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第391回 ゴリラに学ぶ

2020-10-09 | エッセイ

 いきなりですが、我が家のアイドル、ゴリラの「ゴリちゃん」です。随分前にUFOキャッチャーでゲットしました。なかなか可愛いでしょ。

 さて、ホンモノのゴリラは、霊長類といいながら、カラダがとびきり大きいですし、仲間以外には凶暴で攻撃的であるとされています。そんなゴリラやニホンザルなどの研究の第一人者が、京都大学総長の山極寿一氏です。いかにも京都大学らしいユニークな研究歴の総長です。

 若い頃、現役バリバリの氏の本を読み、カラダを張っての研究ぶりと、「人間とは何者か」を知るには、その近縁種である霊長類の研究が欠かせない、との姿勢に共感を覚えていました。
 氏の近刊「人生で大事なことはみんなゴリラから教わった」(家の光協会)を読んで、あらてめて、ゴリラから「教わった」ことを、エピソード毎にご紹介することにします。

<ゴリラ語>
 氏がコンゴの3000m級の山岳地帯で、本格的なゴリラの野外調査に赴いたのは、26歳の時(1978年)です。
 予備調査は、離れたところからの観察でしたが、本格調査となれば、群れの一員にならねばなりません。その道の先達米人学者ダイアン・フォッシー博士と会って、ゴリラ語のテストを受けることになりました。

 ゴリラ同士は近づくと「グッグフーム」と低い声を出し合い、挨拶を交わします。返答がないと「ウホウ」と甲高い声(問いかけ音)を発します。英語の「Who are you?」に似てると氏が書いてたのが笑えました。問いかけ音に反応がないと、ゴリラは敵対者と見なして、攻撃するといいますから、群れに入るには必須の「ゴリラ語」です。

 なんとか博士のテストに合格して、博士の助手のピーターとともに、現地に入ります。その時、ピーターから、ゴリラに会ったら、「ゲップ音」を出せ、と教えられます。仲間である、というメッセージだというのです。
 日頃の練習の甲斐あって、最初の遭遇で、ゲップ音が出て、一員と認められ、調査が進むことになります。ゴリラも敵味方を判断するための言葉を持ち、使いこなす、というのが、最初の教訓です。それにしても、ゲップ音なんて、自在に出せるものでしょうかね。

<ドラミング>
 ゴリラが二足で立ち上がって、胸を両手で交互にたたく、おなじみの行動です。ゴリラは喉から胸にかけて袋を持っています。息を吸うと、この袋が膨らんで太鼓のようになり、たたくと、ポコポコポコと高く澄んだ音が辺り一面に響き渡るというわけです。

 さて、この行動の意味するところは、戦いの意思表示だとずっと思われてきました。かつて、ゴリラと遭遇した研究者たちが、この振る舞いに恐怖し、威嚇行為だと受け取ったのも無理はありません。
 しかしながら、最近では野生ゴリラの研究が進み、この行動は「戦いの宣言ではなく、自己主張であることがわかってきた。ほんとうの意味は、戦わずして、対等な立場で引き分けようという平和の提案だったのである。」(同書から)
 凶暴さだけが先に立ちますが、根は、無用な戦いは避ける平和主義者だったのです。

<オスゴリラはつらいよ>
 思春期のメス(8歳くらい)は、一旦、群れを離れます。ひとりでいるオスと出会って、新しい群れを作ることもありますし、他の群れにいるオスと気があって、その群れの一員になったりと、割合自由に振る舞えます。子供を産む能力の故でしょうか。

 一方、思春期のオス(12歳、人間だと20歳くらい)は、群れを出るか、残るかの決断をしなければいけません。残っても、リーダーやメスたちからの嫌がらせがあって、居辛くなります。なので、多くのオスが出る方を選ぶのですが、一旦出ると、メスと違って、ほかの群れに入ることは決してできません。メスとの出会いがなければ、一生「独身」生活を強いられます。厳しく、辛い選択ですが、なぜ、ほかの群れで受け入れられないのかは、次項で。

<経験の共有にこだわる>
 ゴリラの群れを観察していると、片時も離れず、一緒に行動しています。食事、休息、移動などあらゆる場面でそうです。人間だったら窮屈でたまらない生活ですが、彼らなりの理由があります。
 「日々起こる出来事を一緒に体験することができる。」(同書から)からだというのです。どこにおいしいフルーツがあるか、急な雨をどうしのぐか、敵と出会ったらどうするか、などの体験を共有し、さらにそれを生きる知恵として、共有していきます。

 ですから、どんな経験しているのか、どんな企みをいだいているのか分からないオスが、群れに入るのは厳しく拒否する、というわけです。
 人間のように、十分な言葉で経験を共有できないゴリラが作り上げた巧妙なしくみだと感心します。

 なにがしかゴリラから学んでいただけたでしょうか。それでは次回をお楽しみに。


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