<社説>高校教科書検定 多様さ考える記述こそ
2025年4月3日 07時04分
文部科学省は2026年度から高校生が使う教科書の検定結果を公表した。選択的夫婦別姓や同性婚など家族について考える記述が増える一方、地理歴史や公民では政府の統一的見解に基づく記述に改められた事例があった。
国際化の時代を生き抜くには、政府や政権政党の価値観を押し付けるのではなく、多様な価値観を認め合い、深く考える姿勢を身に付けることが必要だ。その材料を提供する教科書であるべきだ。
新しい教科書では、選択的夫婦別姓は公民と「家庭」のすべての教科書で扱われている。
夫婦の姓の問題では、日本では婚姻時の改姓が女性に圧倒的に多いことや、選択的別姓制度の導入が議論されている現状を紹介。同姓別姓それぞれの利点と問題点を考えさせる内容になっている。
また同性婚についても、法律婚と同性カップルの法的権利の違いや、認める国と認めない国のどちらに考えが近いか、生徒自身に問う記述などがある。
選択的夫婦別姓制度は1996年に国の法制審議会(法相の諮問機関)で導入が答申され、国会で議論が続く。同性婚は、認めない法律を憲法違反とする判断を五つの高裁が示している。
日本では現時点でいずれも法律では制度化されていないが、高校生には近い将来、社会や家族を考える上で身近な課題となる。
性的少数者や男女の性差、性差別に関する記述も目立つ。一定の価値観を押し付けず、多様な性や生、人権の尊重について考え、学べるような内容であるべきだ。
一方、地理歴史や公民では、安倍晋三政権当時の2014年に検定基準が改定され、政府見解に基づく記述が求められるようになった影響が随所に見られた。
例えば、領土の記述では、竹島(島根県隠岐の島町)と尖閣諸島(沖縄県石垣市)を日本の「固有の領土」と明記しなかった教科書に検定意見が付き、修正した公民教科書が複数あった。
戦時中の徴用工問題で「日本に連行された朝鮮人」と記述した公民教科書は「動員」に改めた。
政府は自国の認識に基づいた歴史教育を徹底したいのだろうが、歴史認識が国によって違うことも学ぶ必要がある。自国の政府見解だけでなく相対する見解も学び、国際理解を深めることが、国際社会を生き抜く力になるはずだ。
<社説>斎藤兵庫県知事 自ら進退決するべきだ
2025年4月3日 07時05分
兵庫県の斎藤元彦知事が内部告発された問題で、県の第三者委員会は知事らの対応を「違法」と認定したが、知事は受け入れない考えを示した。
自らが設けた第三者委にもかかわらず、結論が意に沿わないからと認定を拒むとは独善すぎる。公人としての資質を疑わざるを得ない。進退を自ら決するべきだ。
一連の問題で県議会は調査特別委員会(百条委)を設置。これに対して知事は、中立性が高く、元裁判官3人を含む弁護士6人で構成する第三者委を設けた。
先月19日に公表された第三者委の報告書は、元県民局長(故人)が告発文書を作成、外部に流したことを外部公益通報と認定。
知事らが告発者を捜し出し、文書の「作成・配布」を理由に元局長を懲戒処分したことは、公益通報者保護法に違反すると指摘し、処分は無効と断じた。
知事のパワハラ疑惑も、調査した16件中、10件を認定した。先に出された百条委の報告書よりも一段と踏み込んだ内容だ。
県の懲戒処分指針は職員のパワハラについて停職、減給、戒告などを定める。知事は記者会見でパワハラを認めて謝罪したが、自らの処分への言及は避けた。
元県民局長への対応が違法との指摘も、知事は受け入れを拒み、「見解が違う」「対応は適切」として姿勢を変えなかった。
判断が不満でも受け入れなければ、第三者の調査は意味を成さない。知事は自らの振る舞いが「法の支配」をも揺るがしかねないとの自覚を欠くのではないか。
百条委の報告を受け、知事が元県民局長のパソコンに「わいせつな文書」があったと公表した点も第三者委は「人を傷つける発言は慎むべきだ」と戒めた。知事に元局長の処分撤回と謝罪を求める。
知事のかたくなさを支える一因は昨秋の出直し選挙で再選したことだろう。だが、選挙は百条委や第三者委による報告書公表前だ。知事側のPR会社は公選法違反容疑で強制捜査も受けている。
一連の問題では元県民局長と元百条委委員が自殺とみられる形で亡くなった。自らの振る舞いと関わる形で人命が失われた重みを理解できないなら、県民の代表たる資格があるとは到底言えない。
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