くらげのごとく…

好きなことを考えてふわふわ漂ってるような
時間が心地良かったりする。
たとえ時間の無駄遣いだったとしても…。

分岐路

2010年08月07日 | 日常あれこれ
道 程

僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守ることをせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため

高村光太郎


幼きころ、雪が降り積もった原っぱに真っ先に足跡をつけた時の、嬉しさが忘れられない。
さくさくと雪を踏みしめながら、一歩一歩、歩みを進める。きれいな足跡をつけるんだと…。
でも、途中でふと後ろを振り返ると、まっすぐに歩いて来たつもりなのに、思いのほか足跡は、ぐねぐねと曲がりくねっていた。
想いと行動はなかなか一致しない。
だけど、想ったことを行動にしていかないと、先へ進めない。

長い付き合いだった同僚が間もなく羽ばたいていく。出会った時は、二十歳だった。
思い起こせば、もう何人の人を見送ったことか。結婚、出産、転職…、私の前をたくさんの人が通り過ぎていった。
長くひとつ場所にいると、自分は見送られることなどないような錯覚に陥る。同じ側にいた人がついに離れていくことでそんな錯覚に気付く。
永遠などない。誰もがいつしか、確実に離れる時がやってくる。淋しいけれど、エールを送りたい。

人生は道。
道は自ら切り開いていかなきゃいけない…。

ケント君とカイト君

2010年08月07日 | 保育園
まだ、暑さもそんなに厳しくない6月の終わりごろ、園児がクワガタを一匹、持ってきた。自宅マンションの通路をよたよた歩いていたのを見つけたらしい。保育園で飼うことになったが、弱っているからすぐにダメになってしまいそうだ。とりあえず、箱に入れて、ラップをかけておいたところ、翌朝、箱の中がからっぽになっていた。よく見ると、ラップを引きちぎった形跡がある。脱走したのだ。誰かのロッカーとか机の引き出しとかに入っていたらどうしよう。広い園舎内、わずか数センチのクワガタが外に出られそうな隙間を見つけるのは容易なことではないだろう。職員一同、大慌てで探し回っていたら、手洗い場のバケツの底にへばりついているのが発見された。やっぱり湿気があるところを好むのだ。ロッカーの上からここへ辿りつけたのは根性、いや本能のなせるわざだったのか。なかなか生命力のあるヤツだなあと見直した。
 
このクワガタくんのために、立派な昆虫ケースとゼリーが用意され、飼育上手な若手保育士が面倒を見ることになった。ケント君という素敵な名前もついた。恵まれた環境を用意してもらったケント君、水を得た魚のように元気を取り戻し、たちまち子どもたちの人気者になる。彼を見つけてきた男の子も嬉しそうだ。

しばらくして…、他のお家からも、「カブトムシがいるのだが、保育園で飼ってもらないか?」という申し出があり、仲間が増えた。カブトムシはカイトくんと名付けられ、またまた人気者になり、ケースの周りには毎日子どもたちが鈴なりになっている有様だ。ケント君、お友達が出来て良かったねって。黒くて、固くて、その上角も生えている物体がのそのそと動き、地中にもぐったり、時にゼリーにしがみついている。子どもたちの興味は飽きることなく、目を離すと思わずツンツン触っていたりする。

さて…、ライバル出現に面白くないのか、大御所のケントくんは、カブトムシを攻撃し始めた。マンション通路から保育室脱走まで紆余曲折を繰り返し生き残ってきただけあって、喧嘩もなかなか強いのだ。自分も傷だらけだが、大きなカブトの方の傷はもっと深い。ついに、先日、カイト君が動かなくなった。体は穴だらけ…、自然界は残酷なのだ…。

子どもたちにカイト君を見せて死んでしまったことを話した。ムシさんには「かんがえる頭」や「やさしい心」がないから…、生きていくために、強いものが弱いものをやっつけちゃう。でも、みんなには、「かんがえる頭」も「おもいやる心」もあるから、大きい子や強い子は、小さい子や弱い子を守ったり、手伝ったりして助け合うことが出来るんだよね。う~ん、ちっと説教臭かったかな。でも、この出来事の中には子どもたちに伝えるべき大事なことがある筈だ。
いつも、キックやパンチで友達を攻撃するやんちゃ坊主が神妙な顔つきで穴だらけのカイト君を見つめている。君の心に何かが響いてくれたかな?それだけでも、カイトくんの死はとっても意味あることになってくれるんだけどなあ…。

最期にみんなでお祈りをした。

カイト君が天国に行きますから、お守りください。アーメン