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「フリート・エンジェル(艦隊の天使)」ヘリ部隊〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-09-01 | 航空機

 

空母「ミッドウェイ」フライトデッキ上の艦載機、
前半に引き続きヘリコプターをご紹介しています。

CH-46 シーナイト(Sea Knight) ボーイング・バートル

この辺になってくると、現行のCH-47にそっくりになってきます。
解説には Vertical Replenishment Helicopterとありますが、
これを直訳した「垂直補給」とは、ヘリからロープで荷物を牽引し、
そのままそれを他の艦船などに積むような補給法のことで、

VERTREP(ヴァートレップ)

と簡単に呼ばれているそうです。
ヘリなら当たり前のこの方法ですが、ヘリコプターが登場した後、
この補給方法は船と船を接舷しなくてもできる画期的なものだったのです。

コロンブスの卵というのでしょうか、この当たり前だが画期的な方法を
最初に試みたのはUSS「サクラメント」で、1964年のことでした。

この時「サクラメント」は2台のCH-46 シーナイトを導入し、
燃料や弾薬を「サクラメント」から最大100マイル離れた他の船に
配達することが可能となりました。

ヘリコプター戦闘支援艦隊8号機の「ドラゴン・ホエール」搭載の
MH-60Sナイトホーク・ヘリコプターが、USS 「ハリー・S・トルーマン」
弾薬船USNS 「マウント・ベイカー」の間を飛行し、VERTREPをしているところ。

誤解のないように断っておきますと、ヘリがたくさんいるのではなく、
これは分解写真で一機のヘリの動きを表しています。
海上の様子を見るとどちらもが航行中であることがわかりますね。

 

VERTREPによる補給は従来の方法と比較して、操縦の自由度が高く、
吊り下げのためのラインを補強しさえすれば、時間の損失は最小限ですみます。

冷戦時に行われたあるVERTREPによる補給作業は、受け取る側の駆逐艦が
ソビエト潜水艦との接触を維持している間に達成されたということです。

このCH-46シーナイトはVERTREP用に開発されたので、
わざわざこんな名前がつけられているのだと思われます。

エンジンは、重量のある積荷を航行中の船舶に
補給するのにパワーアップしたものが2基搭載されました。

中を公開しており、内部に入って座ることもできます。
折しもちびっこの団体が搭乗中だったので遠慮しておきました。

シーナイトは人員輸送のための「フリークェント・ビジター」として
頻繁に空母に着艦を行いました。

クルーは3人、17名までの乗客を運ぶことができます。
シートの赤は元々の色でしょうか。

時間があったら中に乗って、コクピットの写真を撮ったのですが。
次に訪問することがあったらぜひその時には・・・。

後ろのハッチだけでなくコクピット側の入り口も階段がつけられ、
入っていくことができるようになっていました。

日本では川崎重工業が1965年(昭和40年)からライセンス生産し、
各自衛隊でKV-107として採用された他、警視庁や民間向けに販売し、
政府による武器輸出三原則が発表されるまで海外への輸出も行っていました。

自衛隊向けの機体は「しらさぎ」との愛称が付与されていましたが、
ほとんど「バートル」と呼ばれていたようです。

陸上自衛隊で導入したバートルは日本航空123便墜落事故にも出動し、
生き残った乗客を救出する姿が報道され、有名になりました。

この後継機が現行のCH-47J/JAです。

航空自衛隊は最も最近まで「バートル」を運用してきました。
UH-60Jに置き換えられることになり、2009年、平成21年11月3日、
浜松救難隊の最後の一機が入間基地の航空祭でラストフライトを行ない退役。

ちなみに2008年公開の映画「空へ-救いの翼 RESCUE WINGS-」では
この機体が飛行・離着陸を行なっているシーンが見られます。

海自も9機だけ、機雷掃海ヘリコプターとして導入しています。
MH-53E シードラゴンに置き換えられ1990年(平成2年)全機除籍されました。

父ちゃんが子供にヨタ教授(たぶん)をしているの図。
よくしたもので、たとえ間違っていても子供は片っ端から忘れてくれます。

ところで、この機体もうすっかり既視感があるんですけど。
陸自のUH-1ヒューイそっくりではないの。

と思ったらそれもそのはず、UH-1ヒューイそのものでした(笑)
説明の看板には

UH-1 ヒューイ ガンシップ 攻撃ヘリコプター

とあり、HA(L)-3、「シーウルヴス」(海の狼たち)
というヒューイ部隊のマーク(よく見ると青い狼)がノーズに描かれています。

このマークは、著作権の関係でここには載せられませんが、ドイツのビール
レーベンブロイのライオンを参考にして作られました。
レーベンブロイとは向きが違いますが、ちょっとだけ似ています。
ちょっとプジョーのマークにも似ていますかね。
青い狼が携えているのは海軍を表す「トライデント」(もり)です。

 

ところでちょっと待って、ヒューイってアメリカ軍はアメリカ軍でも
陸軍のヘリだよね?

なんでここにあって、海軍の部隊が運用しているの?
と思った方、あなたは鋭い。

 

ここで、「ガンシップ」なるものについて説明をしておきます。

ところで「ガンシップ」というとどんなヘリを想像します?
やっぱりAH-1コブラの名前が筆頭に上がるのではないでしょうか。

陸上自衛隊でもヒューイは多用途ヘリとして認識されており、
決してガンシップと呼ばれるものではないことはご存知の通り。

もともとガンシップとは読んで字のごとく、「砲艦」を意味する海軍用語です。
現在海軍では大型河川などに配備される喫水の浅い軍艦を指しますが、
どちらかというと攻撃用ヘリという意味でよく使われているようです。

攻撃用ヘリ=ガンシップの定義は、

「輸送機の機体を流用して開発した局地制圧用攻撃機」

ということになり、ベトナム戦争がきっかけで生まれた概念です。
朝鮮戦争で本格的に導入され始めたヘリコプターですが、あくまでも輸送が目的で、
ベトナム戦争初期もその役割は輸送と偵察の他、

VERTREP(ヴァーティカル・リプレニッシュメント、垂直補給)

SAR(サーチアンドレスキュー、救難)

MEDEVAC (メディカル・エヴァキュレーション、負傷者搬送)

などに止まっていました。
程なく海軍は対潜戦にヘリコプターを導入すると同時に
魚雷の搭載を始めますが、対地攻撃に対しては固定翼機にお任せの状態でした。

1965年ごろ、戦線が激化したためメコン川などの作戦に参加することになった
アメリカ海軍は、

「ブラウンウォーターネイビー(河川などで戦う海軍)」

となることを(行きがかり上)余儀なくされます。

最初、ブラウンウォーターネイビーとなったアメリカ海軍は、
ガンシップヘリを所有する陸軍第145大隊の支援を受けていました。

この陸海共同軍は「ジャック・ステイ作戦」で、メコン川流域の
南ベトナム解放民族戦線のゲリラ討伐を一応成功させはしました。

しかしながら終わってみれば、やはり餅は餅屋っていうんでしょうか、
たとえば昼夜を問わず艦船に離着艦を行うような場面では、
陸軍のパイロットとエアクルーにはそれちょっとキツイ、
みたいなことが多々あったらしいんですね。

それは陸軍のパイロットとクルーが艦船を使ってのミッションの専門的な訓練を
全く行っていなかったことからくる問題だったようです。

そこで生まれたのが、ヘリコプターガンシップを運用する海軍航空隊、
ヘリ戦闘支援第一部隊(HC-1)、通称「フリート・エンジェル」でした。

使用したのは2機の陸軍のUH-1Bヒューイ、もちろんガンシップ仕様です。

「ミッドウェイ」フライトデッキ上の「艦隊天使」は、当時の武器を搭載した
ガンシップ仕様のUH-1がそのままに展示されています。

これらガンシップはブラウン・ウォーター・ネイビーを近接航空支援し、
迅速なる敵地攻撃を効果的に行いました。

需要が飛躍的に増えたガンシップ部隊を海軍は増強し、当初のHC-1部隊は
4つの部隊に分割され、

ヘリコプター戦闘支援部隊3(垂直補給)

ヘリコプター戦闘支援部隊5&7(救助)

そして

ヘリコプター攻撃部隊 (Light) 3

つまりHAL-(3)シーウルブスとなったというわけです。
シーウルブス結成にあたり、海軍は海軍内にパイロットの志望を募りました。
志望者の中から80名が選ばれ、ベトナムに1年後から配置されています。

シーウルブスのデビュー戦?は1966年10月31日、
まだ部隊が分割される前のことで、ベトコン兵士を搭載した
80隻以上のボートに遭遇した2隻の海軍艦船の指揮官が要求した
緊急航空支援(CAS)にこたえた時です。

シーウルブスはスクランブル発進して約15分以内に現場に到着すると、
たちどころに16隻のボートを沈没または破壊したとされています。

HA(L)-3はその後も偵察、医療避難(MEDEVAC)、あるいは
ネイビーシールズの輸送と撤収というミッションをこなしました。

1972年3月16日に解隊となるまでの間、ベトナムとカンボジアでの
シーウルブスの飛行任務は実に12万回に及びました。

これらの戦闘を通して200人以上のシーウルブス隊員が負傷し、
そのうち44人が戦死しています。

コクピットドアに書かれた LT JG MARTIN COYNE、コイン中尉は、
ラインオフィサー(実務に関わる士官)たるパイロットとしてHAL-3、
おそらくMEDIVACを行なっていたシーウルブスののパイロットだったのです。

海軍の物故者名簿には、彼が2006年に64歳で亡くなったこと、
「Other Comments:」として、2007年1月、彼の妻は
カリフォルニアのサンディエゴに繋留してある
「ミッドウェイ」の
シーウルフUH-1Bの機体に夫の名前を記した、
と書かれています。

 

ところで、最初に海軍が運用しだしたヘリ部隊の名前、「艦隊の天使」
=「フリート・エンジェル」は、やっぱりヘリのローターを
「天使の輪」に見立てたネーミングなんでしょうね。

 

続く。

 



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3 Comments

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バートル (Unknown)
2018-09-02 06:59:27
V-107は、パイアセッキ(後のバートル)社お得意の水平方向に逆回転するローターを前後に付ける方式のせいで、艦艇に着艦や近接する際の進入針路の自由度が高い点がVERTREPに向いています。

写真のSH-60の場合、風を艦首から受ける針路で後方からしか進入出来ないのですが、バートルの方式だと船の正横から進入出来ます。ソ連の潜水艦を追尾しながらVERTREPを続行したというのは、恐らくバートルだったと思います。

潜水艦を追尾するソーナーは艦首にあり、推進器がある艦尾はブラインドになるので、潜水艦を艦尾方向に入れないようにするためには、状況次第では、艦首を振る必要があります。その際、SH-60のように水平方向と垂直方向に回転する二つのローターを装備する普通のヘリコプターだと、受給艦の針路次第ではVERTREP時に進入出来なくなりますが、バートル方式だと自由度が高く、多少、受給艦が頭を振っても進入出来ます。

横須賀の空母ミッドウェイと日米共同訓練をするようになった1980年代。海上自衛隊の艦載ヘリコプターは水平方向と垂直方向に回転する二つのローターを装備する方式のHSS-2しかなく、バートルがVERTREPで来た時に船の正横方向から進入して来たので、ぶっ飛んだことがあります。

バートルのような中型以上のヘリコプターは計器飛行が出来ますが、UH-1はTACAN等の航法装置がなく、有視界飛行が基本です。発艦時には目的地が分かっているので、行きつくことは出来るでしょうが、帰る時には誘導してもらわないと帰れません。上空を飛ぶ管制機に誘導してもらうか、母艦のレーダー探知圏内に入るように高度を上げないといけませんが、地形を見て飛ぶことに慣れている陸軍機には難しかったと思います。

自衛隊でも昨今、災害派遣等で陸自機や空自機が艦艇に着艦することがありますが、必ずTACAN付の機体(UH-60かCH-47あるいはAH-64)でTACANがないUH-1やAH-1は来ません。TACANなしでは、誰かに誘導してもらわないと、帰投すべき基地の方向がわかりません。
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CH-46 シーナイト (お節介船屋)
2018-09-02 19:55:26
CH-46 シーナイト
海兵隊の侵攻輸送用H-46(旧名称HRB)のバリエーションのひとつ
後ろ上部に1,400馬力のタービン・エンジン2基を併置。E型に改造されていれば出力アップと機体改修が実施されているはずです。
全備重量10.4トン、機内に兵員なら17名、物資なら1.4トン又は外部に4.5トンを吊り下げる事が出来ます。
ローター径15.6m、胴体全長13.7m、速力266km/h
座席シートは他の写真でも赤がありました。
参照海人社「世界の艦船」No291

UH-1 ヒューイ
https://ja.wikipedia.org/wiki/UH-1_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)
Wikiを見ても海軍用ガンシップはなく、空軍用です。
AH-1でも海軍用、海兵隊用は陸軍用の単発エンジンのヒュイコブラでなく、双発エンジンのスーパーコブラかバイパーであり、海上を飛行するので1基故障でも帰投出来るよう考慮され1970年から装備されています。近年スーパーコブラは近代化で4枚ブレード、出力増強等でバイパーに改造されています。
参照イカロス出版「戦闘機年鑑」
以上のことから空軍用に製造されたガンシップを海軍が譲渡を得て使用していたのではと推察します。
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海軍のUH-1 (Unknown)
2018-09-03 05:23:59
英語版のUH-1のWikiに下記の記述があります。

US Navy began acquiring UH-1B helicopters from Army (陸軍からUH-1Bを調達した)and these aircraft were modified into gunships with special gun mounts and radar altimeters and were known as Seawolves in service with Navy Helicopter Attack (Light) (HA(L)-3). UH-1C helicopters were also acquired in the 1970s.

https://en.wikipedia.org/wiki/Bell_UH-1_Iroquois#U.S._Navy

海軍は単発機のUH-1Bを導入したのだと思います。海兵隊は地上部隊の支援に双発型のUH-1Nを導入していますが、海軍ではその後、UH-1を更新せず、部隊は廃止になっています。

同じWikiのOperational historyの項にSeawolvesの母艦搭載時の写真がありますが、輸送艦(LST)にただ乗せただけですね。対空レーダーもない船なので「ただ乗せた」だけで管制機能は全くありません。日本人なら怖くて出来ません。アメリカ人、勇敢というか無茶というか立派というか(汗)

映画「アルマゲドン」で地球に破滅的な影響をもたらす小惑星の衝突を回避するため、小惑星に着陸して、爆破するために核兵器を仕掛ける石油掘りが登場しますが、航空管制なしに複数の機体を運用した実績のある人達ですから「アルマゲドン」もアメリカ人の気質を考えると、満更でたらめでもないと思いました。
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