A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 154 もつと強く

2014-06-11 23:19:23 | 書物
もつと強く願つていいのだ
わたしたちは明石の鯛がたべたいと

もつと強く願つていいのだ
わたしたちは幾種類ものジヤムが
いつも食卓にあるようにと

もつと強く願つていいのだ
わたしたちは朝日の射すあかるい台所が
ほしいと

すりきれた靴はあつさりとすて
キユツと鳴る新しい靴の感触を
もつとしばしば味いたいと

秋 旅に出たひとがあれば
ウインクで送つてやればいいのだ

なぜだろう
萎縮することが生活なのだと
おもいこんでしまつた村と町
家々のひさしは上目づかいのまぶた

おーい 小さな時計屋さん
猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ
今年もついに土用の鰻と会わなかつたと

おーい 小さな釣道具屋さん
あなたは叫んでいいのだ
俺はまだ伊勢の海もみていないと

女がほしければ奪うのもいいのだ
男がほしければ奪うのもいいのだ

ああ わたしたちが
もつともつと貪婪にならないかぎり
なにごとも始りはしないのだ。



茨木のり子「対話」『茨木のり子全詩集』花神社、2010年、pp.34-35.

強くそう思う

未読日記883 『DZ dizygotic twins』

2014-06-09 23:53:51 | 書物
タイトル:Jun Fujiyasu:DZ dizygotic twins
著者:藤安淳
編集:菊田樹子
デザイン:中島英樹(中島デザイン)
デザインアシスタント:雄太、樋口裕馬(中島デザイン
プリンティングディレクション:越川和義
テキスト:小林美香
翻訳:パメラ・ミキ
企画:塩竈フォトフェスティバル
協賛:富士フィルムイメージング株式会社、AAT、ゼライス株式会社
協力:ふれあいエスプ塩竈
発行:塩竈 : 塩竈市
発行日:2008.3.
形態:1冊 (ページ付なし) ; 25cm.
内容:
もうひとりの自分を撮る。
双子の兄弟が、カメラを媒介にしてお互いを見つめた記録。
第1回塩竈フォトフェスティバル大賞受賞。

母親の胎内にいるときからずっと隣にいる存在。
お互いの存在がお互いに変化を与える。お互いの不在がお互いに喪失感を与える。
僕は彼のことをどこまで知っているのだろうか。
彼は僕のことをどこまで知っているのだろうか。ふたりの関係性を口にするには
言葉が追いつかない。僕と彼の類似性、そして確かに存在する微妙な差異。
時が僕らの身体に刻んできたさまざまなもの。
まずは、それらを見つめることから何かが始まる気がした。――藤安淳

「視線を重ね合わせるプロセス」小林美香(写真批評)

購入日:2014年6月7日
購入店:The Third Gallery Aya
購入理由:
 The Third Gallery Ayaにて開催された「neo-824 藤安淳、宇山聡範、福田真知」展に行った際、藤安淳氏の参考文献として購入。サインもして頂きありがとうございます。
 本書は、双子の写真家・藤安淳が自身の弟と互いを撮った写真集。左右見開きに身体のさまざまな部分を撮影した写真が並列するさまは、さながら人体図鑑のよう。私にはデビュー作である本作に藤安のタイポロジーへの関心があると見える。

 ところで、双子である私の過去を振り返ると、藤安の写真は歯がゆい。なぜなら、私は双子であることが嫌だったからである。子どものころ、他者から好奇なまなざしを向けられ、学校や社会では比較されてばかりだった。自分への関心ではなく、外見的特徴で関心をもたれたり、好奇のまなざしで見られるのが嫌になり、いつしか私は自然と一人でいることが多くなった。兄弟の話はしなくなったし、例えしても、双子にまつわる神秘的なエピソードもなく、話のネタにもならない。私はできるだけ特徴も個性もない自分でいたかった。双子という「個性」を捨てたかった。自分の出生は自分で選べないとはいえ、双子で生まれてきたことを後悔した。私は双子が嫌いだった。二人でいる環境から離れたとき、好奇のまなざしがなくなり、私は安堵した。一人でいられることに
 周囲のまなざしに耐えきれず、双子であることを忌避して今に至る私にとって、藤安淳の写真は驚きだった。双子に興味を持つ者は多くいるが、その多くは双子ではない。藤安の作品が異なるのは、自身が双子であったことだ。双子である藤安が、弟や他の双子を被写体とした作品を制作していることに、藤安が双子の特殊さを引き受けているように思えたのである。
 近年の藤安の写真は、他者の双子を個別に撮影し、並列して展示する作品を制作している。被写体の人々は、ごく普通の人々である。ただし、双子であるという一点を除けば。双子であることは二人一緒としてまなざしを向けられることが多いのに対して、藤安は個別に展示されれば、とても双子とは見えない「個」として撮影したことに特徴がある。これは、双子というアイデンティティがあればこそのコンセプトなのではないだろうか。

【ご案内】『花岡伸宏 Nobuhiro Hanaoka』

2014-06-08 23:39:17 | 書物
タイトル:花岡伸宏 Nobuhiro Hanaoka
発行:京都 : MORI YU GALLERY
発行日:c2014
形態:1枚 ; 30cm
内容:
図版
「彫刻の不条理について」平田剛志
作家略歴

頂いた日:2014年6月6日
 3月に校了したものの、受け取れていなかった花岡伸宏さんのリーフレットをようやく受け取りました。どうもありがとうございます。
 リーフレットは、アートフェア、MORI YU GALLERYなどで配布されておりますので、お立ち寄りの際にお持ち帰り頂けると幸いです。
 友枝望さんのカタログテキストに続いて、彫刻について書く機会となりました。彫刻については今後も書きたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。

【ご案内】アーティスト・サポート事業 enoco [study?]#2

2014-06-06 22:05:08 | 美術
 この度、大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]の公募「アーティスト・サポート事業 enoco [study?]#2」の審査員をさせて頂きます。

 昨年に続いて審査員をさせて頂くことになりました。たった1名しか選出しかできないことは審査員にとって簡単な仕事ではありません。ですが、すべての資料に目を通す作業はとても充実した時間でもありました。ちなみに、昨年は落選者のファイル返却の際に、選考時のコメントを付して返却したと聞いております。選ばれないことは落胆ですが、審査員は選ばれなかった作品も憶えておりますので、ポートフォリオレビューも兼ねて応募して頂ければ幸いです。

[公募概要](フライヤーテキスト)
大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]では、enocoとともに、アートの持つ可能性を模索していく若手アーティストを募集します。
2013年にスタートし、2回目を迎えるenoco[study?]は、「アートの可能性」や「社会に対してひらいていくこと」について、さまざまな問い[?]を投げかけ合い、[studyー能動的に勉強する・検討する・観察する・練習する ]していく公募プログラムです。
現代アートの分野で活躍する2名の審査員による審査を行い、入選アーティストはenoco館内アトリエにて3ヶ月間作品制作を行ったのち、展覧会を開催していただきます。
プログラムの実施においては、制作プロセスもプラン化すること、制作プロセスを他者や社会に対して「ひらいていくこと」を条件とし、また、制作プロセスはできる限りオープンなものとし、さまざまな思考や他者が関わる機会をつくります。

詳細は以下をご覧ください。
http://www.enokojima-art.jp/enoco_study/2014_entry.html

 

未読日記882 『「ぐずぐず」の理由 』

2014-06-04 23:22:20 | 書物
タイトル:「ぐずぐず」の理由 (角川選書)
著者:鷲田清一
カバー写真:荒木経惟
発行:東京 : 角川学芸出版(角川選書, 494)
発売:角川グループパブリッシング
発行日:2011.8
形態:246p ; 19cm
内容:
第63回読売文学賞受賞! 評論・伝記賞

「ぎりぎり」「ぐずぐず」「ふわふわ」「なよなよ」。ドイツ語で「音の絵」と訳される擬態語(オノマトペ)には、「ぶつぶつ」など音と意味が類似するものから、「しぶしぶ」などふるまいや感覚の抽象によるものなど、さまざまな言葉の手ざわりがある。なぜその擬態語ができたのか、「のろのろ」は動作の擬音ではないのになぜぴたりとその佇まいを伝えるのか。オノマトペの特性と表現を現象学的に分析し、現代人のいのちの息遣いや存在感覚を描きだす、「鷲田哲学」の真骨頂。

言葉の感触 序にかえて
Ⅰ 声のふるまい オノマトペのさまざまな顔
   ぎりぎり
   ぐずぐず
   ちぐはぐ
   ゆらゆら
   ふわふわ
   ほっこり
   ぼろぼろ
   なよなよ
   にやにや
   ねちゃねちゃ
Ⅱ 音の絵 オノマトペの構造
 1 音の絵
 2 言葉の内臓感覚
 3 律動と情調
 4 感覚の越境
 5 意味の内と外
 6 魂の言葉 結びにかえて
あとがき

購入日:2014年6月3日
購入店:ジュンク堂書店 京都朝日会館店
購入理由:
 長尾圭展テキストの参考文献として購入。長尾さんの絵画は、ゆらゆら、ふわふわしていて、とても居心地のいい佇まいを持っている作品だが、そんなオノマトペが批評の手がかりにならないかと思い本書を手にしてみた。裏の理由としては、何事も「ぐずぐず」している私の行為の言い訳になるかもという打算もあるが・・。

未読日記881 『しぐさの日本文化』

2014-06-03 23:41:13 | 書物
タイトル:しぐさの日本文化 (講談社学術文庫)
著者:多田道太郎
カバーデザイン・装幀:蟹江征治
発行:東京 : 講談社/講談社学術文庫, [2219]
発行日:2014.2
形態:269p ; 15cm
注記:原本: 筑摩書房1972年刊, 角川文庫1978年刊 (1970年10月から1971年12月にかけて日本経済新聞に連載されたエッセイをもとにしたもの)
   底本: 「多田道太郎著作集」3 (筑摩書房, 1994年刊), 単行本版・角川文庫版も参照
   叢書番号はブックジャケットによる
内容:
ふとした「変な格好」に日本人の「深み」がある。
すぐれた観察眼で小さなしぐさをひろいあげ、その裏にある「無意識の構造」をあざやかに展開する名エッセイ。

ふとしたしぐさ、身振り、姿勢――これらは個人の心理の内奥をのぞかせるものであると同時に、一つの社会に共有され、伝承される、文化でもある。身体に深くしみついた、人間関係をととのえるための精神・身体的表現といえる。あいづち、しゃがむ、といった、日本人の日常のしぐさをとりあげ、その文化的な意味をさぐる「しぐさ研究」の先駆的著作。

目次
ものまね Ⅰ
ものまね Ⅱ
ものまね Ⅲ
頑張る
あいづち
へだたり
低姿勢
寝ころぶ
握手
触れる
にらめっこ
はにかみ
笑い
微笑
作法 Ⅰ
作法 Ⅱ
いけばな
つながり
かたち
坐る Ⅰ
坐る Ⅱ
しゃがむ Ⅰ
しゃがむ Ⅱ
なじむ
七癖 Ⅰ
七癖 Ⅱ
腕・手・指
指切り
すり足 Ⅰ
すり足 Ⅱ
すり足 Ⅲ
あてぶり
見たて Ⅰ
見たて Ⅱ
直立不動
表情
咳払い Ⅰ
咳払い Ⅱ
くしゃみ
あくび
泣く Ⅰ
泣く Ⅱ
むすぶ

解説対談 純粋溶解動物――加藤典洋と

購入日:2014年6月3日
購入店:ジュンク堂書店 京都朝日会館店
購入理由:
 執筆中の原稿の参考文献として購入。しぐさは、仕種や仕草と書くより、「しぐさ」とひらがなで書く方がいい。どの項目も興味深い知見でおもしろいが、中でも「ものまね」と「かたち」の項は参考になった。