■ 黒い白鳥? ■
白鳥は白い色をしているから「白鳥」と呼ばれています。
ところが、かつてオーストラリアで「黒い白鳥」が見つかりました。
当時のヨーロッパの人達は、大変ビックリしたそうな・・・。
経済でも極たまにブラックスワンが現れます。
常識的には危機など起こりそうもない所から、
突然危機が発生する事を、ウォール街の有名なトレーダーの
ナシム・ニコラス・タレブが「ブラックスワン」と呼称したのが始まりです。
■ 経済が人心に左右される以上、ブラックスワンは何度でも現れる ■
リーマンショックで債券金融市場は崩壊しましたが、
「大数の原理」という統計理論上は、破綻は決して起こり得ないものでした。
債券の中には破綻するものも当然あります。
しかし、全体の中に破綻の占める割合は決して高くはありません。
そこで、色々な債権を細切れにして、混ぜ合わせれば、
一つの債券を所有するよりも損失のリスクは小さくなります。
債券金融システムの根本的な発想は、
リスクを極限まで分散する「大数の原理」という統計的原理に支えられていました。
この理論に則れば、合成債券の内の7%が破綻しなければ、
システムは維持出来るはずでした。
ところがサブプライムショックによって
アメリカの比較的貧しい人達のローンが破綻した時、
リスクの細分化がリスクを拡大するという皮肉な結果を生みます。
自分の所有する合成債権であるMBSや、
それらを組み込んだ金融商品が、どれだけの損失を抱えたのか
誰も分からなくなっていたのです。
実際には、数パーセントに満たない損失であろうと思うのですが、
「キズモノ」になった金融商品は一気に暴落します。
理性的に考えれば、慌てる事など無く、
粛々と損失を確定するだけで良いハズなのに、
金融商品は「生もの」ですから、バイキンが混入すれば一気に値下がりします。
そこの「リーマンショック」が追い討ちを掛けます。
アメリカの大銀行であるリーマン・ブラザーズが経営危機に陥りますが、
金融界の大勢は、リーマンは救済されるであろうと思い込んでいました。
ところが、米国政府はリーマンブラザーズを救済しませんでした。
これによって、一気に金融危機が加速化します。
誰もが大銀行は潰れないとタカを括っていた所、
大銀行だって破綻する事を改めて見せ付けられたのです。
銀行株は暴落し、金融商品の多くは、投売り状態で一時的に価値を失います。
常識的に考えれば、経済の根幹を成す銀行が全て潰される事など有り得ないのに、
人々は、次は何処が潰れるのかと疑心暗鬼に陥りました。
金融の世界では、1日などの極々短期で資金をやり取りする
コール市場という市場が存在します。
ところが、貸した先に銀行が明日破綻するかも知れない状況で、
コール市場に資金を貸し出す銀行は、激減します。
あらゆる金融機関が危機に備えて、
手元の資金を手放さなくなったのです。
こうして、何という事の無い「貧乏人の破産」が
世界の金融市場を崩壊の一歩手前までに追い詰めます。
これこそが、常識的には存在しない危機である「ブラックスワン」です。
ブラックスワンは人々の恐怖によって出現します。
■ キプロスのデフォルト ■
ギリシャの南に浮ぶ島、キプロスの知名度は決して高くありません。
ネットの情報では、2年程前から、
ギリシャよより先にキプロスが破綻する事は常識でしたが、
キプロスの経済規模があまりにも小さいために
マスコミはこの問題に注目する事はありませんでした。
キプロスは北半分をトルコが支配し、
南半分はギリシャ系住民による独立国家「キプロス共和国」が支配しています。
元々は英国領だったので、英連邦の加盟国でもあります。
こんな小国ながられっきとしたEU加盟国で
さらにはユーロを通貨として採用しています。
尤も、農業くらいしか産業の無いキプロスは、
「世界で尤も金融規制の緩い国」として成り立っている国でした。
世界に幾つか存在するマネーロンダリングの聖地だったのです。
ロシア人の富裕層がキプロスの金融機関に預金しています。
さらに、日本のFX業者に幾つかも、キプロスに口座を構えています。
キプロスはリベリアやギリシャと同様に「便宜置籍船」でも有名ですが、
同様に銀行預金へんの課税率の低さで、ロシア人の資金を誘導していたのです。
そんな国が財政破綻の危機に瀕します。
そこで、EUは銀行の高額預金に10%の課税を掛けるならま
キプロスを救済してやると持ちかけます。
(預金残高の低い口座は6%代の金利)
損をするのはロシア人の成金なので、
キプロス政府はアサリとこの条件を受け入れます。
■ 法整備の前に封鎖される預金 ■
いくら小国とは言え、キプロスも法治国家です。
ある日いきなり預金に課税すると言っても、国会承認が必要です。
ところが、この法案が国会に提出される前に、
先週の土曜日以来、キプロスの銀行は窓口を閉め、
ATMも稼動していません。
当たり前の事ではありますが、
10%課税されることが事前に知れ渡れば、
多くの国民が預金を引き出します。
そこで、法案成立より先に銀行が預金封鎖を実施して、
金融機関からの資金流出を防いだのです。
こうして、キプロス国民の預金はあっけなく封鎖されてしまいました。
■ 何の前触れも無く封鎖される預金 ■
当たり前と言えば、当たり前の事ですが、
預金封鎖の実施に何の前触れもありません。
突然実施するから預金封鎖なのであって、
事前にアナウンスをすれば、預金引き出しの列が出来て、
銀行は取り付け騒ぎになり、当然破綻します。
■ 預金封鎖の解除が難しい ■
問題は預金封鎖の解除です。
銀行の信用を失われていますから、
人々は我先に預金を引き出そうとします。
しかし、銀行は預金のの90%を運用に回していますから、
預金引き出しが発生すれば、一瞬で破綻します。
ですから、今回注目すべきは、
預金封鎖解除後の預金者達の行動です。
はたして取り付け騒ぎに発展するのか、
人々は冷静に対処するのか、注目されます。
多分、引き出し金額の規制を掛けるなどの方法で、
預金の流出を食い止める一方で、
EUの支援を確実とする事で、
国民の不安を沈静化して行くのでしょう。
■ 実験には最適な小国 ■
キプロスは小さな国なので、債務の総額が少なく、
救済が比較的容易な国です。
言うなれば、預金封鎖の実験には最適な国とも言えます。
1) ロシア人の怪しいカネを少し頂く
2) 預金封鎖の影響を調べる
3) ユーロ安への誘導
ギリシャやスペインの国民がキプロスの状況をどう見ているかは分かりませんが、
単に、不安を煽るだけの様な気もします。
■ 気づいたら、黒い白鳥で池が埋まっていた ■
キプロスの預金封鎖が、ブラックスワンの出現に繋がる訳ではありませんが、
金融界では、最近、ブラックスワンの話がチラホラと出ています。
アメリカや日本の株高と相反して、
市場にはピリピリした空気が漂い始めました。
しかし、面白い事に、人々はこんな危機感にも直ぐに慣れてしまします。
池の水面を、黒い白鳥が埋め尽くしても、
それが普通の光景として認識されるなら、
金色の白鳥でも現れない限り、
金融界は危機の上で平穏を装い続けるのかも知れません。