★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
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第176回 「夜」ブーム

2016-07-29 | エッセイ

 私の勝手な見立てですが、今、「夜」がブームみたいです。「夜」だけに。「静かな」ブームと言えるのかどうか・・・

 最近、タイトルを目にしただけでも、「失われた夜の歴史」(ロジャー・オーカーチ インターシフト刊)、「夜は暗くなくてはいけないかー暗さの文化論」(乾正雄 朝日選書)、「「闇学」入門」(中野純 集英社新書)など、いろいろある。

 とにかく、夜を明るくするのが、文明であり、進歩である、という信念のもとに、突っ走ってきたのが、ここ100数十年の人類の歴史といえる。おかげで世の中、大いに便利で安全になったようだが、果たして、いいことばかりだろうか?ちょっと立ち止まって考えてみようというのが、これらの本の共通のコンセプトのようだ。

 確かに、ヒトの場合で考えても、数百万年の間、夜明けとともに起きて、夜になれば寝る、というサイクルは、生理的にも、ひょっとしたら、DNAにまでしっかり組み込まれているはず。動物だって、種によっては、億年という単位で、昼夜という自然現象を、(昼行性、夜行性などの別はあるにしても)既得のものとして、生理的に受け入れて来たに違いない。

 主に電力の力を借りて、無理矢理、人工的に明るくして来たことのマイナス面にも目を向けようというわけだ。

 タイトルだけ眺めて、その気になってもしかたがないので、最近出た「本当の夜をさがして」(ポール・ボガード 白揚社)を読んでみた。

 

       


 夜がどんどん明るくなって、「光害」にまでなってきた歴史と現状。そして、そのような現状に対して、不要な明かりを規制して、「本来の」夜を取り戻して、本来の星空を愉しもうと取り組む人々。夜勤など不規則な勤務を強いられ、体調を崩す人、不眠に悩む人。様々なエピソードが、今の世界の「夜」が抱えている問題を浮き彫りにします。

 そんな中で、強く興味を引かれたのが、夜の人工的な光と癌(がん)との関係。直接自分たちにかかわるところが、やはり一番気になるわけで・・・

 ここ20年ほど、とりわけ議論されて居るのが、ホルモンの影響が大きい乳癌と前立腺癌だという。それぞれ、女性、男性の代表的な癌です。
 で、そのホルモンとは、「メラトニン」。

 このホルモンは、暗い場所にいる時だけ生成されるホルモンで、癌細胞の成長を抑える働きがあることが分かっている。星明かりや月明かり、ろうそくや炎の光くらいでは影響を受けないが、電気の光は、脳を混乱させるに充分で、メラトニンの生成が中断されてしまう、よって、癌になる可能性が高くなる、というわけだ。

 夜中に目が覚めて、トイレに行って、明かりのスイッチを入れただけで、脳はそれを、日光と認識してしまって、メラトニンの生成がストップする、というから、ちょっとこわい。現在のところ、癌との関係が、完全に実証された、というわけではないとのことだが、方向性としては、正しいというのがほぼ定説らしい。 

 いまさら昔の暮らしに戻れないにしても、夜は暗いのが当たり前、というところから、ライフスタイルを、ちょっとばかり変えてみるのも悪くないと思う。節電にもなるし・・・

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。


第175回 奇人列伝-3 沈黙クラブほか

2016-07-22 | エッセイ

 第139回、第156回に続く,[奇人列伝」の第3弾になります。
 これまでと同じく、 「万国奇人博覧館」(J・C・カリエール/G・ベシュテル 守能信次訳 ちくま文庫)から、ユニークな奇人、奇行のエピソードを選りすぐってお届けします。こちらの本です。



<変なクラブ>
 17世紀末、ロンドンにつくられた「沈黙クラブ」の会員は、決して口を開かないこと、少なくとも話すためには口を開かないことを誓いあった。会長は、手話でコミュニケーションをとることがあったが、会の精神に反するこのやりかたは評判がよくなかったそうな。コミュニケーションを拒否する人たちが集まって、一体、何を、どうしようというのでしょう?摩訶不思議なクラブ。

 18世紀の終わり頃、パリとベルリンに、「自殺クラブ」があった。会則によると、会員は自殺の義務を負い、年度毎の自殺候補者は、選挙で選んだ。ベルリンの支部のほうが長く存続したが、1819年、最後の会員が自殺して、会は自然消滅した。会の趣旨からすれば、正しい結末ですが・・

<普遍的言語>
 1867年、アルドリック・コーモンなる人物が、「人類の普遍的言語生活」なる本を発表した。ここには、8カ国語で書かれた110の文章が載っていて、全人類は、その文章を指し示すことで、意思を通じ合えるというのである。それにしても、110の例文しかないというのが、いかにもショボい。例文の一部だけでも知りたいとこだが、残念ながら、そこまでは書いてなかった。

<遺伝>
 ドイツの農民イグナーツ・ロールは、飼っていた七面鳥すべての頭にターバンを巻いた。こうすればいずれターバンを巻いた七面鳥が生まれるものと信じて。もちろんその期待は裏切られたが、ほのぼのしたいい話だと思う。
 ちなみに、4月の句会(兼題:鳥)に投句した<ターバンを巻いてる春の七面鳥>は、このエピソードにインスパイアされたもの。残念ながら、0点でしたけど・・・

<数奇な死>
 プラハに住むヴィエラ・チェルマークという女性は、夫の浮気を知って3階から飛び降りた。ちょうどそこへ夫が帰宅。彼は、妻の下敷きとなって死んだ。

<お守り>
 ルイゼット・トルトン夫人は、夫が10年前、臨終の床でくれたお守りを、大切に、文字通り肌身離さず持ち続けてきた。10年経って、夫人はお守りの中味が知りたくなって、中を開いてみた。彼女が見たもの、それは、なんと、雷管を装填した手榴弾だった。お~こわ。

<元の鞘(さや)>
 1975年、ロンドンで離婚して数ヶ月になるウォルター・デイヴィスが新しい結婚相手を求めて、結婚相談所を訪れた。同じ相談所には、別れた妻も登録していて、コンピュータが選んだ相手はその彼女だった。従順な二人はまた結婚した。めでたし、めでたし?

 いかがでしたか?いずれ、エピソードが集まれば、続編をお送りする予定です。お楽しみに。

<追記>奇人列伝の過去分、以降分へのリンクです。<その1(旧サイト)><その2><その4><その5>。合わせてご覧いただければ幸いです。


第174回 アメリカのニッチなネット商法

2016-07-15 | エッセイ

 狭い日本でも、ネットショッピングが全盛。私も、中古の本を中心に、割と利用しているクチ。確かに便利には違いない。

 国土が広いアメリカでは、もっと盛んですが、日本ではあまり馴染みのない仕組みとして、プライス・マッチ・ギャランティーというのがあります。大手の業者のほとんどが採用している一種の返金保証制度で、細かいルールは区々ですが、概ねこんな仕組みです。

 ネットで購入した商品の価格が、一定期間(返品受付期間内とかが多いようです)のうちに、値下げになった場合、「申請があれば」、その差額を返金する、というものです。うるさい消費者の多いアメリアならではの仕組みです。ちなみに、アマゾンの場合、なんと、一日で、8000万件(タイプミスではありません。ネットならではの仕掛けです)の値付け変更がある、というんですからスゴいでしょ、と私が自慢しても仕方ないですが・・・

 で、そのためには、購入者自身が、購入した商品の値下げ状況をこまめにチェックし、その都度、業者所定のメールフォームで、申請する、という面倒な作業が必要になります。

 そこにビジネスチャンスを見いだして、事業を立ち上げる、というのが、これまたアメリカ的ですが、そのサービスの名は、Paribus(パリバス)といい、2015年の5月に、本格サービスを開始しています。

 消費者と、通販業者(現在、このサービスに加盟しているのは、アマゾン、ウォールマートなど18社)との間に立って、先ほどのチェック、申請などの消費者側の手続きを代行する一方、事実確認、返金振込など業者側の作業も面倒みようというわけです。

 サービスを利用するには、最初に、指定のオンラインメール(Gmailなど)と、利用する業者のアカウント(いずれもパスワードを含む)を登録するだけです。あとは、システムが、利用者のメールを見にいって、購買履歴をチェックする一方、期間内に値下げになった商品のチェックも自動で行い、両方のデータのマッチングを行って、値下げがあれば、業者に連絡し、業者から購入者の取引口座に返金させる、という流れになります。スマホでのお知らせ画面です。


 返金額の25%がサービスを提供している会社に入る仕組みで、なかなかうまいことを考えるもんだなと感心します。

 先日も、アメリカのニュースが、このサービスを取り上げていましたが、小さい子供のいるいかにもニューファミリーみたいなのが登場して、「この1年で、30アイテムほど購入したが、400ドルほど返金があった」と嬉しそうにしゃべってました。ふ~ん。

 パスワードも含めた個人情報は、暗号化など厳重なセキュリティ対策を講じている、というんですが、仮に日本でサービスが始まっても、私なんかはとても利用する気にならない。でも、ニュースで取り上げられるくらいですから、アメリカでは商売順調なんでしょうね。

 通販業者にとっては、「余計なお世話」をするサービスでしかないと思うのですが、「良心的な業者である」というイメージアップにはなる。また、購入者も、購入直後の値下げで、悔しい思いをしなくていい。それが、販売増につながるが期待もできる・・・・というわけで、今のところは、関係者一同、めでたし、めでたしみたいです。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。


第173回 パズルで息抜き

2016-07-08 | エッセイ

 このブログでは、硬軟とりまぜ、いろんな話題をお届けしていますが、「パズル」で息抜き、てのはいかがでしょうか。

 数独みたいに理詰めで考えれば解けるものもありますし、昔、流行った「頭の体操シリーズ」(多湖輝 光文社)みたいに、ちょっとした発想の転換(水平思考とかいう言葉も流行ったことがありました)が必要なものもあって、一時期、ハマりました。小さい頃読んだ学習雑誌にも、パズル、クイズの類いが必ず載っていて、アタマを悩ませたものです。パズルを解くのは、私も、割と好きなほう。ただし、時間をかけて、じっくり考えるのは得意ではないので、すぐに答えを見るクチ。

 さて、アメリカの有名なパズル作家で、サム・ロイド(Sam Loyd 1841-1911)という人がいました。
 図形パズルを中心に、今でも多くのパズルファンを悩ませる名作を、数多く世に送り出してきた天才です。

 その代表作が、ご覧の「トリック・ドンキー」。
 点線に沿って、3片に切り離したものを並べ替えて、「疾走するロバに乗る騎手」の絵柄にしなさい、というものです。



 実に単純そうに見えるパズルですが、新聞に発表当時、解けない読者からの問合せが殺到したという、エピソードが残されています。
 画像を、プリントアウトして、取り組んでみてください。

 なお、「巨匠の傑作パズルベスト100」(伴田良輔 文春新書)には、この伝説的な「名作」のほか、パズルの巨匠たちの名作が紹介されています。2008年出版の少し古い本ですが、興味のある方は、是非チャレンジしてみてください。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。


第172回 ファーストネーム-英語弁講座7

2016-07-01 | エッセイ

 今回は、とりわけアメリカ人がこだわるというか、偏愛する「ファースト・ネーム」について書いてみようと思います。

 英語の敬称にミスター(Mr.)、ミス(Miss)、ミセス(Mrs.)というのがあると、昔、習いました。今どきは、未婚、既婚を問わず使えるミズ(Ms.)なんていう言い方も定着しているようです。
 エラい人、年上の人、あまり親しくない人などに対しては、敬称を使うのが常識だと思ってましたが、ヨーロッパを別にして、アメリカ人に限定していうと、面と向かった場合、お互いの立場を超えて、ファースト・ネームで呼び合うというのが、圧倒的に好まれる、と断言できます。ファーストネームのサインです。



 初対面の人と、一通りの挨拶が済めば、「私をジョンと呼んでくれ」などと、ファースト・ネームを確認しあうのが、儀式のようになってます。ファースト・ネームで呼び、呼ばれることが何より大事なんですね。

 アメリカのニュースなんかを見ていても、メインキャスターと、レポーター、コメンテーターとかが、頻繁にファースト・ネームで呼び合ってます。
 お堅いはずのニュース番組なんだけど・・・・と、日本人には、どうも違和感がある。

 なんで、アメリカ人はファースト・ネームにこだわるんでしょうか?
 奴隷制が存在していたころ、雇い主に対して、敬称をつけて呼ぶことを強要した歴史的後ろめたさが原因だ、という説があります。
 平等主義(あくまでタテマエですけどね)を貫き、常にフレンドリーさを、確認し合わないと居心地が悪いのがアメリカ人のようです。そして、それを呼称として演出する道具が、ファースト・ネーム、というわけです。

 確かにそういう歴史的なこともあるのでしょうが、私なんかは、こと「呼称」に関しては、英語が「不自由な」言語だから、ということもあると考えています。

 日本語で、相手をどう呼ぶかは、実にバラエティーに富んでいる。「あなた」、「あんた」、「おまえ」、「おまはん」、「あんさん」(この辺は関西系ですが)。姓にでも、名(ファーストネーム)にでも、ニックネームにでも「さん」「ちゃん」を付けて呼べる。歌舞伎町だとほぼ全員が「社長」か「大将」。『部長」「課長」「マスター」などのように、職位、職業で呼ぶこともできる。お互いの親密度で、使い分けるのが日本流で、距離感さえ間違わなければ、便利な言語である。

 それに対して、英語で、日常的に使う二人称の代名詞は、you(ユー)一本しかないんですね。だからといって、会話のなかで、相手のことを、youだけで呼び続けるのは、他人行儀、というか、お互いの距離感を縮める気がないような印象を与えて、どうもマズい。
 今更、敬称も堅苦しい。でまあ、落ち着くところが、代名詞としては、"you"を使わざるを得ないが、ファースト・ネームも「適当に混ぜて」呼び合おう、という妥協案ではないか、と愚考している。

 "What do you think about this,Jim?”(ねえ、Jim、このことについて、どう思う?)
のような具合ですかね。とにかく相手のファースト・ネームを覚えておかないと、スムーズな会話にならないわけで、パーティーなどに限らず、アメリカ人との付き合いは大変そうです。

 そんな相手の名前を思い出せない時に使える便利な表現を、最後にご紹介。
 "What was your name again?" (お名前、なんとおっしゃいましたっけ?) 過去形で訊くのがポイントですね。以前、聞いた覚えはあるのですが、思い出せなくて・・・というシグナルを送って、という訳です。使わずに済むのが一番ですが・・・・

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。