お母さんがやってきた その２

　お母さんに、先生、先生と言われると、
ちょっと、くすぐったいです。
　ワタシは徹夜明けで眠いので、帰宅するやいなや、すぐに布団を敷き
眠ってしまいました。
　起きたのは夕方でした。

　起きてしばらくすると、お嫁さんも帰って来ました。
　嫁さんと、お母さん。
　親子二人して台所に集まり、
なにやらヒソヒソ話します。
　広いリビングがあるのに、あえて狭い台所に密集しています。
　二人で何を話しているのでしょうか。
　ワタシの悪口でしょうか。

　しばらくして、怖い顔した彼女がワタシの部屋に入って来ました。
　口をへの字に結び、詰め寄ります。
「お、おおお・・・・」
　思わず、身をすくめます。
「あんた、お母さんをいじめなかったね。
　ちゃんと挨拶したらしいじゃない。
　ああ、よ～ちゃん、良い子」
　そういって、ワタシの頭をなでてくれました。

　当たり前だ。
　マッチョ思想で、男尊女卑主義のワタシが、女性を
　それも、おばあさんなんかイジメルかよ。

お母さんがやって来た その１

　お母さんは、若いときは相当な美人でした。
　これは写真で確認しています。
　女優さん並ですね。

「小江はどうしてお母さんに似なかったんだ？」
「娘はお父さんに似るんだヨ」
「お母さんに似れば、美人さんになれたのに・・」
「そうだね。お父さんに似たから、顔がこんなに横に広くなっちゃんたのヨ」
　そう言って、顔を両手で、横に引っ張ります。
「残念です」
「小江が美人さんだったら、よ～ちゃんのお嫁さんなんかにならなかったね」
「う、うるさいわ。おかげでようちゃんは日本一不幸な夫になってしまったぞ」
「残念ですね」

お母さんがやってくる その２９ 遂にやって来た

　お母さんが成田空港に到着する日は、ワタシの仕事が忙しく
　会社に泊まり込みになってしまいました。
　それでも、夜、会社から電話して、お母さんが無事来日したことを
確かめました。
　まずは一安心です。
　翌朝、帰宅する時はお嫁さんは仕事に出かけているはずですから、
　マンションには、ワタシとお母さんのふたりだけになる予定です。

　翌朝、仕事が終わって、マンションの扉を開けると、玄関まで
　お母さんが出迎えてくれました。
　お嫁さんなら、出迎えるようなことはしてくれませんので、
少し嬉しくなりました。
　顔中に笑みを浮かべて挨拶します。
「先生、お久しぶりです」
「こちらこそ、お久しぶりです」
　先生、とは中国語では「さん」ぐらいの意味ですかね。

　親子なのに、ぶっきらぼうで、愛想がない娘さん、
つまりお嫁さんとはとは大分異なります。
　お母さんは愛想が良くて、人間が上手で、友達が沢山います。
　米国にも、ドイツにも、英国にも、台湾にも、香港にも、
中国のあちこちにも、沢山の知人、友人がいます。
　中国人の親戚知人が、世界的な広がりを持っているのは、
戦乱に明け暮れた歴史の為らしいのです。
　分散させておけば、誰かが生き残るだろう・・。

　お母さんは、人間関係が上手な「本格的」中国人です。

お母さんがやってくる その２８（本当にやってくる・・・）

　冗談が通じない彼女です。
　眉間にしわを寄せて、深刻な顔をしています。
　少し気持ちが良くなりました。

　でも、結局、ワタシの仕事の日に来日することになりました。
　迎えは、彼女一人だけです。
　ワタシが行かないと、お母さんが気にするかもしれません。
　そういうところは、本当に無頓着です。
　相手の気持ちを察して行動する、ってのは日本人得意の技なんでしょうか。
「ようちゃんは、おばあさんなんか嫌いだから、迎えに行かないんだヨ、と言って　下さいね」
「そんなこと言いませんよ」

お母さんがやってくる その２７

　行動予定表やら、各種証明書、保証書・・・・
等を添えて、役所に提出します。
　中国人は信用が無いので、色々な書類が必要なのです。
　それはおばあさんでも例外ではないようです。
　でもおばあさんなら、悪いこともしないし、出来ないでしょうから、
許可は簡単におりました。

　ワタシの休日に来日するように、要求していたのですが、
お嫁さんはテンで受け付けようとしません。
「小江がそんな態度とるんなら、お母さんをイジメルぞ」
「よ～ちゃん、そんなことしないでしょ？」
「俺は、やるときにはやるぞ。暴力を振るうようなことはしないけど、
例えば、挨拶なんかしないからな。
　話しかけても、フン、と横を向いたままだ」
「あんた、そんなことするんですか？」
「当然だ。よーちゃんの恐ろしさを見せてやる」
「そんなことしたら、タダじゃすみませんよ！」
「小江がいないところでやるから大丈夫だよー」
「・・・・・・」