この清助さんは個人のお宅であり、玄関にも店名を示す看板などはなく、知る人ぞ知る隠れ家レストランの体裁を頑なに守っていた。だが、都会の隠れ家レストランと違うのは、隣室から祖母と孫娘の会話が漏れ聞こえて来たり、時折飼っている鶏のコケコッコーと言う鳴き声が聞こえて来る事で、生活臭が漂うレストランであるが、それが又佐渡らしくていい。そして強風に煽られたバケツが庭を転がり回る音なども聞こえて来た。
清助シェフ渾身の魚料理は、佐渡産のスズキのポアレである。スズキの周囲にはマーダイブ、二十日大根、海藻、グリンピースのピューレなどが散りばめられ、ソースは甘海老から作成したと言う拘りようである。甘海老独特の香りの強い、そしてやや甘味のあるソースとスズキの相性は抜群で、見た目もお味も文句のつけようがないくらいの出来栄えである。お皿の色が白色だと間接照明効果が出るためお料理は明るく撮れるが(トップ画像)、それ以外のお皿では例外なくお料理の写真は暗くならざるを得ない。佐渡で新進気鋭の若手シェフがこだわりを持ったお店を立ち上げようとすると、必ず佐渡産食材使用をメインに据えようとする。観光地で地産地消は当然の事なのだが、それを売り物にするお店が林立すると言う事は、裏を返せば佐渡では地産地消がなかなか進んでいないと言う事なのかもしれない。魚料理を食べ終えるとこんどはハーブのローズマリーを炒めるいい香りが立ち込めて来た。シェフが盛んに何かを泡立て器でかき混ぜる音が聞こえて来る。そして、「ジュワー」と言う音と共にお肉が焦げるいい香りが鼻をくすぐった。ほどなくして奥様が、お肉料理用にと胡桃パンを持ってきた後佐渡牛のサーロインステーキが運ばれて来た。肉の厚みは5mmほどだが草鞋大の大きさがあり食べごたえは充分である。ソースはフォンドボー仕立ての赤ワイン風味である。お肉の上にはローズマリーとしめじ茸が乗せられていた。お肉は甘くて柔らかく、両津の吉田家で出された和牛のステーキとは月とすっぽんの違いであった。
ステーキの後は、御口直し用のオオバのシャーベットが出された。そして最後のお楽しみのデザートは、キャラメルソースの上に佐渡産苺姫のムースと苺を乗せ、アーモンドで作成したチューレを巻いた一品である。紅茶にはハーブテイーをお願いしたら、フイナンシェと言うフランス起源の焼き菓子が付いていた。全てを美味しく平らげ、お代の1万円を支払うとシェフが厨房から出て来てお見送り。シェフが「今日のお昼到着のフェリーで来られたのですか?」と問うたので「ええそうです」と答えたら「船は揺れませんでしたか」と再質問。訪問当日は船が両津湾に入った頃から急に曇り出し風が強まったが揺れるほどではなかった。筆者はそう答え、美味しい隠れ家フレンチレストラン「清助」さんを後にした。
胡桃パン
佐渡牛のステーキ
オオバのジュレ
デザート
フイナンシェ
紅茶