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平成三十年度 海自練習艦隊 「かしま」艦上レセプション@晴海埠頭

2018-05-15 | 自衛隊

前回練習艦隊行事ダイジェストをお送りしてから、一泊二日で
某自衛隊基地訪問兼観光の旅に出ており、その間行き帰りの新幹線を含め
一度たりともパソコンを開くことができませんでした。

体験航海の次の日早朝に家を出てから予定がぱんぱんに入っていたことと、
移動時間はタブレットを見るのがやっとというくらい疲れていたためです。

やっと家に帰ってきたので、艦上レセプションに戻り、そこから
改めてお話ししていこうと思うのですが、この間あまりに濃い時間を過ごし、
もうこの日のことがものすごく昔のことに思えるから不思議です。

艦上レセプション当日、晴海埠頭にレセプション開始の1時間前に到着。
この時点でわたしは去年との大きな違いに気がつきました。
皆さんはお分かりになりますか?

そう、いつもなら練習艦隊は岸壁に縦に係留し、「メザシ」状にはしません。
これは、その後別の海自基地で幹部と話をしていて知ったのですが、
晴海一帯が工事をしていて縦に並べるだけのスペースがないらしいんですね。

それで、練習艦隊はわざわざ横須賀から防眩物を持参して、
このような留め方をせざるを得なかったということのようです。

車で内部には入れましたが、この頃にはご覧のように
来客一団体につき一人エスコートに付くために、実習幹部が
ラッタルの下にようやく集合し始めたばかりでした。
ここでしばらく車を停めて様子を見ていると、わたしの前に
すでに到着していた二台が中に入って行ったのでそれに続きました。

「かしま」後甲板は、ご覧のように全天候型のパーティスペースになる
天蓋が最初から備えています。
雨が降った時はもちろん、今日のような晴天下でのレセプションも、
風を防ぐために天蓋と紅白の幕で覆ってしまいます。

この日は風があったので、幹部のほとんどは帽子ストラップを顎にかけていました。
ラッタルの下には堵列と行って、海士たちがお迎えの列を作り、
来客は右側にいる実習幹部が順番に中にエスコートしてくれます。

ただ連れて行くだけでなく、社交(ソーシャル)を行うことも
実習幹部にとっての大事な「訓練」の一貫という考え方なので、
彼らはどんな相手にもそつなく会話をし、飲み物を用意し、
わたしの場合のように、会場がオープンになるまで話し相手を務めます。

こういう慣習は、自衛隊の中でも海上だけにあるもので、それも皆
世界の海軍におけるスタンダードに倣っているというわけです。
これが例えば海外で行われる場合は、彼らは外国の賓客などを相手に
同じことをしなければならないということなんですね。

ところで上の写真を見ていて、「かしま」の艦腹に、いかにもタッチアップした、
というように見えるいくつかの部分を発見しました。

横須賀で米海軍の艦艇を見たことがある方なら、自衛隊の艦艇が
いかに綺麗に保たれているかにびっくりされると思いますが、
その中でも「外交」を行う練習艦隊旗艦である「かしま」には、見たところ
米軍艦に見られるようなサビのようなものは染みサイズでも確認されません。

この部分は、何かが当たって傷ができてしまい、それを修復した痕のようですが、
傷が結構深いらしく、隠せていないのと、そこだけペンキが浮いたようになっていました。

しかし、こんな努力をしていることそのものが凄いですよね。

ラッタルの上、舷門と呼ばれるらしいところには、何人かの
「お迎え要員」が待機を始めました。

左に停車しているバスは電車の駅と現地を往復するシャトルです。
タクシーで来場した客が現れ、実習幹部たちが姿勢を正しています。

初めて「ホヒーホ〜〜」とサイドパイプが聴こえてきました。
袖に俗称「ベタ金」つまり、「金成分の多い」階級章をつけた
海将が空自の幹部を伴って来場したようです。

階段の上、右手にサイドパイパー(号笛を吹く人)が見えますね。

40分くらい経って意を決して車を降り、歩いて行くと、
どこから現れたのかというくらい気配を感じさせずに
背の高い実習幹部が斜め後ろからやって来て横に立ち、

「ご案内いたします」

この方には会場までご案内いただき、待ち時間に少しお話をしました。

◾️実習幹部 アルファー三尉

「防大ですか?一般大ですか?」

実習幹部には必ずこのことを聞くことにしています。
アルファー三尉は一般大卒で、

「いくつかの一般企業と自衛隊を比べた結果」

自衛隊にきた、と語りました。
つまり職業選択の段階でいくつかの選択肢の中から選んだのが自衛隊だった、
というパターンです。
そしてそういう幹部のほとんどは、

「自衛隊でしかできないことにチャレンジしてみたい」

というのが選択の大きな動機となっているようで、アルファー三尉も
固定翼機操縦が志望だということでした。

「眼鏡はパイロットになるのに問題はないんですか」

アルファ三尉が眼鏡着用なので聞いてみると、

「P-3の場合はヘリパイロットほど重要視されないようです」

実はわたしはこの後、海自の飛行基地訪問をし、関係者と話していて

「昔はパイロットは坂井三郎みたいに視力5.0とか(!)ないとダメで
さらに航法も機上で手動計算していたため、適性が大変厳密だったけれど、
今は科学の発達に助けられる部分が多い」

というふうなことを聞きました。

ヘルメットで視力も矯正できてしまうらしいですし、
その点昔よりは間口が広がったのかもしれません。

アルファ三尉には、改めて本年度の遠洋航海の航路を説明してもらいました。
彼は待機していたクロークルームに貼ってあった航路図の前にわたしを案内し、
今年の航路が西回りで、インドネシアのジャカルタからスエズ運河経由で
ヨーロッパを周り、スペイン、イギリス、そして北欧から大西洋横断、
パナマ運河を去年の反対側から通過して最後にハワイ、というものであることを
説明してくれました。

そのうち開場になり「かしま」後甲板のレセプション会場に到着。
当たり前のように豪華な舟盛りが、正面、そして両舷?のテーブルに一杯ずつ。

写真を撮りながら顔見知りの方に挨拶などするうちに人がどんどん入ってきます。
そこで気が付いたのが、

「来場者の誰一人として食べ物に手をつけようとしない」

ということでした。
艦上レセプションには東京と横須賀にしか参加したことがなかったわたしは
これが当たり前だと思っていたわけですが、決してそれは
全国スタンダードでないことを大阪南港でのレセプションで知ったばかり。
今更ながらに練習艦隊司令泉海将補が大阪のパーティで言い放った、

「実習幹部には大阪ではユーモアを学ばせたい。
東京ではマナーを学びます」

というのがある意味至言であると納得した次第です。

大阪人の名誉のために申し上げておくと、彼らの行儀が東京より悪い、
ということでは決してないのですが、大阪人というのは「花より団子」と言いますか、
建前(社交)と本音(食べ物)があれば後者をまず取る実利的な傾向にあり、

「はよ食べんとなくなってまう!急がな!」

という特有の’いらち’気質も手伝って、誰か一人が乾杯前に手をつけると、
我も我もと続き、結果、開始の頃にはメインテーブルの食べ物がなくなってしまう、
ということになるらしいのです。

あくまでも噂ですが、練習艦隊では例年大阪でのレセプションの際、
他の地域との比較でいうと、

「食べ物2倍、カレー3倍」

の量を用意しているそうです。

しかも、わたしも少し勘違いしていたのですが、水交会などのパーティはともかく、
練習艦隊がホストとなるレセプションでは、実習幹部はエスコートと社交で
参加客をもてなすことを厳命されているため、彼らが若い食欲に任せて食い尽くす、
ということは全くないわけですから、(食事は軽く済ませているらしい)
これは単に大阪人が特別健啖かつ遠慮をしない結果なのでしょう。

そんなことを考えながら写真を撮ったりしていると、そこに
飲み物のおかわりはいかがですか、と声をかけてくれた実習幹部がいました。

◼️ 実習幹部 ブラボー三尉

ブラボー三尉はすらりと背が高く、さらに見惚れるほど姿勢の良いイケメン君です。

「姿勢がいいですねえ!」

防大出身者と一般大出身者に、我々素人にも見てわかる僅かな違いがあるとすれば、
それは姿勢の良さかもしれません。
4年間の生活でそれが習い性となっている防大出身者は、
姿勢の良さに年季が入っていると感じる瞬間があります。

もちろんそれは微々たる違いで、練習艦隊出発前のレセプションで、
出身を聞いてやっぱり、と感じる程度のことに過ぎないのですが、
彼の場合は、その姿勢の良さからてっきり防大出身者だと思ったくらいでした。
しかしそれをいうと、

「剣道をやっていました」

という答えが返ってきて、ものすごく納得した次第です。

ブラボー三尉も就職活動の段階で一般企業などもリクルートし、
その結果選んだのが海上自衛隊であったということで、その理由は

「船乗り(になりたいと思ったから)です」

ということでした。

地本の方などに、海上自衛隊への志望者の少なさで苦労している、
などと聞くこともあるわたしは、こんなきっぱりした答えを聞くと
なぜかとても嬉しくなってしまいます。

ちなみに翌日、体験航海で乗った「まきなみ」で、ブラボー三尉に再会しました。
出港前に甲板ですれ違ったのですが、「船乗り志望」という彼の言葉を思い出し、

「今日(の航海)はよろしくお願いします」

と声をかけて熱い激励に変えさせていただきました。

「かしま」には右舷から入り、クロークを経て左舷舷側から坂を下りるように
入場することになります。
レセプション会場には練習艦隊司令官夫妻、「かしま」艦長、そして
「まきなみ」艦長が並んでお出迎えをしてくれます。

この写真で今司令とご挨拶されているのは海将です。
会場にはちらほらと政治家の姿も見え、たくさんの人がすでに入来していますが、
皆、飲み物を片手に静かに談笑し、この雰囲気はやっぱり東京、という感じ。

国内巡航を済ませた今、レセプションを通じて知る土地柄や人の違いなども、
何もかも初めての実習幹部には興味深く映っているかもしれません。

 

続く。