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第307回 最新図書館事情−2

2019-02-22 | エッセイ

 公共図書館も利用してもらってナンボ、の世界です。ネットでの検索機能の強化、居住地以外の周辺図書館の相互利用など、都内の公共図書館が取り組んでいる基本的な施策を、前回(第126回)ご紹介しました。今回は、その続編として、その後のトピックをいくつかお届けします。

 多摩エリア在住ですので、この地域の図書館をよく利用します。なかでも、府中市立図書館は、中央館に自動書庫を備えるなど、古い本から新しい本まで、図書館の命ともいうべき蔵書が充実しているので、自然と足が向くことが多いです。

 先日、そこにアンケート用紙が置いてありました。こういうのは好きなほうなので、回答を進めていくと、終わりの方に、「図書館の運営を民間に委託することをどう思うか」という設問がありましたので、迷わず「絶対反対」と大書しました。こんな事例を思い出したからです。

 どこの図書館だかは忘れました(都内ではなかったと思います)が、館の運営を、DVD,CDのレンタルや新刊書店を手がけている「蔦屋(つたや)グループ」に委託したのが事の発端です。カフェーを併設したり、施設も整備したりと新機軸を打ち出しました。が、どう考えても公共図書館にふさわしくない蔵書が納入されているのが問題になりました。

 オタク本、マニア本、どう考えても必要性の薄いマニアックな実用書などが、モノによっては何十冊単位で納入されていたというのです。出所(でどころ)は、蔦屋自身しか考えられません。自分の書店で売れ残った不良在庫の山を、委託されてるのをいいことに、市民の税金で購入し、滞貨一掃したというわけです。

 民間活力、知恵の活用などと言いますが、図書館の魂たる購入図書の選定までを安易に民間に丸投げしてもロクなことはない、という格好の事例になりました。

 府中市が、どこまで本気で民間委託を検討しているのかは分かりませんが、今回のアンケートでは、民意をそれとなく探ってみようという意図が透けて見えました。いずれにせよ、悪魔に魂を売るのだけは止(や)めて貰いたいものです。

 民間への安易な委託は論外としても、ちょっと調べてみると、自治体自身での購入図書の選定にも方針の違い、濃淡のようなものが浮かび上がって来ます。
 最近のベストセラー小説といえば「騎士団長殺し」(村上春樹 新潮社 全2巻)ですが、それの所蔵状況を、ごく一部の図書館ですが、見てみると、興味深いことが分かりました。

 今話題にした府中図書館は、19セット(38冊)所蔵しています。小平図書館も15セット所蔵しています。
 小説というのは立派な文芸分野ですし、著者になんら含むところはないのですが、公共図書館として、果たしてこれだけの数を所蔵する必要はあるのかな、というのが素朴な疑問です。利用者からの要望があり、または、あるだろうことを「忖度」した結果かな、などと勘ぐっています。

 事実、府中の場合、この本の納入直後には予約が殺到し、どう考えても、半年から1年待ちという状態になっていました(今はさすがに落ち着いていますが、ほぼすべてが「貸し出し中」という状況は変わりません)。春樹ファンって、辛抱強い人が多いんでしょうか?ケチな人が多いんでしょうか?「ファンなら買えよっ」ひとりでそんなツッコミを入れています。

 一方、千代田区の場合は、各館1セットずつの5セット、世田谷区は、全館通じて1セットだけです。「資料」として所蔵するなら、このあたりが、極めて常識的で、公共図書館としての見識を感じます。

 そんなことより(と書くと、真摯に業務に励んでおられる関係者から叱られそうですが)、図書館本来の使命である学術書、専門書、啓蒙書、児童書などの充実を一層図って欲しいところです。
 とはいえ、予算の制約があり、毎年、何万、何千と出版される本、雑誌をどこまでカバーするかは難しい問題です。ひとつヒントとなる施策があります。

 2年前、都立多摩図書館が、立川から、国分寺の新しい施設に移転しました。その時、雑誌の充実に、専門図書館を目指すくらいの意気込みで取り組んだのです。

 書庫の分を別にして、ワンフロアの閲覧室だけで、ざっと1000種類の雑誌が整然と並んでいます。

 閲覧席もそれなりに用意されていますが、平日の昼間でも、ほぼ埋まっているほどの盛況ぶり。ニーズは確実にありますし、雑誌は後々、時代の息吹を伝える貴重な資料にもなりますから、優れた取り組みだと感じます。

 で、思うのですが、専門書、学術書の中には、(必要だけど)みんながみんな所蔵する必要性が薄い本もあるわけです。そんな本の場合は、図書館毎にある程度の専門分野を決めて、分担制で購入すれば、予算も効率的に使えます。「うちは◯○分野に力を入れてます」と特色をPRもできます。
 前回ご紹介した「リクエスト」という仕組みを利用すれば、普段は利用できない図書館の本も取り寄せが可能ですので、実現性は高いのではないでしょうか。
 
 とかく貸本業、タダ読み業になりがちな昨今の図書館ですけど、「知の情報発信基地」として、いろんな知恵と工夫で、今後も大切な役割を果たしていってほしいです。そして、利用者のほうも、大いにその活用を心掛けねば、と私も気持ちをあらたにしています。

 いかがでしたか?ちょっと堅い話題に最後までお付き合いいただきありがとうございました。「お気楽な」話題もお届けする予定ですので、引き続き、ご愛読ください。


第306回 セクシー英語のお勉強-英語弁講座22

2019-02-15 | エッセイ

 ショーン・コネリーが、ジェームズ・ボンド役で活躍する「007」シリーズを見たのは、中学から高校にかけての頃でした。アクションもさりながら、美女との濡れ場(今ならどうってことないんですが)がお約束で、ワクワク、ドキドキしながら見たものです。ボンドといえば、やっぱりこれ!

 さて、「ニューヨーク遊遊記」(平尾圭吾 実業之日本社 1980年)を読んで、そんなお色気場面には、(当時は知るよしもありませんでしたが)言葉とアクションの組み合わせで笑いを取る仕掛けがあるのを知りました。さっそく、3つの場面をご紹介します

「私を愛したスパイ」(THE SPY WHO LOVED ME)の冒頭シーンから。
 007の上司のMが、秘書のマクベニイに
 "Tell 007 to pull out.(引き上げるよう007に言うんだ)"と命じます。
 次の瞬間、シーンが変わって、裸の美女の上におおいかぶさっているボンドが、腰をすっと引いて(pull out)、立ち上がります。言葉とアクションの見事な組み合わせです。

「ムーン・レイカー」(MOONRAKER)で、同じく上司のMがマクベニイに訊ねます。
 "Is 007 back from that African job?(007はアフリカの任務から帰ってきたか?)"に
 "He is on his last leg sir.(旅の終わりにさしかかっているはずですわ)"と答える彼女。 
 場面が変わると、007がしきりに美女の太ももをまさぐっているところ。
 "leg"には、「(旅などの)行程、一区切り」というのと、「脚(太もも)」という意味があるのを利用したちょっとセクシーな言葉遊びです。

 同作品からもう1カ所。
 敵の一味を退治したボンドが、宇宙船ムーンレイカーの中で美女と抱き合ったまま、宙に浮いている。それがモニターテレビに映り、Mがヤツは一体何をしているんだ、と訊く。助手のQが、
 ”I think he is attempting to re-enter sir."と答える。
 確かに「再突入(re-enter)を試みている」には違いありません。こちらも言葉+アクションでウケを狙っています。

 同書からもうひとつ、お馴染みの「卒業」(THE GTADUATE)という作品からの1場面です。
 人妻のミセス・ロビンソンから、ホテルに呼び出されたベンジャミン(ダスティン・ホフマン)。ホテルは、どこかの団体の会合か催し物かで、ひどく混んでいる。
 ホテルのフロントが、彼に訊く。
 "Have you come for an affair,sir?(会合でいらっしゃったんですか?)”
 affairには「情事」という意味もあるので、どぎまぎする彼、というわけです。

 さて、「西森マリーのバイリンガル映画道場」(ジャパンタイムズ 1994年)という本があります。「道場」と謳ってはいますが、日本語字幕では伝えきれない微妙なニュアンス、文化的、社会的背景を知らないと分からないユーモアなどを、親切に、そして楽しく教えてくれます。

 セクシーな英語、ということなので、同書から、その手のセリフ満載の「プリティ・ウーマン」という作品の2つの場面を引きましょう。(( )内は、日本語字幕です)

 娼婦のVivianと、彼女に引かれていく大実業家Edwardとの恋物語ですが、まずは、二人の車の中での会話から、

 Edward:100 dollars an hour.Pretty stiff.
Vivian:No.But it's got potential.
(「1時間100ドルとは高い(スティフ)な」「でも堅く(スティフ)立つこと請け合いよ」)
 stiffには、「値段が法外な」という意味と、「堅い」という意味があります。彼の脚の間を触りながらの彼女のセリフ。いやはやセクシーでアブないです。

 同作品からもうひとつ、アブナい場面を紹介しましょう。二人で、オペラを見終わったあとのやり取りです。

 Vivian:Oh it was so good! I almost peed in my pants!
Edward:She said she liked it better than "Pirates of Penzance."
(「感激してモラしたわ」「”ペンザンスの海賊”よりいいと」)

 日本語字幕はだいぶ苦労してますが、「おしっこをもらした」(peed in my pants)などと下品なことを言う彼女を、エドワードが必死でフォローしてるところです。
 映画館で、隣の席のオバさんが、"peed in my pants"と"Pirates of Penzance"を自分で、何度も言い比べてるのが笑えた、と西森さんが書いてます。ちなみに、Penzanceは、イギリス南西部のほぼ突端にある地名です。
 確かに、似てると言えば、似てるんですけどね・・・

 映画って、気の利いたセリフ、愉快なセリフなどの宝庫ですから、もう少しネタがまとまれば、いずれ「真面目な」続編をお届けしたいと思います。

 それでは次回をお楽しみに。


第305回 クイズで磨く推理力−3

2019-02-08 | エッセイ

 「クイズで磨く推理力」の第3弾をお届けします。

 往年のユニークなテレビクイズ番組「巨泉のクイズダービー」から、単なる雑学的知識ではなく、推理力を磨くのに役立ちそうな問題を選んでご紹介してきました(文末に過去2回分のリンクを貼っています)。そのボケぶりでよく笑わせてくれた篠沢「教授」です。

このシリーズも、今回が最後になりますが、前半5問とその回答、後半5問とその回答という流れで、ご自身の推理力を是非お試しください。それでは、前半の5問から。

<問題-1>
理科の時間に、先生が質問した。「液体の中で最も強力なものは何か?」ちょっとおませな生徒の答えは?

<問題-2>
イタズラ好きのフランク・シナトラが、ディーン・マーチンを自宅に招待した。招待状と航空券ともうひとつあるものを送ったのだが、ジョークで送った品物とは?

<問題-3>
女優の森光子は涙の流し方までコントロールできるというのだが、それは? 

<問題-4>
かつて浅丘ルリ子は、稽古に熱中し、体重が極端に軽くなった。さて、彼女は日常生活でどんな不便が起きると心配したか? 

<問題-5>
プレイボーイで知られたフランスのアンリ4世が、ある貞淑な女性に「あなたの寝室へ行く道を教えてください」と聞くと、その女性は「私の寝室へは◯○を通っていかなければなりません」と答えた。それは?

 それでは、前半5問の正解です。

<正解-1>女の涙(ずいぶんおませだねぇ、でも10年早いぞ)
<正解-2>パラシュート
<正解-3>左右どちらでも好きな目から涙を出せる(さすが~)
<正解-4>自動ドアが開かない(34kgまで落ちたそうですが、15kgで開くので、杞憂)
<正解-5>教会(いかにもフランス)

 それでは、最後の5問です。がんばってください。

<問題-6>
大富豪ポール・ゲッティはたいへんなケチで、大邸宅の客間すべてにあるものを設置していた。それは?

<問題-7>
17世紀中頃、スウェーデンで、国の政策により、重さ19kgのあるものが作られた。街ゆくひとの中には、それを引きずって歩くのもいたというのですが、それは?

<問題-8>
新婚旅行のカップルの仲睦まじさを読んだ川柳です。「新婚の◯○までも寄り添うて」さて、◯○に入るのは?

<問題-9>
巨人プロレスラー「アンドレ・ザ・ジャイアント」はいつもペンを持ち歩いていました。いったい 何に使うのでしょう?

<問題-10>
イギリスのベーカー博士によると、かつて人類の鼻にはちょっと変わった働きがあったという。 今でも砂漠に住む民族にはその能力があるというのですが、それは? 

 それでは、後半の正解を発表します。

<正解-6>公衆電話(時代を感じさせますが、それにしても・・・)
<正解-7>おカネ(10ダレル銅貨だというんですが、迷惑な政策) 
<正解-8>スリッパ(和風旅館でしょうね。やっぱり・・・)
<正解-9>電話のダイヤルを廻す(スマホになっても必要そう)
<正解-10>方角を知る(頭蓋骨を分析した結果、鼻に強い磁気があったとのこと)

 いかがでしたか?推理力に大いに磨きがかかったことを期待してますが・・・

 過去2回分へのリンクです。<第274回><第283回>合わせてお楽しみください。

 それでは、次回をお楽しみに。


第304回 「転」でキメる

2019-02-01 | エッセイ

 このブログを書き始めた頃、まず心掛けたのは、「独りよがりなことや、つまらない日常のことをグズグズ書く」のではなく、「他人(ひと)様に読んでもらえることを書く」ということでした。
 そのためには、広く読者の皆さんに興味、関心を持ってもらえそうな話題を選んで、コンパクトに、分かりやすくを第一に・・・・そんな想いは今も変わらず、それなりに態をなしては来たかな、とも思うのですが、まだまだ試行錯誤と苦労の連続です。

 あとは適度なユーモアでしょうか。以前にも書きましたが、お店で親しくしていただいているKさんからの「もうちょっとユーモアが欲しいね」の一言が骨身に沁みました。こちらも試行錯誤の連続ですが・・・

 そんな折、書店で「エッセイの書き方」(岸本葉子 中公文庫)が目に止まりました。我がエッセイ(のつもり)の質の向上に少しは役に立つかなと、我ながら殊勝な覚悟で読んでみたら、あらためて教わることが多く、十分に元はとれました。



 中でも、目からウロコ、というか、腑に落ちたことを私なりに要約すると、「エッセイのキモは、起承転結の「転」である」ということです。

 「転」といいますが、急に話題をガラッと変えるということではないんですね。エッセイである以上、読者に「へぇ~」「ほぉ~」と思わせたいコアな事実なり、エピソードなりがあるはず。「起承」でうまく前フリをして、流れを引き寄せた上で、「転」に落とし込めというわけです。
 学術論文じゃないんだから、「結」は、どうでもいいとは言わないけど、重視しなくていいと書かれてあって、思わずにっこり、随分気が楽になりました。

 著者自身による実例をご紹介します。

 「恋文」という女性にとっては微妙なテーマが、出版社から与えられました。
 「起承」は、石坂洋次郎の「青い山脈」で描かれた女子校でのラブレター事件です。「「変」しい、「変」しい×子様、ぼくの胸は貴方を思う「脳」ましさでいっぱいです」という懐かしい小説を引用しながら、恋文における誤字の問題が前フリです。

 パソコン、ワープロの時代になって、こんな誤字はなくなったと思いきや、そうでもない、実は危険がいっぱい、と思わせぶりに流れは「転」へ。

 彼女の元へ、仕事の依頼状が来ました。
 「岸本葉子様、・・・これこれのテーマについて書いていただくには、岸本様をおいてなく、岸本様独特の筆で綴っていただきたく云々・・」とあります。

 ところが、「岸本様」が途中から「××様」と別人の名前になっているというのです。はて、と考えた彼女は思い至ります。パソコンに保存してあった依頼状の名前だけを差し替えたのだが、途中から差し替え忘れたに違いないと。そういえば、〆切が切迫しての依頼というのも怪しい。××氏に断られて、急遽こちらに依頼してきたに違いない・・・と探偵ばりの推理が笑いを誘います。

「教訓。手紙を出すときは。誤字をよくよくチェックすべし。特に宛名関係は。」というのが「結」です。さすがプロのエッセイスト。鮮やかなものですね。

 自分で書いてきたものを振り返った時、それなりに納得できるものって、話が拡散せずに、「転」にストンと落とし込めたものが多い気がします。これは自信につなげたいです。

 毎回毎回のテーマも悩みのタネですが、大きなテーマから入らず、まずは「転」になりうるコンパクトなネタから、というのも、少し気を楽にしてくれます。

 というわけで、岸本流「起承転結」を意識して、今回は書いてみました。岸本さんの実例が、うまく「転」として、キマってればいいんですけどね。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。