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第584回 椎名誠が嫌いな言葉たち

2024-07-12 | エッセイ
 言葉は生き物です。新たな言葉、使い方が生まれる一方、消えていくものもあります。ちょっと変だなと思う言葉や使い方も、私はそう気にしません。便利なら使うこともありますし、好みに合わないものは使わないだけ、と割り切っています。
 作家の椎名誠さん(以下、「氏」)には、仕事柄いろいろ気になる言葉使いがあるようです。「活字たんけん隊」(岩波新書)の「嫌いな言葉」という一文からご紹介しつつ、<  >内に、私なりの意見もちょっぴり付記しました。合わせて最後までお付き合いください。

★ファミレス敬語(「~になります」ほか)
 氏がまず指摘するのが、ファミレスなどでお馴染みのマニュアル化された敬語です。
 「こちら味噌ラーメンになります」「味噌ラーメンのほうお持ちしました」「味噌ラーメンでよろしかったですか」などの例です。マニュアル通りの言葉使いとは承知の上で、「へんてこ敬語」(同書から)だというのです。感覚的に居心地が悪いようですね。
<「~になります」というのは、敬語としては「あり」ですね。「明日は、いつお見えに「なります」か?」のように動作を表す言葉が前に付けば、ごく自然に聞こえます。ただし、「味噌ラーメン」などモノの名前との組み合わせには、私も違和感を感じます。
 で、私はマニュアル作成者のこんな想いを想像しています。モノを差し出す時の敬語は「~でございます」が普通です。でも、言い慣れない若いスタッフの場合だと、「~でごじゃります」などと思わぬ笑いを取ってしまうことがあり得ます。それなら言いやすい「~になります」でいこう、と決断をしたのではないかと。いっそ、「味噌ラーメン、お持ちしました」でいいですよね。
 さて、「よろしかったですか」との過去形も、「あり」ですけど、やりすぎと考えます。知っているかどうかを訊くのに「ご存知ですか?」は、ストレート過ぎるので、「ご存知でしたか?」と過去形にして柔らげる用法があります。それを「よろしかったですか」まで拡大、応用したのが、やりすぎで、ファミレスというカジュアルな場に合わなかった、という点では氏に共感します>

★若者言葉
 氏は、いわゆる若者言葉もやり玉にあげています。「口のきき方」(梶原しげる 新潮新書)から、関東圏の学生から収集した例の一部を引用しています。
「私的(わたくしてき)に」「~とか」『~みたいな」「てゆうかぁ」「~っぽい」「いちおう~」「なにげに」「私って~なヒトなんです」
 氏は「その言葉づかいの用法には「軽さ」と「幼児性」が通底している」(同)と断じます。
<断定的な言い方は避けて、波風を立てず、円満に会話を進めていこうという気持ちの表れかな、と若干好意的に受け止めてはいます(自分では使いませんが)。私自身が若い頃、「な~んちゃって」などと、軽いノリで自分で自分にツッコミを入れていたことと思い合わせて・・>

★「ら」抜き言葉
 最後に氏が取り上げるのは、悪評高き「「ら」抜き言葉」です。
「食べれる」「着れる」のような表現に、世代ギャップを感じるといいます。
<確かに、正しい用法ではありません。ただ、私は以下のような事情から、この流れは変えられず、いずれ定着するだろうと考えています。
 まずは、「られる」には「尊敬」と「可能」という2つの意味があるということです(「受け身」もありますが、とりあえず脇に置きます)。
 例えば、部下から「今度は、いつ「来られ」ますか?」と訊かれた上司はどう感じるでしょう。「ます」は付いていますが、敬意ではなく、来るのが可能かどうか、都合を訊いていると受け取ってムッとする人が多そうです。「来る」の敬語としては、「いらっしゃる」「お見えになる」「お越しになる」など専用の敬語表現がありますからね。「食べる」だと「召し上がる」です。
 かくて、「られる」は敬語としての地位をどんどん失いつつある、というのが私の見立てです。ただし、一応敬語ですから、この場合は、「「ら」抜き」にはなりません。
 そして、「可能」の「られる」です。カジュアルに可能性、都合などを表現しますから、「られる」の「「ら」行音の3連発」という発音上の面倒は避けたくなります。「れる」が定着するのは、自然の流れです。対等な相手で、カジュアルな場面、との条件は付きますが・・・
「今夜の飲み会に「来れる?」「これ、すごく辛いんだけど「食べれる?」などのように。
 誰が決めたわけでもないですが、一応のルール(「可能」の場合のみ「ら」抜きが可)があり、発音の省エネにもなる合理的な仕組みだと感じて、私は大いに愛用しています>

 いかがでしたか?「ちょっぴり」のつもりが、もっぱら私の考えが中心になった点はご容赦下さい。日本語の面白さを感じていただくきっかけになれば幸いです。それでは次回をお楽しみに。