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第583回 アメリカの1コマ漫画−5

2024-07-05 | エッセイ
 「アメリカの1コマ漫画」シリーズの第5弾をお届けします(文末に過去分へのリンクを貼っています)。ネタ元は、ショートショート作家にして、アメリカ1コマ漫画の収集でも知られた星新一さんの「進化した猿たち」(新潮文庫(全3巻)」です。
 アメリカでは、キリスト教と聖書の世界観を堅く信じ、広く世の人々に、それを知らしめようと活動する(世話好きな)人たちが結構いるようです。今なら、ネットでしょうけど、漫画の背景は、半世紀以上も前の時代ですから、手作りのプラカードを掲げて、街を練り歩くのが主流でした。その一途な生き方が、ひとつの漫画ジャンルを形成するほど、かつては、ごく日常的な風景だったようです。その人たちが強く訴えるのは、最後の審判の前段階としての、「この世の終り」です。そんなことがあるのを、ケロッと忘れて、遊び呆けている連中に、警告を与えなければならぬ、との使命感が駆り立てるのでしょう。今回は、このテーマの特集です。熱い使命感と現実とのギャップが生み出す笑いをお楽しみください。

 さっそくご紹介します。まず、「この世の終り」がいつ来るかについての「見解」は分かれます。
★ "THE END OF THE WORLD IS NEAR."(この世の終りは近い)などは、漠然として、「良心的」な方でしょう。当面は、バレる心配もないですし・・・
 漫画では、今日か、明日に終わる、というのが多いんですね。
 "THE WORLD ENDS TODAY/TOMORROW."というパターンです。WILLを使う未来形じゃなく、現在形なんですね。「今日」か「明日」という切迫感が伝わってきます。

★「今日終わる」のプラカードを掲げた男が、警官から警告されている。
 「今日」は、見逃してやるが、明日もうろつくようなら逮捕するぞ」

★「明日、終わる」方のプラカードを掲げた男が、結婚式を終えて出て来たカップルのそばで言う。「あしたまでの楽しみだとは知らないようだね」
 招待客のにらみ返す顔、顔、顔。

★曜日指定というパターンもあります。"TODAY"のところを曜日にするわけです。7つの曜日を使い分けてやってる男が、女房に訊いている「おい、今日は何曜日だっけ?」

★一番差し迫ってるのが、「今日の正午」というパターン。すぐバレるのに・・・
 "THE WORLD RNDS TODAY AT NOON."
 そのプラカードを持って出かけようとする男に、女房が訊いている。
 「アンタ、夕食はなににする?」


★ちょっとひねったアイディアで、原始人がプラカードを持って回っているのがあります。
 "THE END OF THE STONE AGE IS NEAR."(石器時代の終わりは近い)

 「悔い改めよ」も定番です。
★ "(SINNERS) REPENT"((罪人よ)悔い改めよ)などと書いたプラカードを掲げる男の偽善性で笑いを誘う作戦です。
 そんなプラカードを持った2人の男。夜の女を膝に乗せてる男のほうが、それをにらんでるもうひとりに言っている。「いまは休憩時間だ」

★溺れかけている男に、ライフガードが、プラカードを指し示している。
 "REPENT AND YE SHALL BE SAVED." (悔い改めよ。されば、汝は救われん)
 ここまで行くとブラックジョークの世界ですね。

★「汝の隣人を愛せ」お馴染みの標語(?)ですが・・・・
  "LOVE THY NEIGHBOR"のプラカードを持った夜の女が、裁判官の前に立っている。
 裁判官いわく「持ち歩くのはいいが、それで商売しちゃいかん」

★飲酒が罪悪、という認識を徹底させようという「おせっかいな人」もいるようです。
 "DRINK IS A CURSE"(飲酒は、災いのもと)というプラカードを抱えた老人が、バーのカウンターに寄りかかって、バーテンダーに声をかけている。
 「そのムニャムニャを一杯くれないか」
 「さっさと主義を捨てるほうが楽ですよ」と、思わず声をかけたくなります。

 ちょっぴり英語弁講座っぽくなりましたが、いかがでしたか?こんなタブーっぽいテーマを漫画にするのが、いかにもアメリカですね。冒頭でご紹介したリンクは。<その1><その2><その3><その4>です。それでは次回をお楽しみに。
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