蒼ざめた馬の “一人ブラブラ、儚く、はてしなく”

山とスキー、車と旅、そして一人の生活

昔、好々爺は自然の怒り、天罰と言った

2011-03-23 07:32:33 | 朽ちゆく草の想い

43年前の7月の日曜日。
梅雨の末期、大雨が降って、谷を挟んだ対岸の山の斜面は次々と崩れていった。
家の数10m下を流れる谷は濁流で溢れ、我々の通学路:ハイキングコースにまで達していた。 今さら避難は出来ない。自然が荒れ狂うさまを茫然と眺めるしかなかった。

幸い近所での被害はなかったが、その夜9時ごろ、村の中心地と言うべき、500m程上流の大きな茶店を山津波が襲い、そこに避難していた21人の命を奪った。
村長的存在の老人も、美人で有名だった茶店のお嫁さんとその息子さんも、近くの河原でよく一緒に遊んだマリちゃんと幼い弟妹も犠牲になった。

その数日後、何カ所も崩れたハイキングコースを歩いて、中学校への通学は再開した。

16年前の1月17日月曜の朝、寝ていたのは7階で、この建屋が倒壊するのでは、と思うほどの揺れだったが、無事だった。
どうせ全ては停まっている。 通勤は出来ない。余震が続く中、午前中は朝寝していた。
昼になって、取りあえず会社の様子を見に行くことにした。

ミニバイクで30分弱。 須磨まで行くと沢山の戸建が倒壊していた。 長田まで行くと曇り空になった。街が燃える煙だった。いたるところから煙がたっていた。
会社の建屋は健在だった。 営業の室内もそんなに崩れておらず、机の上に倒れていたパソコンを起こし、電源を入れるとちゃんと立ち上がった。
前々日の土曜日、休日出勤して作った資料も残っていた。
会社の食堂には近所に住む、主に独身者達が集まっていて、お互いの無事を喜んだ。

その後、住吉の叔母宅へ行こうとした。叔母と連絡が取れない、とオフクロから連絡があったからだ。 陥没した加納町の交差点を通り、山手幹線を進んだが、王子公園で全く動けなくなった。路側帯まで車でビッシリ。
ガス欠になると帰れない。仕方なく引き返した。
兵庫、長田を通過する頃には、崩れた家々から火が出ていた。人が沢山、走りまわっていた。
何も出来なかった。何か手助けしたい、と思っても実際には何も出来なかった。
ただ燃えさかるさまを茫然と眺めるしかなかった。

翌日はグチャグチャになった室内を片づけた。
翌々日からはミニバイクで通勤を再開した。
何も出来ない自分は、とにかく今まで通り普通に働いて、今まで通り売り上げをあげ、利益を出して、税金払って、それを復旧、復興に使ってもらう。それが最善、と判断した。

叔母は家が全壊し、近所の小学校へ避難していたので、何日か後、実家のオフクロの元へ連れて行った。

2週間前の津波、今回は遠い東北の災害、幸い悲惨な光景を実況で見る事はなかった。
テレビは故障しているので、ハッキリ見えなかったが、海から大波が襲ってきて、工業、漁業、商業、役所、警察署、そして生活を呑み込んでいくさまは判った。
有り余る人工物と、それに慢心し享楽の極みに甘んじている人類、それらを破壊していく自然の猛威が、壊れかけたブラウン管に映っていた。
しかし、何と残酷な映像だろう。 あの波に中には、救われるべき沢山のか細い命もあるのに。

43年前、大水害の後、近所の好々爺は、これは自然の怒り、天罰だと言った。

天罰? しかし、中学生になったばかりのマリちゃんやその幼い弟妹がどんな悪い事をした、と言うのか。

生きている事が " 苦 " だと、お釈迦さんは言ったらしい。

生きている事が " 悪 " だと言う考え方もあるらしい。

人類は生きていくために、当然の様に沢山の動植物の命を奪っている。これは" 悪 " だ。

「いただきます」の意味も知らず、それらの命を食べ残し捨てていくおバカも多い。これはもっと" 悪 " だ。

そんな愚かなおバカを相手に商売にして利益を上げ、喜んでいる食品業界は、もっともっと" 悪 " だ。

"  想定外 " の自然の猛威が潰していった防波堤には、色んな利権、談合が絡んだモノもあるはずだ。 それらに関わった土木建設業界も" 悪 " だ。

それらの業界に土地、設備、資金を提供することにより利益を得て、その利益を元に更に膨らんでいく経済は、もっともっともっと" 悪 " だ。

それらに支えられているこの国は最も" 悪 " だ。

もうこの世は" 悪 " で溢れている。

当然ワタクシも" 悪 " だ。 沢山のヒドイこと、可哀想なことをしながら、60年近く生きて来たのだ。

しかし、自然は" 悪 " だけを選んで罰を与えるような細かい配慮は出来ないようだ。

43年前、マリちゃんやその幼い弟妹は、" 悪 "だけに与えられるべき天罰に巻き込まれたように思う。

今回もその様な、" 悪 " とは無関係な人達が沢山巻き込まれたはずだ、嗚呼。