WIND AND SOUND

日々雑感 季節の風と音… by TAKAMI

「尊厳」

2011-11-28 | 実父


11/26

今日、すごいことに遭遇してしまった。

私が父の昼食の時間にほんの3,4分遅れていったら、介護師さんが父に食事を食べさせてくれていたのだけれど、
父は、これから熱が上がっていくという状態で、ガタガタと震えていた。
震えながら、口をもぐもぐカタカタ一生懸命動かしていた。
そして、お皿には、剥いた海老の殻、そして、高野豆腐の食べかけが目にとまった。


熱が出かかって震えているのに、こんなに食べられたの…?

しかも、海老や高野豆腐なんて、食べにくいものばっかり、、、

私は一瞬で、介護師さんは、自分の仕事をこなすために、むりやり食べさせていたのだとわかった。
こんな状態の父がほんの10分足らずの間にこんなにたくさん食べられるわけがない。
その介護師さんは、父が1度喧嘩したと言っていた人だった。

私が父の部屋に着いて、すぐにその介護師さんは、「熱が出掛かって震えています」と言っただけで出ていった。

その後、私が食事の介助を代わってから、父はますます震えがひどくなり、
こんな状態でも食べられるものなのかと思いながら、お粥を口に運んであげたけれど、
どれが食べたいのか、食べたくないのか、言っていることも震えで聞き取れなくなり、
とりあえずお茶で口をゆすいで、いったんベッドを倒して休憩することにした。

父はなにやらとても不機嫌で、怒りのような言葉を言ったかと思うと、ごぼっ…と上を向いたままで食事を全部戻してしまった。
目も鼻も、耳の中にも嘔吐したものが流れかかった。父の顔は全面ゾンビのようになった。

あわてて顔を横に向けて、ナースコールをしてから顔の汚れをタオルで拭き取ったけれど、
看護師さんが応えてくれるまで、それに、部屋まで来てくれるまでの数分がどんなに長く感じたことか…

結局無理に動かしてまた吐くといけないので、顔以外の汚れた衣類やシーツはそのままで、
取り替えることもできず、横向きにした顔の下にシートだけ敷いて、震えが落ち着くまで暫く待つことになった。

もし、私が来ないで、介護師さんが食べさせたあとベッドを倒して、すぐに部屋を出ていってしまったら、どんなことになっていたかと… 
父はナースコールさえできないのだ。

ヒロコさんがどうしても食事を付き添いたい気持ちが、ものすごくよくわかった。
ヒロコさんは、知っていたのだ。
私は、介護師さんはプロなんだから、少々手荒に見えても、状況に応じてきちんと食べさせてくれるだろうと思っていたけど、甘かった。
彼女たちは、仕事を次々とこなさなくてはいけない。
父のペースにあわせて、のんびり食べさせている暇はないのだ。
それにしても、熱で震えているのに、こんなに食べにくいものばかり、詰め込むように食べさせるとはどういうことか。
怒りで思わず両手を握り締めた。
剥いただけの海老を、小さく切ることもなく、そのまま口に入れられたのか…
かわいそうに、、、
歯が少ししかない父は、もぐもぐ、噛み砕くにも普通の何倍もの時間がかかるのだ。

介護の研修を受けるとき、必ず「人間の尊厳」について学ぶはずだと思うけど、
そんなこと頭でわかるのと、それを心で受け止めて仕事の中で実践できることとは全然違うと思う。
わかっている人は習わなくても患者に寄り添えるのだ。
私の知っている、実際の現場に携わっている殆どの人が、「大変だ、忙しい、落ち込む、ストレスが溜まる」と言っている。
そういう現場だということは、覚悟していた筈。
大変な中でも、優先順位があると思うけれど、「人間の尊厳」を最優先にしてほしい。
いや、それが「医療」「看護」「介護」、すべての基本でしょう。


看護師さんが、父の体の酸素濃度を測りに来てくださったとき、なかなか数値が出ず、指に挟む器具がうっとうしくて、すぐに外そうとする父に対して、
「うっとうしいよね、ごめんね。でも私は、これをつけてもらって、調べたいの。もうちょっと我慢してね。」
と仰った。父は我慢した。これも彼女なりのテクニックなのかもしれない。

でも、ちょっとした言葉遣いでも、患者も、家族も、敏感に察知するものだ。
その人の、看護や介護に対する取り組み方というのが、理屈でなく、伝わってくる。
「私がこうしたいので、どうかお願いします」と言うには、信頼関係が必要だ。
ヤな人の頼みなんか、聞いてやりたくないもんね。

父は、このあと、暫く震えていたので、その間手を握ってあげて、少しずつ収まってきたので、
「お父さん、ごめんね、私がもう少し早く来て食べさせてあげていればよかったね。
無理して食べて、気持ち悪くなったんやろう?」と言ったら、頷いて、
「ペースが速すぎる」とはっきりと聞き取れる声で言った。
私も「ペースが速い」と叱られたことは何度もあった。

ヒロコさんの食べさせ方は、ベッドの脇に立ってナイフとフォークを持って、
まるで、カウンターに鉄板のある高級レストランで、料理人がお料理を切って取り分けてあげているような仕草なのだ。
食事が少しでも楽しくできるように…


落ち着いたところで、着替えやシーツ交換をしていただいたけれど、消耗しきっているはずなのに、ずっと目をあけて、意識が泳いでいるようだった。
何か見えるんだろうか?
時折、手を動かして何かを辿っていっているような仕草もした。

「お父さん、お話、読んであげようか」
父は素直に頷いた。
濱田 廣介の短編をひとつ読み聞かせてあげたけれど、父は、途中から集中できなくなってきたようだった。
一生懸命に意識を繋ぎとめていないと、宙を泳いでしまう…みたいで、言葉のひとつひとつを受け止めるのも、労力を要するようだった。

でも、「お話を読んであげようか」って言ったら、いつも「寝てしまうわ~」などと一応遠慮?してたのに、今日はすぐに頷いたのだ。
もっと簡単なお話なら、いいかも。
今度こそ桃太郎や、一寸法師の絵本を借りてこよう。


夕方になって、ヒロコさんが来てくれた。

ちょうどその直前ぐらいから、また悪寒が始まり、寒いといって震えだした。
スタッフも、もう交代の時間のようで、一斉に来て、俄かにあわただしくなった。
ヒロコさんは、ナースステーションで嘔吐の件を聞いて、動転していた。
でも、看護師さんたちが詳細をいろいろ補足説明しようとするのを振り切って、
まず父の顔のところに、自分の身体ごと近づいていって、「エラかったね、辛かったね、寒いね…」と、、、本当は抱きしめたい気持ちに違いない…
報告を受けつつ、湯たんぽをレンジでチンしてきてと私に渡して、動転しながらも、まずは父を楽にしてあげることが最優先なのだ。

スタッフの方たちも、ヒロコさんには一目おいているようだった。
こんなに深い愛で夫の看病をする妻がいったいどれほどいるだろうか。
究極だ…

ヒロコさんは、私の大切な人をこのようにして看病をしてほしいと、意識しなくても、一生懸命訴えているのだ。
私だってヒロコさんから、たくさん学習した。
スタッフの方たちも、彼女の献身から素直に学んでほしい。


Comments (2)
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