林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

袖のボタン

2007-08-21 | 拍手

 

 丸谷才一先生の「袖のボタン」を、やっと購入した。

 本は飯能の本屋で買うが、どういう訳か、江原啓之サンのものはたっぷり置いてあるのに、こういう面白い本はなかなか店頭に現れない。(スピリチュアル・江原も面白いですよ)。

 袖のボタンは月1回、今も朝日新聞に連載されている。
その都度読んで、う~ん、と感心納得驚嘆しているのだが、やはり纏まったものはそれなりに持ち重りがある。

 内容に就いて、下手な紹介をするより、腰巻から転記します。

  思いがけない清新なものの見方
  いちいち納得のいく論旨の展開
  言葉と思考の芸の離れ業による現代日本文明への鋭い批評
  大学入試によく出るのも当たり前

朝日の書籍出版編集部か出版販売部か知らないけれど、簡にして要を得て、流石秀才揃いの方々ですね。お陰でラク出来ました。

 全部が気に入っているけれど、特に唸らされた二つを、以下、簡単に評論します。

 

 1.「歌会始に恋歌を」

 先ず詩人の大岡信さんが歌会始の召人(めしうど・招待客)になって詠った、御題「幸」による詠進歌の紹介から始まる。

   いとけなき日のマドンナの幸ちゃんも孫三たりとぞ e メイル来る

 森男なんぞは、な~んだ、大岡センセともあろうものが.......、と思うのだが、丸谷先生によると、

  言葉の藝があざやかだし、水際立った機智の遊びだし、それに、ここが一番
  大事なところだが、歌会始の歌の詠みぶりに対する果敢でしかも粋な批評が
  ある、

となる。そして、

  日本文学の中心は和歌であり、その中心は天皇の恋歌である。代々の帝は
  恋歌を詠み、国民に恋歌を勧めることによって国を統治した。
  ところが明治政府は軍を天皇のものとし、天皇を大元帥に祭り上げ、武張っ
  て神々しい感じにしなけれぬと考え、天皇が恋心を詠むことを禁じた。

  日本人の俳句や和歌など短詩への関心の高さや、皇室で毎年行われる歌会
  始は他国には無い優美な文明であり、誠に誇らしい。

 しかるに何事か。(丸谷先生はもっと婉曲に、ユーモラスに書いていますが)。

  軍国主義の縛りが無くなった戦後の歌会始でも、一向に恋歌が詠われない。
  無学な藩閥政府が始めた文学統制がまだ生きている、歌会始という折角の祝
  祭が昔日の宮廷文化と較べて、輝かしさ、花やかさが足りず、点睛を欠いてい
  て残念だ。

と憤慨していて、森男も残念です。

 

 2.「石原都知事に逆らって」

 この項では、伯父の名声のおかげで帝位に就いた陰謀好きの愚物、と思っていたナポレオン3世のことを、鹿島茂著「怪帝ナポレオンⅢ世」(講談社)で、パリ大改造をした人物と知り、尊敬に値する傑物と評価を改めた、と前書きする。

 話変わって、丸谷先生は、

  日本の都市の醜さに言及すると、自虐的都市論と言われて嫌われるが、諦
  めてはいけない。

と説き、石原都知事の発言を紹介する。
以下は丸谷先生が、やけのやんぱち、と呆れている都知事の発言です。

  「東京は救いようがないよ。これを都市計画が出来る街にしろとか、外人が来て
  びっくりするような街にしろとか。そりゃ大地震でも来て焼け野原になりゃ、多少
  そりゃ、建て直すんだろうけれども.....」

 この発言を、都知事はもっと冷静、着実、具体的に対処すべきだ、と批判する一方、芦原義信の名著「街並みの美学」(岩波現代文庫)に言及する。

  日本の商店街で街並みを決定しているものは建築の外壁ではなく、外壁から
  突出しているものである。この種の突出物を少なくすれば、街の景観がすっき
  りして、豊かなかんじになる。

と、芦原の主張を支持。更に、

  都市部では、防災上からも、美観上からも、看板、広告塔、電柱、電線等を撤
  去しよう。
  「芸術作品としての都市」は差し当たって高嶺の花だろう。しかしそれなら、醜さ
  を極力減じた「実用品としての都市」を作ろう。そういう、いわば最初期のインダ
  ストリアル・デザイナーのような抱負を、日本人全体がもたなければならない。

と結ぶ。

 杉並の住宅街のけたたましい楳図邸についても、丸谷先生のご意見をお聞きしたいですね。勿論、先生は顔を顰めると思います。(→8/6「楳図邸の騒色」

 

 この他、マクナマラ元国務長官を上げたり下げたりの「東京大空襲のこと」や、小泉、安倍氏の言葉使いをこき下ろした「政治家と言葉」(→10/4<同題)>)など、腰巻の惹句どおり、「植木に水をあげる?」(→2/17「敬語で水やり」)以外は、いちいち納得のいく内容でした。
 多分この本も、いずれ文庫本化されるだろうが、固い表紙のしっかりした本で読んだ方が、脳味噌に直接、油を注したようで得した気分になれる、と思ふ。
                                        ▲装丁・画 和田誠

建築家芦原義信著「街並みの美学」(正・続)は79年、83年刊。
 大分以前の出版物だけれど、未だに古くならない「名著」です。
 



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2 コメント

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Unknown (anatagaitiban)
2007-08-21 21:47:43
駒田さん!こんばんわ☆彡
世界を平和にするには、他の星からの宇宙戦争的な危機感でも生まれなければ、地球は一体化できないのじゃないかな?!・・・なんて思ったりしてたけど、『恋心』が平和を取り戻す媚薬?特効薬!なのかも知れないのかなぁ~?!
なんて思いました。良い事です!(笑)
天皇の恋の話より、駒田さんの恋のお話も・・・聞きたいですね!
是非、世界の平和の為に!(笑)
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宵待草 (mori)
2007-08-22 21:55:13
待てど暮らせど来ぬ人を、宵待草のやるせなさ。

恋よ来い来い、なんて待ってないで、こちらから出かけないと、もう、時間があまりないですね。

このコメントを投稿したら、夜の町を徘徊してみます。
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