The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

Mr. Holmes (2) : 映画版

2015-12-13 | Mr. Holmes
―Mr. Holmes (2) : 映画版 ―


Mr. Holmes
”The Man beyond the Myth of Sherlock Holmes”

Director : Bill Condon (ビル・コンドン)

Cast :
Sherlock Holmes : Ian McKellen (サー・イアン・マッケラン)
Mrs. Munro : Laura Linney(ローラ・リネイ)
Roger : Milo Parker(マイロ・パーカー)
Tamiki Umezaki : Hiroyuki Sanada(真田広之)
Thomas Kelmot : Patrick Kennedy(パトリック・ケネディー)
Ann Kelmot : Hattie Morahan(ハティ・モラハン)
Dr. Barrie : Roger Allam(ロジャー・アラム)
Inspector Gilbert : Philip Davis (フィリップ・デイヴィス)

前回原作について書いてから間が空いてしまいましたが 映画版DVDを観た感想等
書いてみました。

昨年夏だったか 初めてMr.Holmesの画像が発表された時、サー・イアンが随分
老けたなぁと言うのが最初の感想でした。 が、後に色々情報を見た時にあれは
メークの為せる技だったと知り驚くと同時に己の浅はかさを知りました。
そうですよね、実年齢より20歳位も年上の役柄だし、最後の事件の時の映像を
見れば一目瞭然だし、あのメーク技術に驚かされました。



田舎暮らしをしている93歳のホームズの姿は記憶も途絶えがちなので 忘れそうに
なるロジャーの名前をシャツのカフスに書き残して置く。 これは日本に行った際
ウメザキの名前も書いていました。

このエピソードは正典にもあり、”The Adventure of the Naval Treaty”「海軍条約事件」
の中で - ”That is of enormous importance" said Holmes making a note upon his
shirt-cuff. (あれはとんでもなく重要な事だ、と言ってホームズはシャツの袖口
にメモを書いた)ーとあります。


そして姿勢、歩き方等全く93歳にしか見えない。
ロジャー少年を演じたマイロ・パーカーは可愛くて、純真で大きな瞳を輝かせてホームズの
話を聞く様子、甲斐甲斐しくホームズの世話をする様子、瞳を輝かせながら色々な事に興味を
持つ等とても良い演技をしていました。 可愛いです。





最後の事件となったケルモット夫人事件(原作はケラーなんですけど・・・)は原作とは違った
状況でしたね。 
50歳代(?)のホームズを演じたサー・イアンは気品があり自信に溢れた様子が素晴らしかった
のですが、無事解決したと思われたにも拘らず死を選んだケルモット夫人の最後を知ったホームズの
憔悴が心に響きます。



原作の三部構成は映画版では入れ子状態で挿入されています。
又原作とは違う表現をされている部分も何か所かありました。
原作とは異なる表現になる事は脚本的によくある事だとは思うのですが、今回原作を読んだ後に
映画版を観ると、違和感がある事は拭えません。 
結果的に良いか悪いかは判断出来ませんが、一番はロジャーの扱いで最後を観てひっくり返る程
ビックリしました。
映画版の方が救いがあるとは思うのですが・・・・ 難しい所ですねぇ。

それと、ケルモット夫人の行動も違った描き方がされています。
尤も、原作の時にも書いたのですが、確かに原作でのケルモット夫人の行動とそれに伴う
ホームズの行動が曖昧だった為、映画の脚本では理由付けがなされているのだと思いましたけど。
そして、ケルモット夫人に会う際、ホームズがホームズの姿で接触し、しかもケルモット夫人
もホームズである事を知っていた。 等原作で感じた曖昧さを納得させる様なシチュエーション
に持って行っていた様な気きがしました。







このシーンは、ホームズがワトソンが書いた作品を元に作られた 自分を主人公にした映画を観て 
苦虫を噛み潰したような様な表情をしているのが面白いです。


何より残念だったのは日本のシーンですよ!
原作で感じたカリンの詳細な日本描写が生かされていない。
ハリウッドや海外作品で描かれる日本の映像と同じ様に 国籍不明(韓国風?or中国風?アジア風?)。
着物、食堂のセット等ありがちではあるけど、本当に残念な映像でした。
日本の映像はロンドンにセットを組んだそうですが、もう少し細かい日本人の意見或はカリン自身の
意見を聞いて欲しかったと感じます。








文句はその位にして・・・・

ただ、再度言いますが サー・イアンの老ホームズの演技は素晴らしいの一語に尽きます。
老いて思いのままにならない身体と記憶の衰えに戸惑いながらも ロジャー少年との交友を深めていく姿は
微笑ましいし 心温まります。
ロジャーの事故を知って泣き崩れるホームズは まさに「人間ホームズ」を感じさせられ感動します。



最後のこのシーンは原作にも書かれているのですが、小さな石を今は亡きワトソン、マイクロフト、ハドソンさん
等親しかった人々の墓石の様になぞらえて その中心に座り祈りをささげる様な姿は ホームズがやっと心を
開いて自分を取り戻した様子に思え 胸が一杯になり滂沱の涙・・・・
他にも何度も泣かされましたが個人的にはこのシーンが一番感動的だったのです。



サー・イアンはこの作品でオスカーの主演男優賞の候補に入ると言われていますが、来年2月発表でどうなりますか。



日本での映画公開は来年(時期は未定)との事です。









 

Mr. Holmes (1) : 原作本概略と感想

2015-11-19 | Mr. Holmes
― Mr.Holmes (1) : 原作本概略と感想 ― 
『名探偵最後の事件』



『ミスター・ホームズ : 名探偵最後の事件』 原作 :”Slight Trick of the Mind” (Mitch Cullin)
(角川書店版 : 駒月雅子訳)

The Slight Trick of the Mind(映画Mr. Holmes)の原作本に関しては以前書いたのですが、3分の
2位で挫折していた所 翻訳本が発行されたと聞き直ぐに飛びつきました。
翻訳の駒月雅子さんの訳も素晴らしく何とも有難い思いで読み終わりました。

内容に関してはあまり細かく書くことは止めて置こうと思うのですが、既にレヴューやら他記事
に大分細かく書かれているので まぁ良いかと思いまして書いておりますが、映画公開迄或はご
自身で本を読む予定がありそれまで封印なさりたい方は回避して下さいませ。

先日映画版のDVDが届き早速観ましたので、この機会に・・・とやっと原作について書くことに
しました。
(映画版についても追って書こうと思っています)。
昨年夏頃でしたか 「93歳の認知症を患うホームズ」の映画化と聞いて 一瞬何てこと!と悲し
くなったのですが、サー・イアンでの映画化と聞きやはりここは押さえて置かねばと考え、原作
本を読み始めました。

今回のミッチ・カリン原作のホームズパスティーシュは他のパスティーシュと比べても異例の
ホームズの老いに関して書かれています。

本編は3つのパート :
☆ サッセックスで養蜂を営みながら お手伝いの未亡人であるマンロー夫人とその息子ロジャー
  と暮らす93歳現時点でのホームズ。
☆ ウメザキに招かれ戦後間もない日本を訪れ共に各地を旅しながら交流を深めながらウメザキの
  思惑を探る話。
☆ ホームズ自身が書き綴る40年以上前の最後の事件「グラス・アルモニカ事件」に於けるケラー
夫人の思い出。
以上の3つのストーリーが平行して交互に書かれています。

全体として冒険活劇的要素、推理物でもなく 一貫して晩年のホームズの「老い」、「孤独」、
「心」が描かれているので切なく悲しい思いになります。
あの天才ホームズでさえ 誰一人避ける事が出来ない「老い」を目の当たりにして記憶力も薄れ、
体力も衰えながら 一方感受性はより豊かにはなりつつ 「諦観」、「達観」が垣間見えます。

各エピソードの概略を書いてみます。

先ず、日本を訪れて各所を旅するホームズ :

以前も書いたことがあるのですが、 兎に角この作家の日本描写は詳細で驚かされます。
戦争に敗れ荒廃した各所を描きながら、それでもめげずに懸命にたくましく生活を送る日本人の
姿が生き生きと描かれていて、新宿、神戸、原爆投下直後の広島、下関等日本人でさえ知らない
或は思い出させ
られる光景が鮮やかに描かれている事に驚かされます。
ウメザキがホームズを招いた目的、思惑が中々掴めず戸惑うホームズとウメザキの弟(と言われ
ていた)ヘンスイロウとマヤと呼ばれるお手伝いの女性「これは後にウメザキの母親である事が
分かる)等の人物との交流。

英国滞在中にホームズに会いに行くという手紙を残したまま行方を絶った父親の情報を知りたいと
言いながら不可解な態度のウメザキのホームズを日本に招いた真意を測りかね戸惑いながらも「山椒」
を探し求めながら毎夜酒を酌み交わして親交を深めていく。

以前も日本人作家のパスティーシュでホームズが日本を訪れる作品を読んだ事がありますが、今
回のエピソードはそれとはまったく趣を異にする内容で、ホームズの心の動き、そして兎に角詳
細な日本の描写が際立っていると思うし、カリンの原爆投下を含む戦争にたいする特別な思いを
感じます。

余程日本の事を勉強したのだと思いますが、チョット調べてみたら彼は一時日本に住んでいた事
があるとか。
成程ねぇ、と思うもののやはり大変な下調べが有った事でしょう。


一方へそ曲りかもしれませんが、敢えてこの日本でのエピソードを入れる必然性があったのかと
やや疑問を感じます。


「グラス・アルモニカ事件」 :
1902年ホームズ最後の事件と題されたエピソードです。

子供を失って以来心を病んだケラー夫人の行動を不審に思った夫ケラー氏の依頼で夫人の様子
を調査する事になります。
妻の心が少しでも癒されればとグラス・アルモニカを習いに行くことを勧めたケラー氏だったが、
少しは元気を取り戻したかのように見えた夫人が不可解な行動をとる様になった為、グラス・ア
ルモニカのせいではないかとホームズと共に指導者の家迄夫人の跡を附けたが そこに夫人の姿
は無かった。

ケラー氏から夫人の写真を預かり ステファン・ピータースンと言う名前の中年独身愛書家を演
じ跡を附けると夫人は1人公園のベンチで本を読んでいました。
そこでホームズはほんのひと時短い会話のみの2人の時間を過ごします。
何故か心を惹かれ ケラー夫人はホームズの心深く残る事になります。

この時夫人が手のひらに乗せた蜂を愛おしげに見つめ その後そっと離して飛び立たせた姿に感
銘を受けたホームズは この事が後に養蜂を始めるきっかけになるんですね。
夫人の心が落ち着いていると見たホームズはケラー氏に報告し、この件は取りあえず解決したと
思われていました。
しかしその翌日ケラー夫人が鉄道自殺をして亡くなった記事を読みホームズは動揺し、絶望感に
打ちのめされるのです。 
結局ケラー夫人が死に至る原因を突き止められなかったホームズは それ以来40年以上彼女の事
が心を離れる事が無かったのです。

ただ、個人的感想としては、先にも書いたように日本でのエピソードの必然性と共に、ケラー夫
人の心理描写が曖昧とも思える部分、 ホームズが自分でも語っている様に 何故ケラー夫人に
あれ程惹かれ、長年心から離れなかったのか・・・
アイリーン・アドラーの様に、高い知性と才能、美貌を持ち唯一自分を出し抜いた人として敬愛
し永遠の「あのひと」となる女性とは全く異なる、一見特出した魅力を感じられない女性とも思
えるケラー夫人がホームズの忘れられない女性となる根拠が曖昧で説得力に欠ける様に思えるの
です。

そして93歳時点サセックスで暮らすホームズのエピソード :

やはりこのパートが一番心に残ります。

サセックスの自宅でホームズは養蜂をしながら植物、犯罪学の研究をしながらひっそり暮らして
います。
離れには家政婦のマンロー夫人と息子のロジャーが暮らしホームズの生活を助けています。
子供が好きでないホームズは一年以上もロジャーの姿を見ずに過ごしていたが、ある日興味深そ
うに蜂を見ているロジャーに会い、それ以後ホームズは少しずつ心を開いて行きロジャーと接す
る様になります。
2人で蜂の世話をしたり 海辺にピックニックに行ったりする様子は殆ど祖父と孫の様で微笑ま
しく心が温かくなります。
ロジャー少年の好奇心に満ちた眼差しや ホームズを尊敬しながら甲斐甲斐しく世話をする様子
も心和みます。
そしてホームズは残された時間、記憶が薄れ行く苛立ちの中 忘れられないケラー夫人の事件を
自分の言葉で書き残そうとしています。
ロジャー少年もこの事件の記録を読む事を楽しみに待っています。

ところが、突然ロジャーに襲い掛かった悲劇にホームズは心を乱され絶望感に打ちひしがれます。

衝撃を受けてもすぐには泣くことも出来ず ロジャーのベッドに横になって眠ってしまったり、
マンロー夫人と話をしているうちに涙を流している自分に気付いて驚く様子等 自分の心を素直
に表に出す事が無かったホームズの老いて悲しみに打ちひしがれる姿が何とも哀しいのです。
冷徹なはずのホームズが心を乱され、その乱される心に気づき、困惑するホームズ・・・。
気が付くと涙を流しながら過ごしているホームズは心が痛いです。

ワトソン、ハドソンさん、マイクロフトと彼の人生に深くかかわった人々は既に故人となり、人
生の黄昏時の孤独と諦めに似た達観等静かな寂寥感に満ちた物語となっています。
発展途上の若く未熟なBBC版シャーロック、 円熟期の自信に溢れるグラナダ版ホームズが脳裏
に浮かびます。
冒険活劇でもなく、推理物でもなく晩年のホームズの心を中心に描かれている作品で、晩年のホー
ムズの姿に戸惑う方も多いかと思いますが、晩年の「人間ホームズ」をしみじみ感じる印象的で読
み応えのある作品でした。
涙を抑える事が出来ません。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ところで、この原作を読むまでグラスアルモニカと言う楽器の事は全く知らなかったので 少し調べ
てみました。

Glass Armonicaはベンジャミン・フランクリンが1761年に発明した複式擦奏容器式体鳴楽器である。 
グラス・ハープを工夫し 多数の音を様々に奏しやすくさせ、細かな音の動きや、同時に多数の音
を1人で奏する事が容易になった。 直径の異なる椀状にした複数のガラスを大きさ順に十二平均律
の半音階に並べ、それらを鉄製などの回転棒に突き刺して回転させながら、基本的には水で濡らした
指先をガラスの縁に触れさせる摩擦によって共鳴するガラスの音で音楽を奏する。
(以上wikipediaからの引用です)。



グラスアルモニカが悪魔の楽器と言われた時期があった様ですが、その一つが鉛中毒と言われてい
ました。
これは当時のガラスに含まれる鉛が高濃度で有った為 濡れた指先から鉛が身体に入り中毒させる・・・
というのがその理由だそうです。
(この点に関しては作中でホームズも触れています)。
その他、高音が脳に悪影響を与える等、いずれも何ら根拠や科学的証明は無いと言われます。

ただ、確かにその音階は幻想的で魅惑的です。
演奏中の映像がありましたので ご参照下さい。

https://youtu.be/eQemvyyJ--g



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映画版を観た感想は次の機会に書こうと思います。



A Slight Trick of the Mind

2015-01-21 | Mr. Holmes
ー A Slight Trick of the Mind -
(written by Mitch Cullin)




昨年の夏頃でしたか サー・イアン・マッケランが93歳のSHを演じると言う記事
が出て 非常に興味深く思い早速原作本を購入しました。 (残念ながら翻訳本は
未だ出版されていません)
勇んで読み始めたのですが、未だ途中(汗)ながら 内容はなかなか面白く本当に
良く書けているのに驚きます。


引退後サッセックスで養蜂を楽しみながら 家政婦のミセス・マンローとその息子
ロジャーと生活する93歳のSHは時に記憶が薄れたり混乱しながら 昔の事件を
回想する場面が描かれています。
その中に第二次世界大戦後の占領下の日本にも訪れているのですが、その当時
の日本の情景が本当に詳しく描かれているて この作家が如何に良く勉強している
のかには驚かされます。


少しづつ関連画像が出てきましたので 第一報として残して置きます。


↓ これは昨年公開された最初の公式画像です。

サー・イアンのSHは渋くて本当に素敵です。






ロジャー少年はSHから養蜂を学びながら手助けをする一方、SHの過去の事件の
話を聞くのを楽しみにしています。







↑ これは日本内でのシーンの様です(日本語の看板が見えますね)
日本人としては真田広之さんが出演しているそうです。


家政婦のミセス・マンローはローラ・リニー(TFEにも出演していました)が演じて
いるそうです。




兎に角未だ半分位迄しか読んでいないので偉そうな事は書けませんが、その中で
SHがJWについて思い出を語る場面で、「ワトソンと呼んだ事は一度も無い、常に
”ジョン”であった」(な感じ)で書かれていた点が興味深く BBC版以外では初めて
見る表現でしたね。



映画版のタイトルは何なのか不明ですが、放映時期は今年後半になるそうです。
日本は又それから遅れるのでしょうけど、是非観たい作品で期待しています。
それまでに原作本は最初から読み直ししなければ・・・(汗)





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