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第575回 「ムー大陸」の謎を楽しむ

2024-05-10 | エッセイ
 古代文明とか古代遺跡などに関心のある方々なら、「ムー大陸」伝説はご存知でしょうか。この伝説の真偽を熱く語るつもりはありませんので、ご安心ください。伝説の由来と概要をざっとご説明した上で、(ムー大陸との関連を信じる人たちもいる)太平洋の島々に残る謎の遺跡をご紹介します。ネタ元は、「失われた文明の謎」(藤島啓章 学研M文庫)です。関心のない方にも、古代の夢とロマンにちょっぴり浸っていただければ、と思います。最後までお付き合いください。

 謎に満ちたムー大陸を世界に初めて紹介したのは、イギリス系アメリカ人のジェームズ・チャーチワードなる人物です。彼は、19世紀末、イギリス陸軍の軍人としてインドに駐在していました。その時、ヒンドゥー教の古い寺院に秘蔵されていた「ナーカル碑文」なる粘土板文書によって、ムー大陸の存在を知ったというのです。そして、退役後の1931年に「失われたムー大陸」を刊行し、世界にセンセーションを巻き起こしました。ただし、寺院の名前、碑文などは明らかにされておらず、信憑性は低いとされています。何はともあれ、彼の描くムー大陸像です。
 その規模ですが、東はハワイ諸島、西はマリアナ諸島、南はフィジー、トンガ諸島、東南はイースター島にも至る、東西8000キロ、南北5000キロにも及びます。5万年前に人類が誕生し、ムー帝国なる祭政一致の帝国を築きました。帝王で最高神官は、ラ・ムーと呼ばれ、ラは太陽、ムーは母を意味しますので、母なる太陽の帝国、というわけです。最盛時の人口は6400万人。10の民族から構成され、マヤ族は、中央アメリカで古代マヤ文明の担い手となり、ウィグル族は、蒙古からシベリアへ進出するなど、世界各地に植民地を展開しました。
 栄華を誇ったムー帝国に滅亡の時が来たのは、約1万2000年前のことです。大地震と大噴火が大陸全域を襲い、大帝国は一夜にして海中に没してしまいました。マヤ、ウィグルなど植民地の人たちは生き延びたものの、文明は衰退しました。以上が、「伝説」の骨子です。

 さて、実際に存在したかどうかについては、いささか分が悪いムー大陸伝説ですが、その存在を熱く信じる人たちもいます。根拠として、太平洋には、謎の遺跡が残る島々が多く点在することを挙げ、それらはムー大陸の一部だ、という主張です。また、これらの島々の多くが、かつて大洪水のために海中に没した巨大な島の伝承を語り継いでいることも、チャーチワードは例証としています。おっと、これ以上深入りするのはやめておきます。太平洋に残る遺跡のいくつかを同書からご紹介し、夢とロマンを共有することにしましょう。

 トップバッターは、イースター島です。南米大陸まで350km、最も近い無人島まで1600kmも離れた絶海の孤島です。この島を有名にしたのが、ご存知、巨石人像モアイ。

 大きなものでは、高さ20メートルで90トンに達するものもあります。約117平方キロの島で、数百体もの像を、どんな目的で、誰が、どうやって作り、どう運搬し、どう設置したのか、など今だに謎だらけです。ぎりぎり、ムー大陸の東南角に位置するというのが、ムー大陸ファンの心を熱くしているようです。
 ついでご紹介するのは、各地に残るピラミッド型遺跡です。植民地とされるマヤには数多くのピラミッド型遺跡が残っています。ウシュマルに残る「魔法使いのピラミッド」です。

 マヤだけでなく、タヒチ島などにも、中央アメリカのピラミッドを想起させるマエラと呼ばれる石造建設物があります。建造のための技術などが、かなり広く伝播していたことを思わせます。
 次にご覧いただくのは、マルケサス諸島のヌクヒバ島に残る「チキ神」と呼ばれる石像です。

 大きな目を持ち、口から舌を出すという異様な姿をしています。タヒチ島やハワイ諸島にも同種の石像があるとのことで、こちらも、なんらかの交流があったことを窺わせます。

 最後にご紹介するのは、ミクロネシア連邦のポンペイ本島に謎を秘めて眠る「ナンマドール遺跡」です。チャーチワードも「ここ(ポンペイ本島)にある遺跡は、南太平洋諸島中でも最も注目すべきものだ」(同書から)と熱く書いているといいます。

 約80万平方メートルの海域に、大小合わせて92の人工島が築かれています。水深1~2メートルの海底上に柱状玄武岩を積み上げ、城壁、宮殿、神殿、住宅などが建てられているのです。最大規模を誇るのは、神殿の島と呼ばれ、縦150メートル、横70メートルの巨島で、厚さ2.3メートル、高さ10メートルの外壁で囲まれていて、さながら城塞都市。チャーチワードの10万人は誇大としても、著者は少なくとも1万人規模の都市と推定しています。炭素14法による年代測定によれば、完成はおよそ800年前だといいますから、比較的新しいです。それでも、謎だらけ、というのは、これまでご紹介してきた遺跡と同様です。

 身近な太平洋にも、まだまだ謎を秘めた遺跡群があるのを知って、私は古代への夢がちょっぴり広がりました。皆様はいかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。
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