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A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 538 ハッピー

2017-07-26 23:43:40 | ことば
 平均収入を示す数字から判断すると、芸術は儲からない生産分野である。芸術で生計を立てることができないまま、多くのアーティストは老いていく。(・・・)
 芸術という経済をこのように解釈すると、負け組アーティスト、あるいは芸術で生計を立てることができないアーティストは、「貧乏」で「悲惨」なプロではなく、「ハッピー」なアマチュアである。実際に、彼らは巨大なアマチュア集団の一部であり、制作に時間と金を消費する人々なのである。


ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、245頁。

アマチュアとプロをどう考えるか。
「貧乏」と「悲惨」を選ぶか、「ハッピー」を選ぶのか。

日本で批評がないのは、アーティストが「ハッピー」なアマチュアだからと考えると妙に納得。
他者、鑑賞者に何かを伝えようとも考えていないのだから、批評は求められないし、ホームページにテキストの掲載、経歴にビブリオグラフィーとして記載されることもない。


memorandum 537 民主化

2017-07-25 23:25:11 | ことば
 助成された芸術教育は、他の職業と同じく芸術もいまやより「民主化」され、誰もがアーティストになることができ、アーティストとして生活できるようになった、ということを間接的に示している。しかし、他の職業においては卒業生のほとんどが、いつの時代もプロとして生活しているのに対して、芸術においては卒業生のごくわずかしかプロのアーティストとして生計を立てることができない。そのため、他の職業よりも芸術はいまだ「民主化」されていない、と記してもあまり驚きではないだろう。

ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、237頁。

アートは「民主化」されていないのは事実だ。
そもそも「アーティスト」を職業と考えることに私は疑問を感じている。

いったい、美術大学の教員は何をやっているのだろう。
卒業生の就職実績ばかり重視する風潮もいかがかと思うが、アーティスト、またはアート愛好者さえ輩出できていない美術大学とは何だろうか。

memorandum 536 芸術への一人当たりの支出の増加

2017-07-20 06:49:50 | ことば
一般に、消費者からであろうが、寄贈者、政府からであろうが、芸術への一人当たりの支出の増加は、アーティストの平均収入を上げるものではない。その代わりに、アーティストの数を増やすだけである。しかも、住民当たりに対して多くの貧乏なアーティストが含まれることになるので、さらに貧困は広がる。芸術における貧困は構造的なものである。

ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、224頁。

芸術への助成は、アーティストの平均収入を上げず、増えるのは制作時間である。

memorandum 535 貧乏

2017-07-18 23:34:17 | ことば
アーティストは芸術でほとんど稼ぐことができずに、フルタイムのアーティストとして働くことができない場合、貧乏というレッテルを貼られる。この意味において、芸術における貧困は存在する。

ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、222頁。

アーティストに限らず、アート業界全体に通じる話ではある。貧困は蔓延している。


memorandum 534 芸術の神聖さという神話

2017-07-11 05:51:53 | ことば
 芸術を取り巻いて主に(誤って)伝えられる神話は、芸術の神聖さという神話と、芸術を通じて神聖な世界とかかわる可能性の神話である。他の神話や一般的な信念のほとんどは、この芸術の神聖さに由来している。アーティストになるか否かというときには、次の五つの相互に関連した神話が特に誤った方向へと導く。

1 本物の芸術をつくることは永遠に賞賛され続ける。他の報酬がないとしても、アーティストにはたくさんの個人的満足がある。
2 芸術における才能は天賦のもの、あるいは神が与えたものである。
3 芸術における才能はキャリアの終盤にのみ現れる。
4 芸術における成功はもっぱら才能と献身にかかっている。
5 芸術においては誰もが平等なチャンスを持っている。
 こうして、学位免状やOBネットワークなどがものをいう他の分野では考えられないチャンス、そしてアーティストが持っているこの種のチャンスについての神話と思い違いが、アーティストを目指す者たちを騙し続ける。


ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、203頁。

 補足すれば、近年の芸術界も学位免状やOBネットワークが主流にはなっている。それはそれで民主的な要素が失われているとは言えるかもしれない。

memorandum 533 芸術の魅力

2017-07-10 06:44:29 | ことば
 私の見解では、なぜ芸術がこれほどまでに魅力的で、なぜ人々が金銭的収入を放棄してもよいと思うかの主な理由は、芸術に想定される神聖さ、人々がアーティストに抱く高い尊敬の念、期待される個人的満足にある。

ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳、grambooks、2007年、197頁。

芸術の魅力は宗教的だ。