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シェールガス革命という幻想・・・急激に産出量が減るガス田

2013-03-09 07:50:00 | 時事/金融危機
 



■ シェールガス革命とう幻想 ■

新聞の一面で宣伝されている事はウソが多いのですが、
現在最大のウソは「シェールガス革命」でしょう。

上のグラフは、アメリカにある大規模なシェールガス油田の
産出量の経年変化のグラフでしが、
ガス田稼動直後こ、大量にガスが産出されましが、
時間と共に産出量は急激に減少します。

■ スポンジの中にガスと、きつく絞った雑巾の中のガス ■

従来のガス田や油田は、砂岩から産出しました。
砂岩は隙間が多く、そこにガスや石油が溜まっているのです。
丁度、スポンジの中の空気や水に似ています。

これらの砂岩は、圧力が掛かるとガスや石油が他の地層に漏出してしまいます。
ところが、砂岩層の上下を頁岩という固い堆積岩でサンドイッチされている地層では
砂岩中のガスや石油は閉じ込められています。

この様な状態の砂岩に地上からボーリングで穴を開けると、
砂岩には高い圧力が掛かっているので、
天然ガスや石油が噴出してきます。
これが、従来型の油田やガス田で、自噴油田などと呼ばれています。

映画ジャイアンツの中で、ジェームス・ディーンは油田を掘り当てますが、
真っ黒な原油が、勢い良く噴出します。
原油まみれで真っ黒になったジェームス・ディーンの姿が印象的ですが、
これこそが「自噴油田」なのです。

最初は自噴していた油田も、圧力の低下に伴って自噴は停止します。
その後は、水や海水などを高圧で砂岩層に注入し、
残りの原油やガスを搾り出します。

一方、石油やガスを含む砂岩層をサンドする頁岩層も
ガスや原油が沁み込んでいますが、
岩の構造が緻密な為に、ガスや原油は自由に移動する事は出来ません。
穴を開けても、穴の周囲のガスが、プシュッと一回噴出したらそれでオシマイ。

そこで、高圧な水圧を掛けて岩を粉砕し、
ガスや原油の移動を自由にする事で、ガスや原油の収量を増やす技術が開発されます。

しかし、頁岩層は薄く広く分布する為に、
縦に穴を開けて、その周囲の岩を粉砕しただけでは、直ぐにガスの噴出は止まってしまいます。

そこで、頁岩の中を水平にボーリングし、そして岩を粉砕する技術が開発されました。
これこそが、シェールガス革命をもたらした、革命的な技術なのです。

しかし、多大なコストを掛けてガス田を開発しても、
冒頭のグラフの様に、ガスの収量は急激に減少します。
頁岩層は面上に広がっていても、ガスを産出する穴は線状です。
水平パイプの周囲の岩盤のガスが噴出してしまえば、
それでそのガス田の寿命は尽きてしまいます。
後は同様の穴を増やすしかありませんが、それにはコストが掛かります。

在来型の油田は、スポンジの中の水を絞るのと同様に、
低コストで原油がガスを算出出来ましたが、
頁岩中のガスや原油は容易には産出出来ません。

硬い雑巾を絞っても、水はほとんど出てこないのです。

■ 埋蔵量は多くても、産出量に経済的限界がある ■

頁岩層は広く分布していますから、
シェールガスやシェールオイルの分布はアメリカのみならず世界中に広がっています。
当然、推定埋蔵量も膨大です。

しかし、上述の如く、産出にはコストが掛かり、
在来油田やガス田には対抗できません。

埋蔵量に比較して、産出可能な資源量が少ないのがシェールガスやシェールオイルです。

■ オイルサンドや深海油田の方が有望 ■

硬い頁岩層の中のガスや石油よりも、砂の中のガスや石油の方が移動し易いのは誰にでも分かります。
そこで、石油を含んだ砂(オイルサンド)から石油を搾り出す方法も開発されています。

オイルサンドも世界中に分布していますが、
在来油田に比べて産出コストが高いので、それ程開発が進んでいません。
むしろ、深海油田の開発の方が先行しているでしょう。

結局、油田やガス田は生産コストの安いものから開発され、
資源量の減少によって、次の産出方法が選択されてゆきます。

アメリカはシェールガス革命などと浮かれていますが、
産出コストの高いシェールガスのブームがどれ位続くのか、興味津々です。

■ 環境破壊が開発のネックになる ■

地層中の石油やガスは有害物質を含んでいます。
通常は、頁岩の層に阻まれて、それらの有害物質が環境中に漏出する事はありません。

しかし、頁岩の層を砕いて産出するシェールガス開発では、
こられの封じ込められていた有害部室が環境中に漏出します。

シェールガスの採掘には高圧の水(化学薬品を含む)が大量に使用されますが、
これらの水も地下水に流れ込み、飲用水を汚染したり、水源を汚染する事が問題となっています。

頁岩層が広く分布していても、人口密集地や、自然破壊の可能性が高い地域では
シェールガスの開発認可が出されなくなりつつあり、
特に環境意識の高いカリフォルニアなどの諸州では、
シェールガスの開発には慎重です。

■ 一瞬の花火の様な「シェルガス革命」 ■

アメリカ経済復活の象徴の様に持てはやされる「シェールガス革命」ですが、
そのブームは一瞬で消える花火の用なものだと私は考えています。

確かに資源としては存在しますが、
それを利用しなければならない状況は、在来資源が枯渇した後に訪れます。
今はまだその時期ではありません。

そして、資源を買えるうちは、海外の資源をお金を出して買い、
お金が無くなってから、国内資源に手を付ける事は
国家戦略の基本です。

貴重な国内資源に手を付けざるを得ない状況にアメリカ経済があるのなら、
それは、アメリカ経済に危険信号が灯っていると考えるべきでは無いでしょうか?

■ シェールガスやシェールオイルを開発したという事は、ドルが暴落する前兆? ■

アメリカがコスト度外視で、国内の貴重なシェールガスやシェールオイル開発に乗り出したという事は、
一つの重大な危機の発生を予感させます。

それはドルの下落です。

ドルが原油の決済通貨ですが、
ドルが下落するとアメリカの原油やガスの輸入コストは値上りします。

これは、アメリカ経済には、大打撃で、
ガソリン代やエネルギーコストの増大となって家計を直撃し、
景気を一気に失速させます。

アメリカは米国債の債務を低減させる為に、
「安いドル」政策を取って来ました。

「安いドル」政策が成り立つのは、輸入物価が安く安定していた為です。

その為に、アメリカは韓国や中国に投資して、
日本よりも安い商品を生産させ、国内物価の上昇を抑制してきました。

一方で、原油価格の動向には神経質で、ガソリン価格を抑制しています。
ガソリン価格の値上がりが、国民の不満を生む事を知っているからです。

リーマンショック直前に過剰流動性の流入で高騰していた原油価格は、
リーマンショック後の需要低下を受けて、大幅に下落しています。

しかし、量的緩和で大量に増刷されたドルにより、
再び原油価格は、ジワジワと上昇しています。

アメリカがドルを下落させて、債務を圧縮する為には二つの方法があります。

1) デフォルトを宣言して、債務をチャラにする
2) ドル安政策で、対外債務を実質的に圧縮する

いずれの方法をとっても、ドルは下落する事になります。

■ 中東の利権を失いつつあるアメリカ ■

世界の覇権体制の変化も、シェールガス開発と密接に関係しています。

アメリカの財政は、最早「世界の警察」たる軍事力を維持する事は出来ません。
今後、アメリカが緊縮財政に転換するならば、
軍事費が率先して減らされてゆきます。

これは規定事実の様で、イラクやアフガンから米軍は撤退します。
アメリカは中東における軍事的プレゼンスを大幅に縮小しつつあります。
これは、アメリカのエネルギー政策の大きな変換を意味します。

「中東の春」でアメリカが密かに支援する「反米政権」が転覆させられました。
現在はシリアで、CIAの出先機関であるアルカイーダが、アサド政権を転覆しつつあります。

「中東の春」は、エジプトでもリビアでもチェニジアでもシリアでも、
「中東の夏」に変わりつつあり、各地で内戦の火蓋が切られつつあります。

表面的には、「反米世間の転覆」の様に見える「中東の民主化」ですが、
結果的には各国で、「イスラム原理主義勢力の台頭」を許しています。

これは、アメリカがアフガニスタンから撤退した後に
タリバーンとアルカイーダが台頭した事に似ています。

アメリカの後にアフガニスタンに侵攻したソ連は、
タリバーンに苦しめられ、終には撤退しています。

同様に「中東の春」とは、アメリカ撤退後に中東に進出する国家に、
災いの種を蒔いて邪魔をする動きの様にも見えます。

イギリス、フランスなどNATOが協力しているもで、
一筋縄ではいきませんが、これらの旧宗主国にとって
「中東の春」がメリットになるのか、それともデメリットになるのか、
注意深く見守る必要がありそうです。

■ 中東の混乱が、石油ショックを引き起こせば、アメリカのメリットは大きい? ■

「中東の春」がサウジアラビアやアラブ首長国連邦など、
アメリカの傀儡政権に飛び火すれば、
中東の政治・軍事バランスは大きく崩れます。

イスラム国家の海の中で、イスラエルが孤立するのです。

ここで、イスラエルがオトナシイ普通の国となってアラブとの共存を選ぶのか、
それとも、恐怖にかれれて他国に攻撃を加えるかによって、世界の将来は大きく変わります。

もし、中東戦争が勃発したら、原油価格は暴騰します。
石油ショックの再来です。

但し、原油の供給地も世界全体に分散しているので、
1970年代程、過激な「ショック」にはならずに、
需給関係から、ジリジリと原油価格が上昇する様な動きになるでしょう。

原油が値上がりすれば、原油の輸入国はより多くのドルが必要になります。
有事のドル買いも手伝って、ドルの為替相場が上昇し、
「強いドル」が復活するケースも考えられます。

シェールガス、シェールオイルでエネルギーの自給が出来るのならば、
アメリカ経済の一人勝ちという状況も有りうるかも知れません。

「強いドル」「強い米国債」が復活する可能性は否定出来ません。

80年代の「レーガノミクス」による強いドル政策と「湾岸戦争」への歴史が
再び繰り返されるのかも知れません。

■ 「シェールガス革命」によって変化する世界 ■

いずれにしても、「シェールガス革命」がアメリカにもたらす影響は小さくないのですが、
問題は「シェールガス」がコスト的な魅力を発揮する為には、
エネルギー価格の高騰が不可欠です。

もし、エネルギー価格が現状で推移するならば、
「シェールガス革命」は花火に様なブームで終わり、
その後、アメリカは、経済の長期低迷を受け入れなくてはならなくなります。

資源としては「夢の」とか「革命」とは程遠い「シェールガス」ですが、
世界に与える影響は決して小さくは無い様です。



参考までに

エネルギー大国アメリカ・・・シェールガス革命(人力でGO」2012.06.06)