藝術新潮10月号の「古代出雲王朝」特集は推理小説のように面白い。
知らなかったが、近年まで、
出雲王朝は大和の神話を出雲に仮託したものであり実在しなかった、
というのが常識だった由。
ところが近年、考古学上の大発見(▼)が続いた。
哲学者の梅原猛先生が、事実の探求に乗り出したのである。
結論は、
出雲王朝も神さまたちも実在した」
である。
先生は出雲のほか播磨や淡路島を歩き、新発見の遺跡や遺物に接し、
神話由来各神社の、神さまの子孫(!)である宮司さんたちと会話し、推理した。
歴史学者は慎重過ぎてツマラナイ御託ばかり並べる。
しかし先生は哲学者だから、足りないところは大胆な推理で時空を軽く超え結論を出す。
例えば昔聞いたヤマタノオロチの神話は、
スサノオが河口が幾つにも分岐した斐伊川の治水に成功した話、
だった。
川に酒を飲ませるなんてヘンだった。しかし先生によると、
越王朝から派遣されていた暴虐な支配者たちを酒に酔わせて一挙に粛清し、
植民地だった出雲を解放し、出雲王朝を開いた、
ということになる。
酒の説明が付いて、分り易いでしょ?
スサノオから6代目、兄たちに冷遇されていたオオクニヌシノミコトの大成功と、
子どもたちの相続争いと、大和王朝に併呑されてゆく推理も面白い。
6代目がスサノオの娘と駆け落ちするのが不自然ですが、詳細は読んで下さいね。
また出雲大社の超高層社殿建築は、
大和王朝がオオクニヌシの祟りを封じ込める狙いがあった、
とか、宮司の千家は今も「出雲国造(くにのみやつこ)」を公認されている、という実話が愉快である。
(余談ですが、司馬遼太郎によると、千家は天皇家よりも由緒正しい家柄、と言っていた)
八重垣神社の佐草敏邦宮司▲
スサノオとキシナダヒメの子アオハタサクサヒコから、何と89代目とか!
更にこういった事実を隠蔽し、歴史を改ざんした張本人は
近衛・九条・西園寺家などの遠祖、藤原不比等だ、
と断定しています。
しかし、何よりも気に入ったところは、梅原先生の謙虚な姿勢です。はじめに、
近年の考古学的大発見は、出雲には壮大な神話を裏付ける遺跡が無い、
という常識を粉砕した。
私も出雲神話は作り話と思っていたが、学問的良心に基づき考え直したい。
と、あちこち歩いた結果、神話は事実で神さまは実在した、との推論に達し、最後に、
私が30年前に出版した「神々の流竄」は間違いだった。大変恥ずかしい。
オオクニヌシノミコトには全く申し訳ないことをした。
出雲大社で心からお詫びして、改めてミコトの人生を顕彰する書物を書きます。
とお誓いした。
好きですねぇ、大先生のこういう潔さ。
約70頁で写真が多い特集を読むのは、ブログを書いてるよりずっと面白かった。
この林住記なんかを読むより、ずっとタメになります。
ただ、すこしアラを探すと.....。
普通こういう読み物は記紀の原文を参考に載せたり、神さまの名前を漢字で書く。
しかしこの特集では原文は無く、名前は片仮名にしてくれた。
でも、神さまの名前はまだ長過ぎるし、途中で名前が変わり、ごちゃごちゃする。
その辺を工夫改善してくれれば、日本神話はもっと楽しめるのですが.....。