★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第390回 大英博物館のモノ語り-2

2020-10-02 | エッセイ

 第373回に続く第2弾です(文末にリンクを貼っておきました)。「100のモノが語る世界の歴史」(ニール・マクレガー 筑摩書房 全3巻)に拠り、私なりに選んだモノを引き続きお楽しみください。

<<ラムセス2世像>>
 大英博物館といえばエジプト。それを代表するのが、エジプトの南、ルクソールで出土した花崗岩製のこの巨大な像です。紀元前1250年頃のものとされていて、上半身だけですが、それでも高さ2.5メートル、重さは7トンほどもあります。エジプト室の正面にデンと据えつけてあり、圧倒的な存在感で博物館の象徴のような「モノ」です。

 ラムセス2世は、66年にわたってエジプトを支配し、その黄金時代を築いた王です。90歳まで生き、100人ほどの子をもうけたといいますから、まさに怪物と言っていいでしょう。その彼が、ルクソールに巨大な記念建造物群を築き、そこに納めた自身の像の中の(あくまで)「ひとつ」です。

 使われた花崗岩は、150キロも離れたアスワンから運ばれたもので、20トンと推定される原石を運び、像に加工し、据え付ける。それは「社会全体による功績ーー工学と物流の壮大で複雑なプロセスの結果ーーであり、いろいろな意味で芸術作品であるというよりは、高速道路の建設工事にはるかに近い」(同書から)との著者の見解にも頷けます。

 右胸にあるテニスボール大のい穴は、ナポレオンが母国に運ぼうとして失敗した痕跡です。その後、1816年にパゾリーニなる怪力技を売り物にするサーカス芸人が、あらゆる技術を駆使して、カイロ、アレクサンドリアを経て、ロンドンまで運んできました。到着した荷を見た人々は、3000年以上の時を経ての快挙に驚き、あらためてラムセス2世の偉大さを思い知ったといいます。

<<フラッド・タブレット>>
 大英博物館は、13万枚にものぼる粘土版を所蔵していますが、これもその中の1枚で、縦15センチほど、イラク北部で発見され、紀元前700~600年頃のものとされています。

 博物館のそばに住む市井の研究者ジョン・スミスが、この楔文字を解読したのは、1872年のことです。そこには、こんな驚くべきことが書かれていました。
「家を壊して、舟をつくれ!富を捨てて、生き延びよ。財産は捨てて、命を助けよ。あらゆる生き物の種をもって舟に乗り込め。これから作る舟は、すべての辺が均等になるようにせよ。長さも幅も同じにするのだ。下に海が広がるように、舟の上を屋根で覆え。そのあと、大量の雨がもたらされるだろう。」(同書から)
 フラッド・タブレット(洪水の粘土版)と呼ばれる所以です。

 旧約聖書のノアの方舟伝説そのままの世界ですが、現存する最古の聖書の版よりも、およそ400年も古いのです。洪水伝説は旧約聖書のオリジナルでなく、先行するストーリーがあったことになります。キリスト教的世界観に与えた衝撃の大きさが想像されます。

<<モールドの黄金のケープ>>
 地元英国の北ウェールズ、モールドで出土した黄金製のケープ(肩掛け)で、横幅45センチ、奥行きが30センチほどです。紀元前1900~1600年頃のものとされています。

 1833年に、当地の石切り場で作業員たちが墓を掘り当て、埋葬されていた人物の肩を覆っていたのでケープと呼ばれています。発見した作業員たちが切り取って分けたのを、後に博物館が買い集め、100年かけて、つなぎ合わせ、修復しました。裏から打ち出した精緻な文様もすばらしいですが、ピンポン球サイズの黄金を、このサイズまで引き延ばした技術に驚嘆します。

 当地で作られたかどうかは分かりませんが、当時は僻地と思われていたイギリスが、社会的、経済的に洗練された地域であった証(あかし)ともいえ、イギリス人にとっては誇りの一品、といったところでしょうか。

<<オルメカの石の仮面>>
 メキシコ南東部で出土した蛇紋石製の仮面です。紀元前900~400年頃のモノとされています。

 

 マヤ、インカ、アステカといったメジャーな中米の文明に先行する高度な文明があり、その担い手が、この仮面を作ったオルメカ人だ、というのを知って貰おうというのが著者の意図です。

 紀元前1400~同400年の約1000年にわたって栄え、現在の中南米文化の母体ともなっています。中米で最初に都市を建設し、天空図をつくり、最初の文字を発明し、おそらく最初の暦を生み出したのが彼らです。裏は空洞で、ひもを通す穴が空いていますから、なんらかの儀式に使われたのでしょう。小さい頃、こんな顔をしたガキ大将がいたのを思い出しました。

 いかがでしたか?なお、前回(第373回)へのリンクは<こちら>、そして、続編(第487回(最終回))へのリンクは<こちら>です。合わせてお楽しみください。それでは次回をお楽しみに。

 


この記事についてブログを書く
« 第389回 トリヴィアな知識を... | トップ | 第391回 ゴリラに学ぶ »
最新の画像もっと見る