オセンタルカの太陽帝国

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天狗様について思う。

2008年12月09日 18時40分41秒 | 今週の気になる人

久しぶりに高い本を買ってしまいました。
伝説研究史界の巨人・知切光歳氏の大著『図聚天狗列伝』です。
とにかく日本の天狗の全体像を語るにはこの本なくしてはありえず、ここのこころ瞠目して眺めているとよた時氏のメールマガジン『山の伝説』にも常にこの本が参考文献として挙げられているので、喉から手が出るぐらい「見てみたい」と思っていたのでした。図書館でもなかなか見ない本ですので、「金を貯めての目標」としていたんですが、金は全然貯まっていないですが、私は気が早いですので買ってしまいました。

東日本編と西日本編の二冊に分かれていますが、それぞれ500ページに及ぶ大著。比較のため普通の文庫本(笑)と並べてみました。
やふほオークションでは東日本編で¥8500という出物があったりしたんですが、「この際だから」と東日本/西日本揃いで¥21,000というのを買い求めてみました。ネットで検索したら「4万で買った」とか「3万で」とかいう証言がゴロゴロしている稀書でございますのでわたくしはちっとも惜しくはございませぬ。(そもそも昭和52年刊行当時の定価が¥15,000×2なんですよね)。でも、近いうちに再刊などされたら私は泣く。復刊ドットコムでは現在6票なので安心して私は購入ボタンをぽちっと押してしまったんですけとね。ブックオフで3千円ぐらいで見つけそうな気もする所がこわい。(※もっともネット上の情報では「この本は一度再刊されている」との説もあります。だとすれば現在のネット上の古書店での価格のメチャクサさにも納得がいきます。でも私が今回手にしたこれの重厚ぶりが「廉価版のそれ」とはとても思えないのですけど)。私の買ったネット上の古書店は「安い・早い・極めて美品」の三拍子でとても感激したんでした。これからもこのお店を愛用してしまいそう。そういえばネットで買い物するのも久しぶりです。

写真は剥いてみたものですが、これに特別なつくりの頑丈そうな函と各巻に一枚ポスターぐらいの「天狗のお札集」が付いています。

この知切光歳という人は、天狗だけでなく仙人や鬼や玄奘三蔵や親鸞の研究でも知られていた人だそうですが、惜しくも1982年に80歳で亡くなってしまいました。この人にはもう一冊『天狗の研究』(1975年)という重要な本があるのですが(※私は未入手)、そちらは天狗についての概説書のような体裁であるのに対して、その2年後の『図聚~』は文字通り巨大なカタログのような、逸話蒐集の集大成になっているのです。どれだけ大変だったんでしょう、これだけ集めるのって。
すっごく高い本なんですが、現在にいたるまでこの本が天狗研究の参考文献のトップにいるってことは、つまり現代には知切氏に匹敵する研究者がいないってことです。っていうか本当にいないんです、知切氏以降は研究家が。とよた時さんやこの方ぐらいじゃないでしょうか。

嬉しいのは、ほとんど名前しか知られていない「日本の48大天狗」についてほとんど項が立てられていることで、ネットで調べても全く情報の無い天狗さまたちについて、これからは「知切氏はこういっている~」とか適当に私も偉ぶって言及できることになります。ていうか、とよた時氏にしてもその他のネット上の先達にしても、「私が知らないことをたくさん知っている人たち」というのがたくさんいたんです。この本を手にしたことによって人たちにようやく追いつく手がかりを得たわけで、これは非常に嬉しい。あとは実地探索と経験値の獲得あるのみです。
・・・が、その知切氏にしても「48天狗のほとんどに頁がある」といっても、調べてもわかんないことがほとんどだったらしく、(ここが知切氏の腕の冴えているところなのですが)その付近の歴史的逸話を列挙して、「ここにはこういう歴史があるからこういう天狗がいたに違いない」という結論をしていることが多いことが目を見張るべきことです。科学者というものは調べてもわからなかったことなら記すべきじゃありません。でもさすがに知切氏ほどの膨大な蒐集の実績を持った方、業界のあらゆるパターンを知り尽くしているので言っていることに全然ムリが無いのですネ。
例を挙げると、隠岐の島にいるという都度沖普賢坊天狗。
知切氏はこの大天狗に3ページを捧げているのですが、隠岐の島にはいくつかの天狗の逸話があるもののそのどれもが大天狗の普賢坊には結びつかない。しかし「・・・だから普賢坊止住の山は都度の岬ではなくて島後の山塊全域をもってあるべきであって、たまたま後鳥羽帝遷幸の憂憤をお慰め申すために、あの崇徳院の行在所に夜な夜な伺候した白峯相模坊のように、上皇の黒木の御所と目と鼻の先にある都度の海岸の絶壁の上に、夜な夜な佇立して、よそながら御警衛申し上げていたのだろう。その天狗の姿がいつしか島人の目に触れ、うわさに上って、都度沖普賢坊という狗名が広がったのではあるまいか。ただ近時、島では天狗普賢坊に関する伝承はほとんど埋没しており、天狗の跳梁譚を聞かない。あるいは隠岐の上皇の廟を護って、自らを埋没し去ったのであろうか」とまとめていて、なかなか巧みだなと唸らされるのです。

目下のところの私の関心事は、当然ながら遠州の秋葉山三尺坊とその眷属たち、それから奥山半僧坊天狗についてです。で、東日本編を飛ばしながら読んでいましたら「甲信越の天狗」の項に秋葉山三尺坊が8ページに渡って解説されていました。ところがそれを読んでみると、寛保3年の栃尾山と秋葉山の三尺坊争いについての記述がほとんどです。そりゃ天狗界にとってはこれは大きな出来事でしたが、「えっ、たったこれだけ?」とがっかりすることとなった。ま、もちろん上杉謙信と徳川家康の間の「天狗を通じての友情」についてはしっかり触れられまして、ニンマリしましたけどね。でも東日本編には遠州のその他の天狗たちや奥山半僧坊についてはちっとも触れられていない。静岡県って日本有数の天狗県だと思っていたんだけどなあ~
で、次に西日本編を手にとってパラパラ眺めていますと、ありました、近畿・九州・中国・四国に続いて「東海の天狗」の項が。へ? 東海地方って西日本だったのか。ま、この本では大井川のある静岡県のみならず大山伯耆坊や箱根の道了尊のいる神奈川県までが西日本編なんですよね。みなさん、覚えといてくださいね、天狗の世界では神奈川県までが西日本ですからね。尊師知切光歳が言ってるんだから間違いない。そういえば伊豆に住んでいた頃、電気は東京電力でガスはシンカナ(新神奈川)だったのに、NTTだけは「NTT西日本」だったな~。日本の電信電話産業は天狗さまに牛耳られているに違いない。
神奈川の巨魁・伯耆坊や相模坊が中国系・四国系の天狗だからこういう扱いなのかな、とも考えたんですが三尺坊や道了尊は北信の飯綱系の天狗ですもんね。(甲信越は東日本)。よくわからない。
ともあれ、安さに騙されてやふへオークションで東日本編の一冊だけを買い求めなくて良かったです。大後悔するところでした。
西日本編では秋葉山三尺坊の扱いは8ページ、奥山半僧坊は6ページ。立派なものです。富士山太郎坊や「伊豆の天狗」ばかりでなく福天坊・無限山一寸坊・大日山繁昌坊・光明山利峰坊など遠州を代表する大天狗たちもきちんと載っています。嬉しい。
とりわけ半僧坊については知らなかったことについての知切氏の考察がたくさんありましたよ。例えば「秋葉山より奥山半僧坊の方が名高いのは、「天皇が宮中に祭っている天狗さま」という宣伝活動のおかげ」とか(※実際は寺の開祖の無文元選が後醍醐天皇の皇子だと宮内庁に認定されて、宗良親王や護良親王と一緒に宮中に祀られたただけで、天狗は関係ない)とか、天狗とされていた無文元選の侍者の半僧坊の実際とか、有名な半僧坊のお札の絵は京都南禅寺の駒大僧正の肖像をパクったもの、とか。
が、やっぱりさすがの知切氏も三尺坊と半僧坊以外については良くわからなかったらしく、ここでも繁昌坊や利峰坊についてはさまざまな歴史的事実をもとに闊達な考察を巡らしているのみです。
武田信玄と徳川家康の対立の歴史から「三尺坊と利鋒坊は仲が悪かった」と結論付けているのはいいのですが(でも小笠山の頂上には三尺坊と利峰坊と多聞坊が一緒に踊っている絵がありましたよ)、一番泣けるのが次のくだり。
「遠江の天狗は、三尺坊を除いていかにも天狗の止住していそうもない山に、天狗の名を見出すのに些少の途惑いを感じさせられる。大日山繁昌坊然り、無限山一寸坊・龍雲寺福天坊は勿論、光明山利鋒坊にしても、到底眷属を引き連れた護法天狗の貫禄は無い。この程度の天狗なら、三河国北設楽郡の山村の名無天狗たちとあまり甲乙つけ難い天狗ばかりである。たまたま名が見つかったから列伝に加えたまでで、跳梁の頻度から見れば北設楽の名無天狗の方が土地に定着して伝承度も高く、住民との交流の密なる点、或は右翼に位する天狗かもしれないという思いを深くする。然るに北設楽の天狗達には揃いも揃って、どうして名前が無いのであろうか? もしかしたら筆者の踏査が杜撰で、聞き漏らし、見落としたであろうか。それとも三河人・遠江人の俗信に対するセンスの相違であろうか。
いずれ近いうち、時日をかけて奥三河地方をもう一度採訪して廻りたいものである。」
この5年後に知切氏は亡くなってしまうのですが、そうですよね旺盛な75歳ってこんな感じですよね。しかしながらいろんなことを念頭に置いて読むと、巻頭にある知切氏の前書きの文章の熱いこと。50年は蒐集を続けていないと書けないような事が書いてあります。これを読んでいるだけでご飯が進みます。
・・・が、一方で、このように達観する知切氏が列伝にたまたま加えてくださったおかげで、遠州は「天狗的に見るべきものの多い土地」として知られることになったのですよ。

参考までに、「遠州八天狗」と呼ばれているのは大体次のものらしいです。秋葉山三尺坊と奥山半僧坊は別格といたしまして。

光明山笠鋒坊・春埜山太白坊・大日山繁昌坊・小笠山三廣坊・小笠山多聞天・粟ヶ嶽一寸坊・思案坊権現・大頭龍権現・福天大権現・山住大権現(常光坊)。

『遠州古蹟図絵』(江戸後期)という本に載っている紹介がもとらしいのですが、知切氏の本と名前が異なっているものもあることに注意。これ以外にも、ネットで検索すると菊川火剣坊、磐田三好坊、岩水寺地安坊、油山軍善坊、初山龍文坊、観音山執金坊、上平山琢堂坊などの天狗の名前が見えます。それなりに逸話を持っているものもあれば、名前しか知られていないものも多いみたい。これから私も一生懸命調べてみますね。まあ、目下の目標は山を巡ることから。ていうか、既に秋葉山(再訪)と光明山と舘山寺は取材と写真を済ませているんですけど、その記事はいつ書きましょ?(※越前旅行を書き終わってからです。越前の記事に先立ってこの天狗の本の感想に懸かっているのは理由があることですから、また時間を置いて越前の記事も読んでくださいね)
天狗の本って数が少ないんですが、それでもわたしが「買わなきゃ」とおもっている本があと数冊あります。

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2 コメント

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昔「プロレス・スーパースター列伝」というマンガがありました(笑 (j.k)
2008-12-10 07:41:12
 ブックオフは売れない稀覯本の墓場、と言われてます。
 どんなに学術的に貴重な書籍文献でも、売れないと見たら即シュレッダー送りだとか。
 だからお金に余裕のある人には、出版文化の保護のためにも、世間からのセドリ扱いなどものともせずに、ドシドシ買い込んでいただきたいものです(笑
 本物の古本屋、という人たちは、今売れなくとも本当に価値のある本は大事に扱うもんなのですがねぇ・・・出久根達郎さんの本を読むと、つくづく大変な仕事だと思いますよ、古本屋は。
 しかし・・・買う人が少ない本ほど高価になるのは、致し方無い事なんでしょうね。
 私も欲しい本が高くて購入をつい見合わせてしまう事が結構あります。
 私の蔵書で最も高価なのは原書房の『船の歴史事典』。9500円しました。
 やはり小さい出版社ほど本が高いのでしょうね。
イタリアでは640人、ドイツでは230人、フランスで百人、トルコじゃ90、スペインでは1003人の女を、1003人、1003人。 (麁鹿火)
2008-12-10 08:27:14
おお、j.kさん、私も持ってますよ船の歴史事典!でも買って1年後ぐらいに半額ぐらいの廉価版が出て血の涙を流したことを覚えています。
しかし本屋で実際目にしてみると廉価版はなんとなくチープで、「私は高い方を買ってよかった」と思ったことも思い出しました。もちろん痩せ我慢ですけど。

ブックオフのその話は怒りさえ覚えますねえ。
が、個人的にはブックオフで信じられないような掘り出し物を見つけることも多いので、なかなか複雑な思いです。
一番忘れがたいのは、10年ぐらい前に長野県の松代のあたりをドライブしていたときに、ふと寄ったブックオフに国書刊行会の『定本ラヴクラフト全集』と『真ク・リトル・リトル神話集』がずらりと並んでいたことです。1冊600円。しかも信じられないことに2セットも。残念ながら全部の揃いじゃなかったんですけどね、その中から適当にキレイそうなのを選んで帰ってきたんですけどね、家に帰って検査していて愕然。オマケみたいに付いてる月報『アーカム・アドヴァタイザー』なるものが入っている本と入っていない本があったのです。しまった、2セットあるうちの片方が完全本でもう一方はそうじゃなかったのか。それを混在して買ってきてしまった。もっときちんと丹念にチェックしていれば・・・
今すぐ松代へ引き返したい気分でいっぱいでしたが、そうもできず、私は月に向かって号泣したのでした。
そういえば思い出しました。同じ店で私はパソコン版の信長の野望の将星録と天翔記の追加データ付きバージョンを、それぞれ2000円で買ったのでした。たしかまだウィンドウズ95の時代で光栄のゲームは1万円以上するのが普通でしたから「なんで!?」と思ったのを思い出します。

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