ああ、そういえば、僕にも小学生の頃があったなあ。昔の昔。
僕はとっても喧嘩に弱かった。ぶさまだった。それをとっても気にしてた。喧嘩に強くなりたいと強く思っていたが、まるで駄目。意気地がなかった。喧嘩の相手になれなかった。悔しかったけど、殴り合いができなかった。男のくせに喧嘩もできないとは、みっともなかった。
こなされてばかりだった。泣く以外になかった。勇気がなかった。根性が座っていなかった。めそめそしているきりだった。
4つ違いの姉が通りかかって、僕を助けたりした。姉はおっそろしく男勝りで、竹の棒を振り回して走り回っていたので、男の子たちでも逃げ回った。
女の姉と、男の僕とが入れ替わっていたらよかったのにと母がよく言っていた。
そういう男の子のことを「ひけし坊」と呼んでいた。ひけし坊と呼んで、からかわれた。
その小学生の僕が、いまお爺さんになっています。ひけし坊でも生きて来られたんです。なんだか不思議な気がします。しかし、いまでも弱々しい性格です。これは変わりません。
強がれないから、人を罵倒するのも苦手です。仕返しされたら逃げるばかりだから。逃げないための工夫ですから、やっぱりこれも自慢にすることではありません。