回 言葉を身につける」へのリンクは<こちら>です。

 それでは次回をお楽しみに。

第462回 数学の楽園から

2022-03-04 | エッセイ
 小難しい話題は出てきません(たぶん?)ので、気軽に最後までお付き合いください。ネタ元は、「数学者たちの楽園」(サイモン・シン 新潮文庫)です。アメリカには「ザ・シンプソンズ」という人気アニメがあり、登場するのはこんなユニークな人たちです。


 シンプソン一家のちょっとしたドタバタを描いたアニメで、数学者が台本作りに関わっています。そのため、会話に数学のジョークが入っていたり、数式がなにげなく画面に登場したりと、結構ハイソで、遊び心に溢れているのを、本書で知りました。

 手軽で馴染みのある話題を選んで、ご紹介することにします。

★円周率の今★
 円周率(パイ)の値には、かのアルキメデスが、正96角形で円を挟むという長大な計算を、筆算だけでやってのけて、その値が、3.141と3.143の間にまで追いつめました。
 オランダの数学者コーレンは、なんと40億の10億倍という多角形を使い、円周率を小数点以下45桁まで求めたのです。彼の墓石には、その数字が書き込まれているといいます。円周率に捧げた一生、お疲れさまでした。

 さて、コンピュータが登場し、円周率の計算は、コンピュータの性能と、計算ロジックで勝負する時代になりました。
 1961年の10万0265桁から始まって、1981年100万桁、1989年10億桁と進み、2002年には1兆桁に達しました。こうなるとヤケクソでやってる気がします。
 
 そんな円周率を記憶する競争(?)があるんですね。本書執筆時点での記録保持者は、中国の呂超で、2005年に6万7890桁を暗唱した、といいますからスゴいです。
 そこまでは無理にしても、本書で、下7桁まで記憶する方法が紹介されています。
 "May I have a large container of coffee"という文を覚えます。各単語の文字数を並べると、
 3.1415926 というわけです。
 日本には、語呂合わせを利用したもっとスゴい記憶法があります。アタマの方だけ覚えていたのをネットで調べたらこうでした。
 「産医師異国(さんいしいこくに)に向(む)こう」で、3.14159265
 そして、「産後薬なく産婦みやしろに・虫さんざん闇に鳴くころにや・弥生急な色草・九九見ないと小屋に置く」と続きます。なんと、小数点以下、55桁まで覚えられます(文を覚えられれば、ですけど)。日本人の語呂合わせスキルが存分に発揮されてます。

★図形パズルで小休止★
 息抜きとして、シンプソン・アニメに登場したという図形パズルをお楽しみいただきましょう。左から右に5つの図形がある法則で並んでいます。6つ目の図形を当ててください。



 お分かりになりましたか?
 最初の図形は、数字の1と、その左右反転したもの(鏡像)をくっつけて並べたものです。以下、2から5まで、この法則で作った図形です。なので、正解は、数字の6を背中合わせか向かい合わせにした図形、ということになります。いかがでしたか?

★フェルマーもどっきり?★
 最後は、ちょっぴり数学っぽい話題に戻りましょう。
 「フェルマーの定理」のことを知ったのは、高校の数学の時間でした。言わんとすることはよく分かる定理なんですけど、300年近く経っても解決していないというのを聞いて、ちょっぴりロマンを感じました。その定理です。



 nが2の場合は、ピタゴラスの定理でお馴染みのように、x,y,zがそれぞれ 3、4、5とか、5、12、13とかいくらでもあります。ところが、nが3以上では、成り立たせる自然数がないというのが不思議です。1995年にイギリスの数学者・アンドリュー・ワイルズによって証明されましたが、アニメの画面にちらっと、こんな式が登場したというのです。
(1782の12乗)プラス(1841の12乗)イコール(1922の12乗)

 もし成り立てば大変です。フェルマーは間違ってたということになりますから。残念ながら、アタマの8桁までは同じ(254121025)ですが、残り32桁は違う数字です。惜しいっ!それにしても、どこからこんな数字を引っ張ってきたのでしょう。数学者の頭の中を見てみたいです。

 いかがでしたか?最後までお付き合いありがとうございました。それでは次回をお楽しみに。