★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
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第423回 大阪弁講座45 「ぼやく」ほか

2021-05-28 | エッセイ

 第45弾をお届けします。

<ぼやく>
 根っからの大阪弁とは言えないかもしれません。でも、「愚痴る」とか「こぼす」に比べれば大阪人の使用頻度が飛び抜けて高い気がしますので取り上げることにしました。
 自分の不甲斐なさを、人に聞いて貰って、少しでも解消したい、加えて、自虐的に笑いを取れたら言うことなし・・・大阪人に好まれるはず。
 「いつまでブツブツ「ぼやいて」んねん。済んだことはしゃあない(仕方がない)やろ。元気出しっ」

 名詞形は、「ぼやき」。これで思い出すのが、小さい頃、よく聞いた人生幸朗(じんせい・こうろ)と生恵幸子(いくえ・さちこ)コンビの「ぼやき漫才」。生前のこんな画像をネットで拾ってきました。懐かしいです。

 「まあ皆さん、聞いてください」がお約束の口上で、幸朗の「ぼやき」が始まります。歌謡曲のタイトルやら、歌詞の不自然さをあげつらって笑いを取る芸風で、いつも腹を抱えていました。

 井上陽水の「夢の中へ」への「ぼやき」を思い出すまま、再現してみます。

 「唄のためにどえらい目に遭いましてん」と口火を切る幸朗。
 「この前、家で私ね、煙草吸おうと思たら、マッチもライターもおまへんね(ないんです)」
 「どこへやってんなと探してるところへね、ちょうどね、この唄が流れてきよって、文句聞いた
  とたんに頭へカチ~ン」
 「探しものはなんですか?見つけにくいものですか?机の中も鞄の中も探して見つからんの
  になにしてますか?って、ほっとけ!ぼくと踊りませんかぁ?誰が踊るかえ!こっちゃ煙草吸
  いとうてイライラしとんねんや。まだまだ探す気ですか?ぼくと踊りましょ?ど突きまわした
  るぞぉ~っ!」

 書きながら、一人笑いしてしまいました。

<不細工>
 アブない言葉を取り上げますが、大阪弁的用法がメインですので、ご安心(?)ください。
 
 広辞苑には、「1.細工のまずいこと 2.体裁の悪いこと。また、容貌の醜いこと」と載っています。全国的にも通用しそうです。でも、大阪人の使用頻度が突出して高いように感じます。

 広辞苑とは逆の順番になりますが、「容貌の醜いこと」というのが、どうしても先には来ます。あけすけな物言いを好む大阪人なので仕方がないのかも。「ブッサイク」という最上級の表現があるという程度の説明にとどめておきます。くれぐれも良い子はマネしないでくださいね。

 広辞苑の2番目に挙げられている「体裁の悪いこと」という意味で、広く使うのがいかにも大阪的です。
 
 まずは、身のこなし、挙措、動作などの「体裁」がみっともない、よろしくないことを指して使います。
 「女の子はな、お尻をキュッと締めて歩きなはれ(なさい)。だらだらした背中は「不細工」やで」と口うるさいオバさんが言ってたり、「地面見ながらボソボソ歩くのは「不細工」やで。みっともないから止(や)めとき」などの用例が思い浮かびます。

 ついで、世間のマナーや常識、礼儀などの「体裁」に反して、カッコ悪い、品位がない・・・みたいな感じで使うケース。
 「こっちはお祝いの席に呼ばれてんねん。そこへ、祝儀も持たんと手ぶらで行くやなんて、そんな「不細工な」ことできひん(できない)やろっ!」というのが、最適の用例で、バランス感覚を大事にするいかにも大阪弁の世界です。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。


第422回 <再掲>東京五輪の「非注目」種目

2021-05-21 | エッセイ

 東京五輪をめぐるドタバタ劇に辟易としながら、少し前にアップした記事(第335回(2019年9月))を再掲載する気になりました。開催する、しないに関心が集まるのは当然として、五輪のあり方そのものにも目を向けて欲しいとの思いからです。

 昨今の五輪は、スポーツというより「カネ、カネ、カネ」優先の「興行」のように見えます。興行ですから、実はこんなマイナーな競技まであるんですよ、と(アスリートには申し訳ないですが)皮肉っぽいトーンで記事に仕立てました。あくまでひとつの切り口としてお読みいただければ幸いです。
  
★ ★以下、本文です★ ★
 自宅近くのスナックを手伝っているおネエさんは、オリンピックの「入場式」の熱烈なファン。「私ね、入場式だけは必ず見るの。知らない国とかいっぱい出てくるでしょ」「リヒテンシュタインとか?」「そうそう。そんな国が入場してきたら、一体どこにあるんだよとかって、地図帳広げて調べるの」「へえ~、変わった楽しみ方だねぇ。で、競技の方には興味ないの?」「全然!見るのは入場式だけ(きっぱり)!」

 そこまで極端ではありませんが、私も、オリンピックそのものにあまり関心がないクチ。たまたま、日本が強そうな競技をテレビでやってて、他にすることがなければ見るかな~、という程度のファンです。そんな「へそ曲がり」ですので、あまり「注目されてない」(と、私が独断で決めた)競技の「見どころ」を、大会組織委員会のサイトも参考に、ご案内しようと思います。

<オープン・ウォーター・スイミング>
 水泳競技の一種目です。お台場海浜公園沖に設けられた外洋のコースで、男女とも10kmのレースを争います。水泳の原点とも言えるワイルドな競技で、それなりの意義はありそうです。

 ただし、選手ではなく、主催者団体が戦わねばならない相手が2つあります。
 一つは、上限が31度と決められている「水温」です。真夏の大会ですから、基準をクリアするのは厳しそう。
 もう一つは、大腸菌です。今年8月のトライアスロンのテスト大会では、大腸菌の数字が、国際水連の定めた基準の2倍あったため、スイムは中止になりました。大会中は、防護膜などの対策を講じるというんですが、競技が行われるかどうかが、この種目の一番の「注目ポイント」かも。

<サーフィン>
 昔はナンパのツールだった、とのイメージがある私みたいなオジさんは、隔世の感を覚えます。

 まずもって、波という自然が相手です。「刻々と変化する波にどのタイミングで乗るかが重要になる。自然の中で運を味方につけながら戦うスポーツがサーフィンなのだ。」(同サイトから)とすごいことが書いてあります。運任せの要素に加えて、(常々私が疑問を感じている)採点競技です。果たして五輪の競技にふさわしいのかなぁ、というのが素朴な疑問。
 男女各20人が、10本前後のライディング(波乗り)を行い、技の種類や難易度、スピード、パワーなどをジャッジが採点し、高い2本の合計得点で勝敗を決する仕組みです。

 ひとつの波に乗れるのは、ひとりだけです。崩れる直前の波の頂上(ピークと呼ばれます)に一番近い選手にその波に乗る「優先権」があります。そこにいろいろ「駆け引き」の入り込む余地がありそうな「競技」です。「技」とか「テクニック」というと堅苦しいので、「芸」を楽しむつもりでの観戦がオススメです。

<スポーツクライミング>
 人工の壁に設けられたホールド(突起)を利用して、素手とクライミングシューズだけで、スピード、到達の高さなどを競う競技です。同サイトから画像を借用しました。

 「スピード」、「ボルダリング」、「リード」の3種目がありますが、何といっても注目は、「スピード」ですね。高さ15メートルの壁を登るタイムを競うのですが、他の種目と違って、ルートの設定は世界共通の固定です。いくらでも、事前の練習ができますので、優勝タイムは、男子で5~6秒、女子で7~8秒という早さ。せっかちな人は、要注目かも。

 と、あまり注目されそうもない3競技を案内してきましたが、いかがですか?
 選手・観客への暑さと熱中症対策、競技施設の完成具合、ボランティアも含めた運営体制などなど、競技よりも、その周辺のことが、注目、話題を集める大会になる予感がします。

 それでは次回をお楽しみに。


第421回 「小論文」の珍問

2021-05-14 | エッセイ

 幸いにも(?)私の頃にはありませんでしたが、今は、「小論文」を入試科目に採用している大学、学部がたくさんあります。
 テーマとか、文書資料が与えられ、具体的な事例や、あなた自身の意見、考えを600~800字程度でまとめなさい、というのが主流です。
 採点は大変でしょうが入試にはふさわしい科目です。大学も知恵、工夫はこらしつつも、テーマは堅いのが多そうな気がします。

 タイトルからお察しのとおり、珍問というのはちょっと失礼ながら、ユニークな出題例をご紹介します。ネタ元は、「日本語観察ノート」(井上ひさし 中公文庫)です。

 その課題とは「この試験の終了後、自由時間(12時間)と自転車を与えられたなら、どこを訪ねたいか。場所と理由を述べよ。」というもの。信州大学理学部生物学科の出題(出題年について、本書に記載はありません)です。
 出題者の狙いとか、回答のヒントみたいなものを、私なりの気軽な立場で、あれこれ思いめぐらせてみますので、しばしお付き合いください。

 県内5カ所のうちの「伊那キャンパス」です。さすが、豊かな自然と緑に恵まれていますね。

 まず思い浮かぶのは、信州という地域性です。近隣、地元からの受験生の場合、土地勘がある分の有利さはあるとしても、日頃から地域のことにいかに関心を持ち、情報を集めているかが問われます。
 遠方からの受験生にとってはどうでしょう。(わざわざ)信州という地を選ぶからには、事前の情報収集もしっかりしているはずだよね、との出題者の声が聞こえてきそうです。信州という地での学究生活にかける熱い想いの一端を書き込みたいですね。

 さて、訪問先です。生物学科ですから、山、川、森、公園など自然に恵まれた場所を「具体的に」、「理由もしっかり」書き込めば合格点は確保できそうです。でも、訪問先のバラエティも考えたいところ。生物学に限りませんけど、学問は、自然、環境、人間、社会、歴史などいろんな分野と関わりがあり、裾野が広いです。名所旧跡、神社仏閣、歴史的遺産など、生物学とは関係ないところも、(抜け目なく)訪問先に加えて、関心の広さをアピールしたいところです。

 かくして、訪問先(とその理由)をズラズラっと並べるのも悪くはないでしょう。でも、学問には必要な情報を「探す」という作業が欠かせません。時間はたっぷりあるのですから、訪問先につながる情報を「探す」のにも目を向けたいところです。

 まずは街の本屋さんで、当地や周辺地域の地図を購入するというのはどうでしょう。どんな面白そうなところがあるかの見当をつけるわけです。そうそう最寄りの神社を見つけて「合格祈願」なんて手もありかも(ユーモアを解する採点者に当たればいいですが)。さらに公共図書館に立ち寄って、詳しい情報を集める。訪問先の固有名詞までは書けなくても、なんとかこじつければ、その姿勢、意欲は評価されそうな気がします。

 その上で、「生きた情報」の収集もしたいですね。書かれた情報もいいですが、やはり「ヒト」です。駅、公園などヒトが集まる所に足を向けて、地元のヒトからいろいろ情報を得る、また、「市場」をじっくり見て回って、お店の人と会話を交わす、なんて手もありますね。
 「今の季節、旬の野菜はなんでしょう?」「地元の特産品といえば?」など人との交流も楽しみながら、生きた知識を仕入れる・・・研究では人との触れ合いも大切ですから、私が採点者だったら、その心意気に高得点を与えたいです。

 とまあ、我ながら気楽な立場で、勝手なことを書いてきました。

 同書には、アメリカ版小論文の出題例も載っています。「晩年になってあなた(受験生)は300ページの自伝を書いた。そこで、その自伝の288ページ目を全文、ここに書き写しなさい」というものです。

 今の私だったら書けなきゃいけない(?)課題です。受験生に何十年も先のことを想定して、「自伝」を書かせる・・・自分の歩んできた人生を振り返る形をとって、人生そのものや世の中との向き合い方、職業観、結婚観、家族観などを記述させる、珍問どころか巧妙な出題ですね。

 考えてみれば、このブログも、課題テーマなし、採点なしの気楽な「小論文」みたいなものです。愛読者の皆様から合格点(見えませんけど)をいただけるよう一層の研鑽を決意しました。

 いかがでしたか?それでは、次回をお楽しみに。


第420回 パンチがポンチになるまで

2021-05-07 | エッセイ

 いきなりですが、だいぶ前に骨董市で手に入れたものです。

 高さは12センチほどの真鍮製で、地球が刻まれた球の上に道化師らしき人物の頭部が乗っています。
 ただの置物のように見えますが、球の底部にオモリが入っていて、起き上がり小法師(こぼし)になっています。球の上部に、
 ”ALWAYS ON TOP "(常にトップ(てっぺん)に)と刻んであって、なるほどと思わせます。

 この人物の名は" Punch (パンチ)"で、イギリスでは大人も子供もよく知っている人形劇のキャラクターだ、というのを後ほど知りました。(かつて)世界に君臨したイギリスらしいユーモアとシャレ心に感心し、大切にしています。

 最近、「雑学のすすめ」(清水義範 講談社文庫)を読んで、この人形劇のことや、Punchという言葉が広く使われるようになった歴史を知って、興味を引かれました。私なりに調べたことも加味してご紹介します。

 その人形劇ですが、家の中のように作られたワクのある舞台(縦50センチ、横80センチほど)で演じられます。ストーリーはひとつだけ。亭主であるPunchと、その妻Judy(ジュディ)の凄まじい夫婦喧嘩がテーマです。
 パンチがジュディに文句を言うと、気の強いジュディは棍棒を持ち出す。パンチも棍棒で応戦し、ジュディを殴り倒す。取っ組み合ったり、殴り合ったりする。止めに入った警官までが殴り倒される騒ぎで、果ては死神までが殴る倒される始末。
 イギリス人が好きそうなブラックユーモア劇で、今でも街頭で演じられているとのことです。

 さて、1841年にイギリスで、"PUNCH"という週刊風刺漫画雑誌が創刊され、そのイメージキャラクターに先ほどのPunch君を採用しました。広く知られている上に、その特異なキャラ、そしてPunchという名が、風刺で世の中にPunch(=一撃)を、という雑誌のコンセプトにぴったりだったから、と推測しています。1992年に部数減で廃刊になるまで、約150年という長命の雑誌でした。1953年11月25日号の表紙です。ちゃんと左側にPunch君を配しています。

 とまあ、これだけなら、イギリス限りの話題ですが、幕末の日本でもその派生雑誌が発行されていたというのを知ってちょっと驚きました。1862年といいますから、横浜は開港した(させられた)維新直前の時期です。横浜居留地で,"THE JAPAN PUNCH"という風刺漫画雑誌が、在留外国人向けに創刊されました(1887年に廃刊となっています)。

 本家の雑誌とは直接関係ないようですが、PUNCHが風刺雑誌の代名詞として定着していたことを窺わせます。Punch君をキャラとしているのですが、ご覧のように、チョンマゲを乗せて、日本人化しているのが笑えます。

 掲載されていた漫画の画像を探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。代わりに、同じ時期に発行されていた"TOBAE(トバエ)"という風刺雑誌から、こんな画像が見つかりました。

 朝鮮を狙う日本と中国(清)、虎視眈々と横取りを企てるロシアという、当時の国際情勢の風刺漫画です。中学か高校の歴史教科書で見た記憶があり、懐かしくなりました。

 漫画ですから当時の日本人にも面白がる人たちがいたようです。「Punchの絵」が日本的に訛って「ポンチ絵」として広く一枚ものの漫画を意味するようになりました。
 そういえば、サラリーマン時代、何かというと「文章はええから、ポンチ絵を描いて説明してくれ」と、(まさか漫画ではなく)分かりやすい絵解き、フロー図のようなものをよく求める上司がいました。イギリス発祥で、幕末まで遡る歴史のある言葉だったんですね。

 ところで「いかれぽんち」という言葉があります。アタマの働きがいささか悪い人物を指します。大阪あたりの商家では、男の子のことを多少の敬意を込めて「ぼんち」と呼んでいました。「ぼっちゃん」が転訛したもので、今回のパンチー>ポンチとは関連がない、というのが清水の説明でした。
 そこまで繋がれば面白かったんですけど、ちょっと残念です。と、最後はちょっぴり大阪弁講座を兼ねました。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。