あの2人は何?

2022年08月22日 | 暮らし

45年ほど前(1977年)の今頃だったと思う。
そのとき私は、東京の駒込にある4畳半のアパートに住んでいた。
その日は日曜日だった。
私は、明日からまた仕事だと思って、落ち込んで冷や酒を飲んでいた。
午後11時過ぎ、ドアをノックする音が聞こえた。
私は、こんな時間に誰だろう?と思った。
「どなたですか?」
そのアパートの廊下を挟んだ左斜め前の部屋の男と、
たまに酒を飲んで話すことがあったので、その男かな、などと思った。
「あなたの身体のことで、大切なお話があるのですが・・・」
と女性のか細い声が聞こえた。
25歳の独身の私としては、可愛い声の女の子ということだけで、ドアを開けてしまった。
そこには、170センチの私より10センチほど背の低い女性が立っていた。
「すみませんこんな時間に、どうしてもお話がしたかったものですから」
「なんですか?」
「あなたのお身体のことが心配なんです。お話聞いていただけますか?」
白いブラウスに紺の短めのスカートの女の子が、暗い廊下に立っていた。
「どういうことですか?」
私としては、そういうしかなかった。
「お部屋に入ってもいいですか?」
「エッ!!」と私は思わず声を出した。
深夜に近い時間に、知らない女性が部屋に入るという。
すると、女性としての匂いの少ない、ショートカットの女の子が私の部屋に入ってきた。
すかさずその後ろから、痩せ型の男が部屋に入ってきた。
そのことに私はビックリした。
ああ・・・、そういうことか、と納得した。
おそらく彼は、廊下の奥にいたのだろう。まったく彼の存在に気がつかなかった。
部屋の真ん中に座卓があり、そこに私は酒を置いて飲んでいた。
座卓を挟んで私と、2人は向き合った。
ガタガタうるさい古い扇風機が、部屋の空気を無意味に動かしている。
そして男は、真面目な顔で話し始めた。
「私たちは、この地区に住んでいる若い人の健康を心配しています。
 健康な人間の身体はアルカリ性です。だけど食べるものには酸性が多く、
 気がつかないうちに酸性になってしまうのです」
そういって男は私にリトマス試験紙のようなものを差し出した。
「これを舐めて下さい」
青い紙を私が舐めると赤くなった。
「やはり、あなたの身体は酸性です」
そういってから男は、赤い紙を舐めた。するとそれが青くなった。
「私はアルカリ性です。酸性は身体に悪いんです。ぜひアルカリ性にしましょう」
「なんで酸性ではいけないんですか?」と私。
「人間の身体はアルカリ性がいいということは常識です。
 ぜひあなたもアルカリ性にしましょう。そのためには、これを飲んで下さい」
といって10センチほどの箱を私の前に置いた。
その箱には朝鮮人参という文字が見えた。
「これを毎日飲むとアルカリ性になります」
と男がいう。女性は大きく頷いているが、ずーっと黙っている。
「それはいくらなんですか?」
男は、それを毎日飲んで半年ほどすればアルカリ性になるという。
半年分で、15万円だという。
私は、そんな金はない、と断った。
すると3ヶ月だけでも飲めばアルカリ性になる、と男はいう。
それでも75,000円だ。
私はその金もない、という。
「私は、あなたの健康を心配して勧めているんですよ」
と男は大きめな声でいう。
それからああだこうだ、声を大きくしたりささやいたり男は私に話してくる。
私はお金がないので買えません、といくらいっても、男と女は部屋から出て行かない。
ローンでも払えるという。
午前2時ぐらいになって私は、大きな声を出した。
「出て行け!!」
2人は立ち上がり、部屋から出て行った。
あれは、なんだったのだろう?
もしかして・・・?

コメント
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