★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
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第214回 奇人列伝−6 タイ・カッブほか

2017-04-28 | エッセイ

 前回、前々回と、日本の有名人の奇人ぶり、奇行を紹介してきました。今回は、再び、世界に目を向けて、いろんな国の有名人の奇行を紹介しようと思います。主な拠り所は、「世界変人型録」(ジェイロバート・ナッシュ 草思社 1984年)。世に奇人・奇行のネタと、それを渉猟するマニア尽きまじ、といった感があります(私もマニアのひとりかも知れませんが)。

 さて、著者のナッシュに寄ると、奇人たる条件がいくつかあって、

  1.尊敬されることこそないが、どこか人々に愛され、畏怖される人間でなければならない
  2.奇行が、日常的、かつ、生涯続くものでなければならない  など

 う~ん、そう言われればそうかも。では、さっそく、その条件に適う方々のごく一部を、同書から・・・・

<タイ・カッブ(1886-1961)>
 生涯打率3割6分7厘、通算安打4191本など大リーグ史上最強の打者とも言われる人物。野球と酒にひとかたならぬ情熱を注ぐ一方、野球で稼いだ金は、抜け目なく株や債券に投資し、巨万の富を築く蓄財の才能も持ち合わせていた。一癖二癖ありそうな人物です。



 で、彼を奇人たらしめているのは、生涯を通じての徹底したケチぶりである。家政婦には、ぎりぎり生活できる程度の給料しか払わなかった。出入りの食料品屋、洗濯屋、牛乳屋は、彼が納得する金額の請求書を出すまで、暴力沙汰まがいの脅迫をされるのが常であった。
 電気代節約のため、夜は、最低限の灯りしか点けないため、使用人はケガが絶えない。そして、ついには、自家発電装置まで作ったが、火災を起こし、あやうく、料理人を死なせかけるなど、その手の逸話に事欠かなかった。

<サルヴァドール・ダリ(1904-1989)>
 ご存知、シュールレアリズムの巨匠。スペインでの幼年時代から、精神病理学に新たな章を書き加えるほど様々な病的恐怖心を抱き続けた。その対象は、時計、糞便、死人の顔、腐敗した遺体、バッタ、蠅、蟻の群れ、コウモリ、自分自身の奇形の歯など、終生、多岐にわたった。

 幼少時代には、異常なまでの残虐性を発揮している。5歳の時、フィゲラスの街はずれにある15フィートの高さの吊り橋から、少年を投げ飛ばし、危うく死なせかけた、と自伝で書いている。
 若い頃には、虫がうようよたかったコウモリの死体を口の中で噛み砕いたこともある、というから、充分異常にして、奇人。

<ハワード・ヒューズ(1905-1976)>
 航空機、映画などあらゆるビジネス分野で活躍したアメリカを代表する大富豪。彼の潔癖症は、長年月をかけて、強迫観念にまで育っていく。ありとあらゆる細菌をおそれ、ホコリを忌み嫌った。

 60代後半からは、世間との交渉を断ち、自分の体の一部を成すものに、以上な執着を示し始める。髪も爪も切らず、排泄した尿を溜め、脱水症状を起こした体から落ちる皮膚の薄片まですくいとっていた。

 最晩年は、ラスベガスの高級ホテルのワンフロアをまるまる借りきり、ごく限られたスタッフだけに世話をさせる生活。いつも素っ裸で、髪、爪はのび放題・・・・・・異様な様であったとの当時のスタッフの証言が残っている。

 細菌恐怖の果ての、細菌まみれ、不潔の極み・・・・日本の泉鏡花を思わせるバイ菌恐怖、脅迫神経症ぶりで、なんとも皮肉な人生の結末に思える。


 都合6回にわたってお届けしてきた「奇人列伝」ですが、とりあえず、今回で打ち止めになります。新しいネタが集まりましたら、またお送りしたいとは思っていますが・・・・

 という次第です。それでは、次回をお楽しみに。


第213回 大阪の難読地名その3(「放出」ほか)大阪弁講座25

2017-04-21 | エッセイ

 大阪の難読地名シリーズの第3弾をお届けします。先日、ネットを見ていたら、東京の難読地名第2位に「九品仏(くほんぶつ)」が入ってました。東急電鉄の駅名にもなってる、「珍しい」地名ではありますが、「難読」ではないような気がします。では、「本場」大阪の難読地名をお楽しみください。

<< 放出(大阪市鶴見区 難読度2) >>
 この地名を出す時、「ほうしゅつ」と入力しました。大阪市内の東の端ぎりぎり辺りに位置します。読み方は「はなてん」。突拍子もない読み方みたいですが、「放つ+出る」が「はなでん」、そして「はなてん」の連想ゲームで、考えて見れば、ありうる読み方。

 私も、う~ん、車で何回か通ったかなあ、という程度の場所で、それほどメジャーでもありません。なのに、なんで難読度が低いかというと、「ハナテン中古車センター」があるところだから。でも関西人にまともに読んでもらえないことも考慮したんでしょうか、「ハナテン」とカタカナにしてるのが笑えます。いかにもの派手な看板です。


 小さい頃、地元のテレビ、ラジオで、「ハナテン中古車センターぁ~~~~」というベタなCMをイヤというほど聞かされました。それが刷り込まれて、オッチャン的には、知名度が高いので、難読度は2。

<< 枚方(大阪府枚方市 難読度1) >>
 大阪と京都の中間辺りに位置するこじんまりした住宅地。ほとんどの関西人から、「どこが、難読やねん」と言われそうなくらい、関西では馴染みの地名です。
 それというのも、「ひらかたパーク」という(関西では)有名な遊園地があるから。みずから名付けた愛称が「ひらパー」という脱力系。実際に、コマーシャルでも、「ひらパ~~~」と言うベタなのを流してました。

 私も小さい頃、よく連れていかれました。今ならどうってことない水上ジェットコースターというのがあって、まさに池に突っ込むかの如き恐怖を味わって、見事トラウマ。それ以来、この手のものはダメになりました。秋は、菊人形(今も規模を縮小して続けてるようです)。
 「枚」を「ひら」と読むのは、だいぶシンドイですが、ひらひらした紙を1枚、2枚と数えるイメージからの読み方かも。
 関西人なら、誰でも読めるので、難読度は1。

<< 靭本町(大阪市西区 難読度3) >>
 西区とはいいながら、キタの中心のJR大阪駅、梅田にもほど近いビジネス街。サラリーマン相手の手頃な飲み屋が、あちこちにあって、よく通(かよ)ってました。

 「靭」を「うつぼ」で、「うつぼほんまち」。だけど、団塊世代の関西のオッチャンにとっては、なんといっても「靭公園」。日比谷公園とええ勝負の、けっこう広い公園で、デモ、集会の集合場所として、60年代~70年代に、ニュースなんかでイヤというほど登場してました。
 そういえば、清水谷(しみずだに)公園、扇町(おうぎまち)公園なんかも、大阪ではテッパンの集合場所。ちょっとほろ苦い想いも込めて、難読度は、適当に3。

<< 信達童子畑(大阪府泉南市 難読度5) >>
 ネットから拾ってきたネタです。問題は、「童子」の読み方。「どうじ」(「八瀬童子(やせのどうじ」とか)か、「わらし」(東北の妖怪「座敷わらし」とか)と読みそうですが、「わらづ」と読むんですね。変に、ナマってる・・・
 あとは、まんまで「しんだちわらづはた」が正解。地元の人しか知りそうもないので、難読度は5。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

<追記>難読シリーズへのリンクです。<第186回<第199回><第231回>。合わせてお楽しみください。


第212回 壮大なウソ

2017-04-14 | エッセイ

 映画「風と共に去りぬ」を劇場で観たのは、中学生の頃でした。アメリカでは、戦前に封切られたものをリバイバル上映してたことになります。史上最高の傑作などと謳われるだけあって、息の長さに驚きます。

 その割には、例のアトランタの大炎上シーンくらいしか記憶になく、ストーリーも殆ど覚えてません。(今でもそうですけど)まして、中学生の当時、男女の機微には、まるっきり疎かったですから・・・
 主役のビビアン・リーについても、実は、あまり印象に残っていません。ただ、当時の記憶では、とにかくこの映画で、彗星のごとく、華々しくデビューしたスゴい女優だというイメージと知識だけが残ってます。こんな女優さんでした。

 ところが、「世界ウソ読本」(M・ハーシュ・ゴールドバーグ 文春文庫)を読むと、事実は、どうも違う。「ウソ」というのは、言い過ぎにしても、映画ファンの多くが、巧妙ななキャンペーンに乗せられた、というのが真相のようです。

 仕掛人は、ハリウッドの腕利きプロデューサーのセルズニックという男。

 小説の映画化権を、当時としては破格の5万ドルで購入するところから話題作りは、始まりました。レット・バトラー役のクラーク・ゲーブルは、すぐに決まったが、緑色の目をした、美しく強情なスカーレット・オハラ役の女優がなかなか決まらない。

 そこで、セルズニックは、ピッタリの女優を見つけるために、全国キャンペーンを実施すると発表。キャサリン・ヘップバーンなど、名だたる女優も応募してきますが、あえなく落選。

 さらに、くまなく探すため、5万ドルが追加投入されて、誰でも応募出来るオーディションが全米各地で、準備期間の2年目ぎりぎりまでおこなわれる騒ぎとなった。

 撮影開始が近づき、スカーレット熱が高まる中、セルズニックが、ついにスカーレットを見つけた、と発表しました。

 それによると、山場の炎上シーンの直前に、ビビアン・リーというイギリスの女優が、セルズニックの弟(ハリウッドで、タレントエージェントをしている)に連れられてやってきた、というのです。「炎のような激情を秘めた」目を持った彼女を一目みて、セルズニックは、彼女こそ、スカーレット役だと確信し、3回のテストで採用を決めた・・・・・・と「発表」されました。

 発表通りだとすれば、いかにも劇的な出会いですが、実は、ビビアン・リーは無名ではありませんでした。イギリスで数多くの舞台を踏んでおり、何本かの映画にも出演歴があり、その美貌と演技力は、数多くの人の注目を集めていた「女優」です。

 その上、セルズニックが、ビビアン・リーに紹介されたのは、炎上シーンの撮影が終わり、セットが取り壊された後だったと言う事実があります。

 通常は、メモや日記をきっちり残しているセルズニックが、リーの抜擢に関しては、何も記録を残していないのも不自然。

 結局、リーの採用は、早くから決まっている「出来レース」で、一連の「騒動」は、映画を大成功に導くためのキャンペーンであった、と理解すれば、腑に落ちる。そして、まんまと映画は、大成功というのが、本書の謎解き。

 今どきのテレビ業界を見ると、とにかく視聴率を取らんがためのミエミエで、卑しく、小手先の仕掛けが目に余る。ドラマの主役を、あちこちのつまらない自局の番組にゲスト出演させての話題作り・露出、番組宣伝丸出しの「特別番組」放映、果ては、新聞のテレビ欄での宣伝などなど。

 それと比べて・・・という話になりますが、「風と共に去りぬ」では、映画ファンのほとんどが、乗せられたというか、騙されていたことになります。でも、ウソもこれくらい壮大につかれると後味は悪くない、と思います。

 ハリウッドという(かつての)夢の世界のスケールのデカさにあらためて感心します。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。


第211回 ニューヨークのイギリス人

2017-04-07 | エッセイ

 若い頃、仕事でニューヨークに行ったことがあります。中心部は摩天楼だらけで、見上げても空が、ほんの少ししか見えなかったのが印象に残ってます。
 海外の乗物が好きなので、地下鉄にも乗ろうと思ったのですが、当時は治安が悪く、地下の薄暗い改札口から、こわごわ地下鉄の駅の構内を覗くのが精一杯で、いまだに残念無念。

 さて、「An Englishman in N.Y.」(Colin Joyce NHK出版)という本があります。ガーシュイン作曲の「パリのアメリカ人」ならぬ「ニューヨークのイギリス人」というわけで、イギリス人の著者が、2010年まで滞在したニューヨークのあれこれ話をまとめたものです。

 新書判サイズで、1話4~5ページのエッセイが、25話ほど収録されています。活字も大きめ、行間もゆったり取って、ちょっと難しい単語には注釈付き。私みたいに、やさしい英語なら触れてみたいというシニアには、そんな工夫がありがたい。  
 その中から、2つほど、興味深いエピソードをご紹介します。

<気まぐれな地下鉄>
 ロンドンと並んで、ニューヨークの地下鉄もよく知られています。最近は車両もこんなにきれいになり、治安も改善しているようです。

 でも、著者にはいいたいことがあります。それは、その運行がかなり「気まぐれで、いい加減(=erratic)」ということです。
 例えば・・・
 同じ駅なのに、路線によって駅名が違う。
 Q路線では、”Atlantic Avenue"という駅名が、R路線だと、"Pacific Street"になると言う具合。
 逆に、4つは、まったく別々の駅なのに、駅名はすべて同じで、"Canal Street"のような例も挙げられてる。
 電車の到着ホームもかなりいい加減。3番線の電車が、4番ホームに入ったり、上りの電車が下りのホームに入ったり(もちろん、その逆も)が、ごくありふれた現象のようです。

 割合、きっちりと運行されてるイギリスから来ると、この「気まぐれ」には、やっぱり馴染めないみたいですね。

 でも、お奨めとして紹介されてるのが、30日間有効パス。ニューヨーク市の交通機関(地下鉄、バスなど)が、30日間載り放題で、89ドルだという。一日300円ほどですから、ニューヨークに腰を落ち着けて、じっくり見て回ろうという向きには、便利そう。

<ダイヤル311>
 日本の110番、119番に当る電話番号は、アメリカでは、911、というのはよく知られています。私も知らなかったのですが、「311」という特別な電話番号があるんですね。

 ニューヨーク以外の大都市でもやってるとのことですが、行政が提供している24時間の電話サービスです。警察、消防を呼ぶほどではないけれど、日常の困ったことの相談やら苦情申し立てなんかが出来る、というんですから、なかなか便利そう。

 道路に穴が空いてる、ゴミの分別方法を教えてくれ、家主が約束の修理をしてくれない、などなど扱う案件は幅広いです。ニューヨークの場合、平日平均で、5万人からの電話を受けるというから、その盛況ぶりにも驚きますが、なかなか気の利いた行政サービスですね。

 実際に、著者が相談したのは、騒音問題。
 住んでいるアパートメント1階のバーが、連日、朝の4時頃まで大音量で音楽を流し続ける。困り果てた筆者が、311に相談すると、ネットで正式に苦情を申し立てる方法も教えてくれたが、電話を受けたオペレーターが、近くの警察に通報しておく、と気を利かせてくれました。

 あまりアテにもしないでいたら、1時間もしないうちに、警官がそのバーに来て、警告を与えてくれて、音はすっかり小さくなったそうだ。その後しばらくして、客足が落ちたのか、そのバーは、閉店に追い込まれた、というのがオチで、締めの文章は、”Thank you 311.”

 その気持ち、よくわかる。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

<追記>同著者による「Let's England」を後ほど「第317回 英国暮らしの傾向と対策」で取り上げています。リンクは<こちら>です。合わせてご覧いただければ幸いです。