ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

創作童話「大じいちゃんのゼロ戦」

2010-09-16 | 海軍
ぼくにはひいおじいちゃんがいる。
クラスのみんなにはおじいちゃんはいるけど、ひいおじいちゃんがいるのはぼくだけだ。

本物のおじいちゃんもいるのでひいおじいちゃんのことは大じいちゃんって呼んでる。

でもこの大じいちゃんはみんなのおじいちゃんより元気だったりする。
家族で会いに行くといつもニコニコしながらおこづかいをくれる。
「ダイスケはサッカーやってるのか。ポジションはどこだ」
なんて、よそのおじいちゃんより話もイケてるんだよな。

あるとき家族で一緒に遊びに行ってみんなでテレビを見ていたら、ブルーインパルスが映った。
パイロットはヘルメットにマスクをして隊長機が二機に無線で指示するんだ。
そして一糸乱れず宙返り。
「俺、ブルーインパルス乗りたいなあ」

思わず言うと、大じいちゃんがこちらを向いて
「ダイスケはパイロットになりたいのか?」
って聞く。
「一応、男だし」
って、ヘンな答え方しちゃった。

「大じいちゃんはゼロ戦にのってたのよ」
お母さんが言った。

え、それマジ?

「本当だ。乗ってたぞ」

大じいちゃんは写真を見せてくれた。

日本が戦争したってのはもちろん知ってるけど、まさか大じいちゃんがゼロ戦に乗ってたなんて知らなかった。
明日学校で自慢できるぜ!

白黒の写真の大じいちゃんはパイロットの服装をして、腕組みをしてこちらをにらんでいた。
「大じいちゃん、強かった?」
大じいちゃんはそれには答えない。
代わりにお父さんがこう答えた。
「おお、強かったぞ。おじいちゃんはな、みんなにゼロ戦の神様って言われてたんだ」
「・・・・マジ?」

大じいちゃんはチョー強そうに見えた。
でも、これって・・・。
今はもう仕事してないけど、お母さんが「大じいちゃんは先生だった」って言ってた。
だって、バリバリ機銃撃ってたんだろ?
そんなコワイ人が先生してちゃヤバいんじゃないか?

「大じいちゃんってさ・・・もしかしてさ」
やっぱり言えないよな。人を殺したことあるのか、なんて。
「なんだ?」
やさしい目をして聞くからつい言っちゃった。
「敵をやっつけたってことはさ、それは」

大じいちゃんはしばらく黙った。
「おじいちゃんは戦争で敵の飛行機をさんざん撃ち落とした。
おじいちゃんと一緒に飛んでいた仲間の飛行機もやられてたくさん死んでいったよ」

それから大じいちゃんはぼくにもわかりやすいようにいろんな話をしてくれた。
戦艦から離着陸する戦闘機に乗ってたこと。
自分が戦っている間に、海の上の味方の軍艦がいつの間にかみんな爆弾でやられてしまってびっくりしたこと。
飛んでた飛行機の燃料がなくなって、海の上に不時着して4時間も泳いでいたこと。
「あの時は死んだ方が楽だと思ったぞ」
よく助かってくれたよなあ。そのとき死んでたらぼくも当然生まれてないわけだから。
ガダルカナル、とかミッドウェーなんて名前も聞いた。

もちろん、敵機と戦ったときの話もあった。
そのとき撃たれたケガのあとを見せてくれた。
服に隠れてて今まで知らなかったよ。

「大じいちゃん、俺、この話学校の自由研究にしていい?もっと聞かせてくれる?」

思わず言った。

「いいとも」

大じいちゃんは少しびっくりしたみたいだったけど、すぐ嬉しそうな顔になった。
ぼくもうれしい。
だって、自由研究何をしていいのかまったく思いつかなくて困ってたんだもの。


このときの自由研究は学校で特賞を取った。
ひいおじいちゃんがゼロ・ファイターっていうだけで、自慢できるのに、いまやちょっとした校内の有名人。
びっくりしたのは音楽の先生が廊下で呼びとめて
「カワダくんのひいお爺さんって、カワダハジメさんだったのね!
先生、本で読んだことがあるのよ」
なんて言うのさ。
大じいちゃん、有名人だったんだ・・・。

先生って言えば、話聞いたときに言ってたなあ。

「戦争で殺したり殺されたりするのを見たから、もうこういうことはしちゃいけないってことを子供たちに伝えたくて先生になったんだ」

ゲームでしょっちゅう敵をやっつけたりするけど、まわりで本当に人が死ぬなんてはっきり言ってピンとこないもんな。
今回聞いた話は結構ショックだった。
でも、聞いてよかったよ。
戦争はよくない。当たり前のことなんだけど、大じいちゃんが言うから説得力ある。



この間、大じいちゃんがある会に連れて行ってくれた。
それは、昔ゼロ戦に乗っていた人たちの集まりだ。
勿論、もうみんなおじいさんになっている。
大じいちゃんだって元気だけどああみえてもう90歳なんだ。
会場にはたくさんのおじいさんと、会のスタッフみたいな人がいた。
この人たちがみんなゼロ戦乗ってたのか。
なんか信じられないな。

「カワダ中尉!」

大じいちゃんにこう呼びかける人がいた。
中尉だって・・・かっこよすぎる。

大じいちゃんはみんなの前であいさつした。
そしたらその後、司会していた人が、ぼくの名前を呼んでいきなりみんなに紹介するんだよ。

「若いときのカワダさんそっくりだ」

って声がどこからともなく聞こえる。
ぼく、ひいおじいちゃんのあの写真みたいなのかな。
あんな怖いか?
・・・でもちょっと嬉しい。
ゼロ戦と写ってる大じいちゃんカッコよかったもんな。


「ダイスケくん、君のひいおじいちゃんはね、すごい人なんだよ。
きみはそう思ってないかもしれないけど」

司会の人はこう言った。

残念でした。
こちとら大じいちゃんのすごさはもうとっくにご承知だぜ。







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