■ 「景気」の「気」の字は気分の「気」 ■
連日の様に新聞やニュースが日米の景気回復の「兆し」を報道しています。
日経平均が連日上昇だの、ダウが市場最高値を更新だのと
「景気の良い」話が目立つ様になりました。
先日、実家に顔を出したら母親がこう言いました。
「あんた、ブログとかで経済が崩壊するなんて書いてると、笑われるわよ!!」
既に、世間の多くの人は、「好景気」が始まると思い込んでいます。
メディアの力とは恐ろしいものです。
しかし、一方で「景気」の「気」の字は「気分」の「気」の字。
思い違いでも、「好景気が来る」と人々が予測すれば、
確かに「期待インフレ率」は上昇し、景気は回復に向かう事も事実です。
銀行預金に凍結されていた家計の資産が、
少しでも消費に向えば、経済の歯車は回転し始め、
潤沢に供給されるマネーは、マネーストックの拡大によって景気を回復させます。
■ 市場を支配する「投資家」? ■
景気回復の最終目的は消費の拡大ですが、
マネタリーベースの急拡大は、それに先立って「資産バブル」を発生させます。
昨今の投資家は非常に短気です。
どれだけ早くお金を増やすかという事を最重視します。
この場合、投資家という呼称は個人を想像させるので適切ではありません。
ファンドマネージャーや投資銀行のトレーダー達が現代を代表する投資家です。
彼らは運用実績を細かく管理しています。
短期間で最大のパフォーマンスを上げる様に資金を絶えず移動しています。
そして、彼らの動かす巨大な資金は、市場の動向をも左右します。
リーマンショック以前の勢いは無くなったとは言え
彼らは大きなレバレッジを効かせて利益を拡大します。
短期に大量の資金を借り入れ、
それを運用して利益を拡大します。
低金利で彼らの借り入れコストは低下していますし、
中央銀行が金融緩和を継続している限り、
金利上昇のリスクを意識する必要もありません。
こうして、巨大な資金が、ある特定の市場を買い上げて行く過程で、
市場は徐々に加熱して行きます。
相場上昇のきっかけは、これらの「投資家」達によって演出されるのです。
■ 「小さな波」と「大きな波」 ■
相場の変動には「小さな波」と「大きな波」があります。
「小さな波」は日々の変動です。
雇用統計や、政府高官の発言を材料に、売り買いが行なわれ、
利幅は大きくなくとも、確実に利益を(損失を)上げてゆきます。
「大きな波」は、数ヶ月や数年という周期で現れます。
その市場の将来性や、政治の混乱や安定、
国家の政策や、産業の将来動向などによって
投資家達が長期的にその市場に資金を投入し続ける事で、
市場価格は細かい上下を繰り返しながらも上昇し続けます。
「投資家」達の間に、しばらくはこの市場を買い上げるという「暗黙の合意」がある場合、
誰かが裏切って派手に売り抜けない限り、相場は上昇し続けます。
「トレンド」などというシャレた呼ばれ方で誤魔化していますが、
「談合」とか「暗黙の合意」と言い換えた方が実体を反映ます。
「昨年11月来の円安「談合」で、円は長期に渡って下落しています」
こう言ってしまえば、身も蓋も有りませんが、
日銀が海外ヘッジ勢に資金提供を再開した昨年末の時点で
現在の相場の「合意」が形成されていたと言えます。
■ 「資産バブル」が実体経済に波及する ■
現在の日本の株高は、「合意」に則って海外投資家が日本株を買い上げているだけです。
それでも、新聞やTVの報道は、「株高」や「景気回復」と表現します。
「景気」の「気」は「気分の気」ですから、
これで個人投資家達の資金が株式市場や不動産REIT市場に流入すれば、
市場価格は本格的に上昇し始めます。
現在の日本の経済は、円安で輸出企業が一息付いているだけで、
景気回復には程通い状況ですが、
株式市場や不動産市場では、「プチバブル」が発生しています。
「資産バブル」の初期は、個人投資家達はさらなる利益を求めて投資を拡大します。
儲けは再投資されるので、実体経済への影響は少ししかありません。
ところが、そこそこ利益が確保されると
個人投資家達は資金の一部を消費に傾ける様になります。
「株で儲かったから車を買い替えよう」とか、
「不動産が値上がりしたから、家を買い換えよう」となるのです。
日本の「大バブル」は、こうして「資産バブル」が実体経済の好景気に繋がりました。
不動産投資が牽引する中で、建築業や不動産業の利益が社員の所得に還元され、
それが実体経済をも過熱させて行きます。
■ 「大バブル」が来るのか「小バブル」で終わるのか ■
現在の日本は株式市場と不動産市場で「プチバブル」が発生していますが、
これが本格的な「大バブル」に発展するのか
それとも「小バブル」で弾けてしまうのか、
個人投資家達も判断に困っているはずです。
塩漬けにしていた資産を処分したい人は、
「大バブル」の発生を心から望んでいます。
一方、TPP参加や来年4月の消費税増税など、
景気の不安材料は確実に存在します。
そもそも、「大バブル」の崩壊を経験した日本人は、
かつての「楽観」を失っています。
「バブルはいつか弾ける」事を知った国では容易に「大バブル」は発生しません。
臆病になった国民が、アニマルスピリットを取る戻す為には、
カリスマ性を持った指導者が必要です。
小泉氏が備えていたカリスマ性を、安倍氏が備えている様には思えません。
今後、TPP問題や、消費税増税がクローズアップされる中で、
安倍氏の人気は徐々に低下して行くでしょう。
それでも、人々が「景気は回復する」と期待を抱いている間は、
安倍氏も限定的なカリスマ性をまとい続ける事は可能です。
これには、マスコミの協力が不可欠です。
■ 「資産バブル」でしか消費を刺激出来ない「恵まれた社会」 ■
先進国の多くは物質的充足を達成しています。
ですから、20年続く不景気下でも私達は豊な生活を維持しています。
(二極化の進行で、豊さから転がり落ちた人々も居ますが)
更なる消費をしようにも、現在の生活で大方満足しているので、
例え余裕な資金があっても、「貯金」して将来に備えようと考えます。
それとは別に「泡銭」が手元にある場合、人々は消費を拡大します。
ですから先進各国で消費を拡大する為には、人々に泡銭を掴ませるしか方法がありません。
それには「資産バブル」を発生させることが、最も簡単な方法です。
■ 中央銀行は「資産バブル」を作る事は出来ても「インフレ」を作る事は出来ない ■
リフレ派は中央銀行の金融緩和でインフレを作り出せると主張します。
しかし、中央銀行が作り出したかに見えるインフレの原因は、
金融緩和では無くて「資産バブル」の余剰金が、実体経済にあふれ出したものです。
結果的にインフレは達成されますが、その基盤は脆弱です。
■ インフレターゲットの出口戦略が難しい ■
リーマンショック直後からFRBの出口戦略が問題視されています。
FRBも世界の経済学者達も中央銀行が「資産バブル」しか生み出せない事に自覚的な証拠です。
インフレ率が高まった場合、庶民の生活は圧迫されますから、
中央銀行としては、金利を上げてインフレを抑えようとします。
あるいは、金融緩和を縮小せざるを得ません。
しかし日本の「大バブルの崩壊」を例に取るまでもなく、
低利の資金の供給停止は、資金の大逆転を引き起こし
バブルの崩壊を発生させいます。
インフレの原因が、「生産性の向上」などのファンダメンタルな要因で無い限り、
実体経済への資金供給も「資産バブル」の崩壊と同時に絶たれます。
要は、出口戦略は失敗する可能性が高いのです。
■ バブルの崩壊の度に「政府の債務」が拡大する ■
バブルが崩壊すると、政府が民間銀行を救済するなどという
平常時ではモラルハザードとされる政策が実行されます。
これは、民間の過剰債務を政府が肩代わりする行為です。
但し、政府はタダでは通貨を発行出来ないので、
国債を発行して、政府債務が拡大します。
先進国においては、バブルが崩壊する毎に、
民間の債務の一部が政府に付け替えられています。
■ 一部人達の債務が国民の債務に摺り返られるトリック ■
国の債務の負担者は国民です。
国家の債務は将来的には、国民の税金で支払われます。
しかし、国民が払いきれない債務を国が積み上げた場合、
国家は財政破綻します。
外貨建て国債を発行しているアルゼンチンなどの国では、
デフォルトによって債務を帳消しにします。
国家の信用は失われ、通貨が下落します。
当然、IMFが乗り込んで来て、国内の既得権を解体します。
これは、年金需給額の減額や、
国内の産業を保護するシステムの解体だったります。
韓国を見れば明らかですが、IMFの救済後、
韓国の優良企業は海外の株主に支配されてしまいました。
■ 自国通貨建て国債は、インフレで債務を帳消しにする ■
「日本の様な自国通貨建ての国債は破綻しない」と三橋貴明氏は主張します。
これは正しい認識ですが、その弊害を彼は語りません。
日本の財政が破綻する様な場合は
日銀が日本国債を全量買い上げます。
民間の金融機関は、国債を市場に放出しますから、
国債価格は暴落し、日銀しか買い手が居なくなるからです。
銀行は国債を日銀に売却して円を手にしますが、
預金者は銀行からお金を引き出そうと殺到しますから、
市中に大量の円が流通する事になります。
年率200%とか400%などというインフレが発生し得るのです。
この様な状況では、円の為替相場は200円とか300円に下落します。
当然、原油や食料などの輸入コストが跳ね上がり、
これもインフレの大きな要因となります。
インフレとは何かと言えば、国民の銀行預金の価値が無くなる事を意味します。
国民は銀行に預金して、銀行は国債で運用していますが、
インフレによって結果的に既発国債の価値は1/10程度に実質的に圧縮します。
これは、国民の資産を国家が接収する事と代わりありません。
同時に年金も実質的に目減りしますから、
日本の財政悪化の原因である福祉コストを切り詰める事が可能です。
多くの老人や失業者が露頭に迷う事になりますが、
国家が破綻状態では救済する事もままなりません。
■ 日本の財政崩壊とTPP ■
日銀が「デフレ政策」を実質的に昨年末に解除した理由とは何でしょう?
私はTPPと無関係では無いと思います。
日本の企業は国内法で厚く守られています。
外資の持株比率の規制などから、
小泉改革による日本企業の売り飛ばしは
中途半端な状態になっています。
さて、TPPが締結された後、日本の財政が破綻するなどしたらどうでしょう。
一気に円安が進み、日本株市場は外資がどっと乱入してき、優良企業株を買い漁るでしょう。
この時、日本の国内法が邪魔になれば
彼らは必ずこれを排除するはずです。
■ 何かが秒読みになっている気がする ■
アベノミクスの好景気に世間が浮かれている間に、
とんでも無い勢いで、TPPの交渉参加が表明されました。
民主党政権では出来なかったでしょうから、
アメリカの自民党への政権交替の目的は、TPP参加にあった事は明確です。
今後の景気を占う上で、TPPの正式加入へのロードマップは重要です。
日本のみならず、TPPに参加する国々は、
アメリカンスタンダードのルールに則り、国内企業や市場を開放します。
さて、そこに金融崩壊をぶつけたらどういう事になるでしょうか?
アメリカとて無傷ではありませんが、
新しい通貨制度確立までの混乱期に、世界の次の趨勢が決まるのでしょう。
何かが秒読み状態になっている様で、
「幻の好景気」に浮かれているとイタイ目に合いそうです。