ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

海上自衛隊東京音楽隊 第58回定期演奏会 @ サントリーホール 後半

2019-02-14 | 音楽

サントリーホールで行われた東京音楽隊定期演奏会、
当日のプログラムにはロビーにあったような
自衛隊の広報写真が掲載されていました。

訓練のシーンや災害救助活動の写真など。

左はRIMPACでのスポーツ交歓でしょうか。
映画「バトルシップ」で主人公とナガタ2佐が喧嘩になった
サッカーの試合のシーンを思い出しますね。

右ページは音楽まつりの東京音楽隊おなじみの「錨」フォーメーションと、
下はよこすかYYフェスタでの艦艇の一般公開でしょう。

上の「ニコニコ超会議」って何をしたのかな?

 

昔、プログラムには楽曲解説のページもあった記憶がありますが、
いつの頃からかそれらはなくなり、自衛隊広報一本!という感じの
プログラムになりました。

コンサートのMCが、必ず

「今こうしている間も、日本の至る所で日本を守る為に勤務についている
自衛官がいることを思い出していただければと思います」

というようなことを付け加えるようになったのも、近年になってからです。

♪ 華麗なる舞曲 クロード・トーマス・スミス

【世界最速】華麗なる舞曲/C.T.スミス -Dance Folatre-

後半の最初に演奏されたのが、前回わたしが「やる気ですね」と
ここでも書き、この日一番聴くのを楽しみにしていた難曲、
クロード・トーマス・スミスの「華麗なる舞曲」でした。

インターミッション中、二人でお昼がわりのサンドウィッチをつまみながら
わたしはTOにこの曲について「聴きどころ」を解説しておきました。

「技量の高いアメリカエアフォースのバンドに『挑戦』するという意味で
作られた難度の高い曲で、一人一人にソリストの技量が求められる。
東京音楽隊が今日どんな速さでこの曲に挑戦するのか楽しみ」

 

そして、始まった瞬間・・・・!

は  や  い (  )

この時の演奏がいつか動画にアップされることになったら、
アップした動画の「世界最速」タイトルは剥奪か、あるいは
控えめに言ってもタイになるだろう、と大予言しておきます。

動画のように大人数での演奏ではないので、最初の部分はまるで、
全体的にスモークがかかったように滑らかな音形の上下降を、
要所でティンパニがピリッと引き締める、というような印象の出だしです。

この動画でわたしがあまり評価できない緩徐部分への急激な転換部分ですが、
この日は指揮者の統率によってごく自然にテンポが制御され、
実に気持ちのいい減速だったことに、いきなり唸らされました。
そして、それに続いて現れるクラリネットソロの清冽なまでの美しさ。

そのクラリネットが導くトゥッテイ(全員での演奏)は、出だしと対比を見せて、
くっきりと、かつ力強い低音を刻み、曲に尋常でないメリハリを与えていました。

後半のフーガ風の部分でもスタミナ切れすることなくテンションを維持していたのは
やはり一人一人の技量の高さの賜物であったといえましょう。

速度に関していえば、作曲者がバンドに要求する速さは

♩= 146 - 152

上に挙げた動画は168くらいと、かなり常識外れの部類なのですが、
この日の演奏も指揮者の要求を上回っていたのは間違いありません。

ただしこちらはそれでいて粒の揃い方が半端なく、一人一人が
完璧に(ここは実に自衛隊らしく)仕上げてきていると思われました。

曲が終わってから、あちらこちらでブラボーの声が上がりましたし、
司会の村上氏が改めて、

「この曲で皆さんの技術の高さがおわかりいただけたと思います」

というようなことを言ったとき、一斉に拍手が起こったことからも
当日の演奏が耳の肥えた人が多い聴衆の心に響いたことがわかります。


前に指揮者樋口二佐が横須賀音楽隊で同じスコアを振ったときには

「速ければいいってものではない。
その点今日の演奏は音を認識するのにちょうどよかった」

という感想を述べたものですが、今回、同隊長は東京音楽隊という「名器」で
あえてこの常識はずれのテンポに挑戦されたのに違いありません。

演奏後のコールでは、ミュート楽器を持ち替えてソロを行なった
トランペットの奏者がメンバーからも喝采を受けていました。

とにかくすごかったです。
この夜、この曲の世紀の名演に立ち会った気がしました。

 

♪ 歌劇「椿姫」より ヴィオレッタのアリア
不思議だわ! 〜ああ、そはかの人か〜花から花へ  ヴェルディ

ここで「華麗なる舞曲」で一仕事終えたバンドに休憩を取らせる為か、
歌手の三宅由佳莉三等海曹がピアノ伴奏だけであまりにも有名なオペラ、
「椿姫」のアリアを披露しました。

音楽隊に続き、音楽隊歌手にとってもこれは大変な「挑戦」だったと思います。

 

「椿姫」は実際のオペラでは二度見ています。
ご存知かと思いますが、原題の「ラ・トラヴィアータ」の意味は、
「道を誤った女」。

ドミモンド(高級娼婦)として裏社会を渡ってきた主人公、
ヴィオレッタのことで、昔一度、このオペラを

クラブ「つばき」のママ「菫」と、彼女を好きになってしまう
おぼっちゃまの有人(アルフレード)が、男の父(会社経営者)に
別れさせられるが、菫が癌で病死する時になって再会し、死を看取る
(ただし社長が会うのを許したのは菫が死ぬとわかったから)

と現代に設定を変えてストーリーを解説したことがあります。

享楽的な水商売の世界に生きてきたヴィオレッタが、
おぼっちゃまのアルフレードを愛しかけている自分を否定し、

「やっぱせっかくの人生楽しく過ごさなくっちゃだわ!」

と思い直して、これからも花から花へ飛び回る蝶のように
男を手玉に取って生きていく、という部分を、清楚な三宅三曹が歌いました。

 

華やかだけれどエキセントリックな主人公を表す、
コロラトゥーラ唱法を駆使した曲は普通に難曲です。

わたしが観に行ったNHKホールでの引っ越し公演で、本番をキャンセルした
歌手(ゲオルギュー)のピンチヒッターが、この曲で音を盛大に外し
その後ステージを降りてしまったことがありましたが、それも
このアリアを歌いこなすことがいかに重圧であったかということでしょう。

 

三宅三曹の場合は、この曲をマイクで歌うという時点で
すでにオペラ歌手と同じ土俵に立たせて語るべきではないので
テクニカルな点は抜きにしても、ヴィオレッタが、

「馬鹿げてるわ!こんなわたしにできるのは楽しむことよ」

と自暴自棄になって自分を嘲笑う部分など、ヴィオレッタになりきって
たった一人のステージを作り上げ、聴き手を楽しませてくれました。

椿姫・花から花へ/森 麻季

色々上がっている日本人歌手が歌うこのアリアで、
一音も装飾音を外さず、最後のEs音が完璧だった唯一の歌手、
森麻季さんの動画を上げておきます。
ご本人も会心の出来だったのか、ガッツポーズしてますね。

 

♪ 交響曲4番 「イエローストーン・ポートレイト」ジェイムズ・バーンズ

イエローストーン国立公園はアメリカ中西部、モンタナ、
アイダホ、ワイオミングの三州の境の広大な地帯に属します。

東京音楽隊は、

「SALUTE TO JAMES BARNES」(ジェイムズ・バーンズに敬礼)

というトリビュートアルバムを出したことがあり、そこには

I .Down on the Yellowstone River (イエローストーンを下る)

II. Pronghorn Scherzo(プロングホーンのスケルツォ)

III. Inspiration Point(霊感の湧く場所)

というこの交響曲が全て収められていますが、このライブ録音で
指揮をしているのは、バーンズ本人です。

CDのクレジットは2005年となっていますから、
実際に作曲者の指導を受けた隊員もまだ現役のはず。
指揮者の樋口二佐もその一人だったかもしれませんね。

彼は親日家で、数多くの日本の吹奏楽団から委嘱作品を発表していますし、
度々来日して自作の指導や指揮などを行なっていることで知られています。

この曲は、いわばバーンズ直伝の演奏を経験した東京音楽隊、
つまり「本家」ならではの演奏であったと言えるのかもしれません。

ところで、そうと知って聞くと余計に思うのですが、親日家というのは
日本的なものが琴線に触れることもあるらしく、
例えば動画の12:58からのメロディは実に日本的です。

和風、というのではなく、日本人の作った曲みたいに聴こえます。

 

イエローストーンといえば余談ですが、スーパーボルケーノ、
地球全体を変えてしまうほどの威力を秘めた巨大火山が存在します。

これが噴火を起こせば、付近一帯を大地震が襲い、続く超巨大噴火によって
イエローストーン国立公園が完全に消失するだけでなく、
火山灰によって空の便をまひさせ、世界的な食糧危機になるそうです。

つまり地球は終わるってことですね。

これを防ぎ地球を救うべく、NASAはマグマまで掘り進んで
火山の根元から冷却するついでに地熱を利用することも考えているそうですが、
うまく行っても何百年単位のプロジェクト、うまくいくものでしょうか。

イエローストーンの噴火は約60万年単位で起こっていて、
今はちょうど前回から60万年目くらいに当たるらしいですが、
これ、時差が1万年どころか千年単位でも、カスリもしないってことになるよね。


プログラム終了後、ステージに現れた司会の村上新悟さんですが、
前回は俳優の平幹二朗氏がカンヌ映画祭で着たタキシードを着用していたのに、
今回はなぜか最初から音楽隊(三等海佐の階級章)の制服を着ていました。

いつそれについて説明があるのかわたしとしては楽しみにしていましたが、
最後までそれについての釈明はなし。
つまり前のタキシードが何かの事情で着られなくなって、
用意していた服に何か問題が(ラフすぎるとか)あったため、
急遽音楽隊が制服を貸したのかと邪推されます。

制服については、

「自衛隊の制服をお借りしていますが、いいものですね。
今日はこのまましれっと着て帰ろうと思います」

と言って皆を笑わせ、さらに、

「去年の『西郷どん』で山県有朋の役をしたので、
旧陸軍の制服を着たのだが、時代や他の違いがあっても、
国を守ろうとする人の制服(つまり軍服ね)を着ると、
身も心も引き締まるような気がします」

「だから今日はこのまましれっとこれを着て帰ろうと思います」

「しれっと」・・・・。
この言葉が海軍発祥だということは村上さんご存知だったかな?

そして、アンコールはその大河ドラマ「西郷どん」のテーマソングでした。

♪ 西郷どん メインテーマ 富貴晴美

昨年12月22日にアップされていた東音の演奏で、
この日の演奏と同じように、三宅三曹のボーカルが部分的に参加です。

♪ 行進曲「軍艦」 瀬戸口藤吉 

アンコールの「軍艦」については、いつも何かしら
ちょっと違う演出を見せてくれる樋口隊長です。
例えば、観客を「指揮」して拍手の場所を指定したり、
歌手に歌わせたり・・・。

いつも通り始まった「軍艦」、今回は「観客指揮」なし、
歌手も出てくる様子がありません。

珍しく普通に始まり普通に終わるのかな、と思っていたら、
サントリーホールのあのステージ後方席、(P席と言います)
パイプオルガンの下の通路に、先ほどの「イエローストーン」で
ファンファーレの演奏を行ったトランペットのバンダが、
再び現れて、最後の「守るも攻むるも」からのメロディを
高らかに吹き鳴らしたのでした。

「軍艦」の生演奏をこういうホールで聴くと、わたしはしばしば
得体の知れない感動が込み上げてきてしまうのですが、
トランペット6本によって演奏される「軍艦」の輝かしい響きは
またしても一瞬瞼の奥が熱くなる現象を生み、
その感動の余韻は、サントリーホールを出て、買ったばかりの
我が「527」に乗り込むまで続きました。

コンサートの後の感動というのはどんな演奏であっても
それなりなのですが、音楽隊の演奏は、彼らが属する自衛隊という
組織に対し、一段と好感が深まるという余禄が加わります。

自分たちの磨きあげた演奏技術を国民のために、工夫を凝らして
披露してくれる自衛隊音楽隊に対し、いつもながら
深く、そして熱く心から賞賛と賛辞を送ったこの日の演奏会でした。

 

最後になりましたが、演奏会参加にお気遣いいただきました
関係者の皆さまがたに対し、心より御礼を申し上げます。