知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項7号該当性、商標法29条との関係

2008-02-03 17:53:14 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10303
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第4 当裁判所の判断
1 審決の取消事由の有無
別紙「原告の主張」によれば,原告は,審決には,本件商標の商標法4条1項7号該当性等の判断の誤りがあることなどを取消事由として主張しているものと解される。しかし,当裁判所は,以下のとおりの理由により,原告主張に係る取消事由はいずれも失当であると判断する。

(1) 商標法4条1項7号該当性について
原告の主張は必ずしも明らかではないが,原告は,「iモード」の標章を使用して,対応端末「デジタル・ムーバーF501i HYPER」を発売したり,同対応端末の画面操作やインターネットを介してメールの交換等をさせたりする被告の行為が原告の有する本件各特許権を侵害することになるので,本件商標は,「他の法律によって,その使用等が禁止されている商標」,「一般に国際信義に反する商標」,「構成自体に問題がなくても,指定商品について使用することが社会公共の利益や一般的道徳観念に反することとなる商標」として,商標法4条1項7号に規定する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するから,本件商標登録には無効理由があると主張しているものと解される

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,商標が商標法4条1項7号に該当するかどうかは,特段の事情のない限り,当該商標の構成を基礎として判断されるべきものであり,指定商品又は指定役務についての当該商標の使用態様が他人の権利を侵害するか否かを含めて判断されるべきものではない(立体的形状の商標の使用が他人の物の発明に係る特許権や他人の意匠権に抵触する場合などにおいても,<ins>立体的形状自体が商標を構成するから,商標の構成のみによって判断されるべき場合の例外には該当しない</ins>。)。

特に,商標法29条において,商標権者による登録商標の使用が,その使用の態様により出願日前の出願に係る他人の特許権等と抵触するときには,指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができないと定められ,知的財産権相互の調整が図られていること等に照らすならば,指定商品又は指定役務についての商標の使用態様によって他人の特許権等を侵害することがあったとしても,すなわち,そのような使用がされたり,あるいはそのような使用がされる事態が想定される状況等があったとしても,そのことから直ちに当該商標が,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと判断すべきではないといえる。

本件においてこれをみると,本件商標は,「iモード」を標準文字で表す構成からなる典型的な文字商標であって,本件商標の構成・内容から,他人の特許権等を侵害するものということはできない。そうすると,原告主張に係る本件商標の使用が原告の有する本件各特許権に抵触するという理由をもって,本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するということはできず,この点の原告の主張は失当である。』

一部研究者の氏名を表示せずした研究発表は不法行為を構成するか

2008-02-03 17:52:38 | Weblog
事件番号 平成19(ネ)10030
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官飯村敏明


『3 争点(2)(被告らによる研究発表が原告の研究成果を奪う不法行為となるか
否か)について
(1) 原告主張の不法行為の成否
 原告は,本件各マウス(本件マウス①~⑥)に係る研究成果が原告の単独の成果であるとして,被告らが本件各研究発表をしたことは,原告に帰属すべき単独の研究成果を侵奪したという意味で不法行為に該当すると主張する。
しかし,前記2認定のとおり,本件各マウスに係る研究成果は,原告が単独で行った着想,発案による原告の単独の研究成果ではなく,被告Y2が重要な部分を担当,関与した研究成果であるから,被告らが本件各研究発表をしたことが原告の単独の研究成果を侵奪した不法行為に該当するとの原告の主張は,その前提を欠き,理由がない

(2) 補足的検討
念のため,被告らの本件各研究発表において,原告の氏名を表示しなかった点が不法行為に該当するか否かについて,進んで検討する。すなわち,本件研究発表1,2は本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表という形式で,本件研究発表3は本件講座の研究グループの発表という形式で,被告Y2,被告Y1及び己らによって学会発表されたが,原告は発表者に含まれず,また,研究グループの構成員としてもその氏名が表示されることがなかった点について,不法行為の成否を検討する

ア事実認定
 前記争いのない事実等,前記1及び2の認定事実を総合すれば,以下の事実が認められる。
・・・

イ判断
(ア) 上記アの認定によれば,原告には,本件各マウスの共同研究者,又は共同研究に寄与ないし貢献した者の一人として,本件各マウスに係る研究成果について研究発表をする場合には,自己の氏名を挙げて,公表される利益を有しているということができる。

 他方,上記認定の諸事情,すなわち,本件各研究発表の主題及び内容,本件各研究発表の内容に関する原告の寄与及び貢献の程度,被告らが,原告の氏名を発表者又は研究グループの構成員として表示することなく,本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表又は本件講座の研究グループの発表という形式で,本件各研究発表を行うに至った経緯等を総合考慮すると,被告らが,原告の氏名を表示することなく,本件各研究発表をしたことは,その形式において適切ないし配慮を欠く点があったとはいえるものの,少なくとも,社会的に是認し得る限度を逸脱し,原告の上記利益を侵害するものとまではいえず,不法行為法上違法であると評価することはできない

(イ) なお,被告Y1は,病理学及び腫瘍学がその専門分野であり,同被告が本件講座の教授として着任したのは平成15年12月であること(乙34)に照らすならば,被告Y1はマウスのMHCに係る研究に関しては専門外であって,被告Y1が被告Y2の原稿を点検した行為は,おおむね形式的な点にとどまっていたことは明らかであり,被告Y1の氏名を発表者の1人として本件各研究発表において掲げることは,前記1(6)ウの研究者行動規範にいう「名誉著者として,実際に貢献をしていない人の名前を入れる」ことに当たり,同規範にいう「広義の研究ミスコンダクト」に相当するというべきである。

 そうすると,本件各研究発表において,発表者として被告Y1の氏名を挙げたことは,研究発表の在り方として,適切ではなかったといわざるを得ない。しかし,前記ア認定の諸事情に照らすならば,このような形式で被告らが本件各研究発表を行った点が,原告との関係で,不法行為法上違法であると評価することはできない

(ウ) 以上によれば,被告らが原告の氏名を表示することなく本件各研究発表をしたことは,不法行為を構成するものではない。』

周知例の追加が手続き違背でないとされた事例

2008-02-03 17:51:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(2) 手続違背の有無について
 審査段階において,拒絶の理由として特定の技術事項が証拠(文献)とともに示され,出願人に対して意見を述べる機会が与えられている場合において,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)を追加して引用することは,新たな技術事項を示して拒絶理由を変更するものではないから,審判手続において,新たに追加された証拠(文献)について,審判請求人に意見を述べる機会を与える必要はなく,その機会を付与しなかったからといって,手続違背を構成する余地はないというべきである。

 前記(1)イによれば,本件拒絶査定は,引用文献1(引用例1)に,引用文献3(甲3)に記載された技術(「フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とする」こと)を適用することは容易想到であることを拒絶の理由としたものと認められる。
 そして,前記(1)ウによれば,審決は,引用発明1に組み合わせるべき技術事項(・・・)については,本件拒絶査定で示したものを変更することなく,この技術事項が周知であることを裏付ける証拠として,本件拒絶査定で示した甲3とともに,甲4を付加して例示したものと認められる。

 そうすると,審決が,原告に意見を述べる機会を与えることなく,周知例として甲4を例示したことをもって,本件審判手続において特許法159条2項において準用する同法50条の規定に反する手続があったものと解することはできない。したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。』

審決書の理由記載において留意すべき事柄

2008-02-03 17:50:56 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官飯村敏明

『5 付言
 本件において,原告は,「第3 原告の取消事由」の2に記載したとおりの理由によって,審決には違法があることを強く主張している。
 確かに,本件審決書を見ると,「理由」中の「2.当審の拒絶理由」欄では,審判体における拒絶理由(すなわち審判体における論理過程)は何ら記載されず,審判の過程で発した本件拒絶理由通知の全文のみが記載されているので,この点は妥当を欠くか,少なくとも誤解を招く記載であるといえる。

 そもそも,意匠登録出願に係る拒絶査定に対する不服審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かであって,審査又は審判の過程で発せられた「拒絶理由の通知」の当否ではない
 そして,審決は,文書をもって,審決の結論及び理由を記載することを要するから(意匠法52条,特許法157条),仮に,審理の結果,審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論に至った場合には,審決書の「理由」として,意匠法17条所定の条項のいずれか(本件では意匠法3条1項)に該当すると判断した論理過程,すなわち根拠となる要件及び同要件を充足すると判断した論理過程を,記載することが求められる

 他方,どのような内容の拒絶理由通知を発したかは,特段の事情のない限り,結論に至る論理に影響を与えることはなく,審決の論理とは関係のない事項であるから,審決書の理由として記載すべきではない。

 本件において,取消事由2のような事由により原告から争われた原因は,審決書において,本件拒絶理由通知の内容が,審判体が結論を導いた論理であるとの誤解を与えるような体裁で,「2.当審の拒絶理由」欄に記載されたことにあるといえる(もっとも,本件では,「理由」の「4.当審の検討」欄において,審判体における論理過程が述べられているので,審決に理由不備の瑕疵はないというべきである。)。以上の点は,一般の審決書における理由記載においても留意を要すべき事柄といえよう〔知的財産高等裁判所平成19年12月26日判決・平成19年(行ケ)第10209号,10210号審決取消請求事件参照〕。』

引例の組み合わせの際、主引例の要請に照らして行う補助引例に対する設計変更

2008-02-03 17:50:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10155
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『第3 当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(相違点3についての判断の誤り)の要点審決は,以下のとおり,相違点3についての判断を誤った結果,本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
(1) 審決は,「引用発明1では,消費者が最安値の最新の状況を常に把握できるようにするという要請が内在することは明らかである。」と判断したが(以下,当該要請を「本件要請」という。),以下のとおり,この判断は誤りである。』

『1 原告の主張(1)について
 原告は,審決が「引用発明1では,本件要請が内在することは明らかである。」と判断したことについて,「引用発明1においては,販売者が『最新の商品情報』を送ること及びその結果として商品検索システムに公開される情報が『常に最新のもの』になっていることと,消費者の利点とを結び付けて検討されていないのであるから,引用発明1に本件要請が内在するということはできない。」と主張するので,以下検討する。
(1) 引用例1(発明の名称・「商品検索システム」)には,次の各記載がある。
・・・
(2) 上記(1)の各記載のとおり,引用発明1は,欲しい商品,その価格等に係る商品情報を得ようとする消費者が,ネットワークを介してこれを簡単に得ることができる商品検索システムを提供することを目的とするものであり,複数の販売者から一定のタイミングで商品情報を受け取り,これに消費者のニーズに合ったデータ加工(例えば,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工)を加え,当該加工後の商品情報をインターネット上に公開し,消費者からアクセスがあった場合に,希望の商品に関する商品情報を消費者端末に送信するという商品検索システムである
 これにより,販売者は,常に最新の商品情報による商品の広告を行うのと同じ効果を得ることができ,他方,消費者は,欲しい商品に係る商品情報を簡単に得ることができる。

 このように,引用発明1は,販売者から,「常に最新の商品情報」を受け取り,このようにして受け取った「常に最新の商品情報」に対し,各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開し,消費者端末からのアクセスを可能にするものである(・・・・)。

 他方,商品の購入を考える消費者にとって,商品情報中,商品の価格が必須のものであることは自明の事項であり,さらに,特定の販売者のホームページ等ではなく,複数の販売者に係る商品情報を各商品の種類ごとに低価格順にソートするなどの加工を加えてインターネット上に公開する引用発明1の商品検索システムにアクセスする消費者のほとんどが,同種商品間における価格の比較,すなわち,同種商品中の最安値に係る情報を求めていることもまた,社会通念に照らし,自明の事項であるといえる。

 以上からすると,引用発明1に本件要請が内在することは明らかであるというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の主張(1)は理由がない。

(2) 上記(1)のとおり,引用例2には,「通信販売社」以外の販売者から商品情報を受け取る仕組みについての記載も示唆もなく,かえって,上記(1)の各記載によれば,引用例2に記載された通信販売方法は,通信販売事業を行う者が自己の販売する商品について,消費者の便宜,効果的な顧客管理等を考慮して採用するものであると認められるから,原告が主張するとおり,引用例2は,複数の販売者が存在することを前提としておらず,したがって,複数の販売者があって初めて成り立つ「最安値」の概念を開示し,又は示唆するものではないというべきである
 しかしながら,上記(1)のとおり,引用例2には,顧客の要請に基づき,商品ごとに,「商品の価格が変更されたとき」など任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し,商品情報を通知するとの構成が開示されているところである。

 他方,引用発明1には,上記1のとおり,本件要請が内在するものであるから,消費者が最安値の最新の状況を常に把握することができるようにするため,引用例2に開示された,任意の通知時期に,任意の通知方法により,顧客に対し商品情報を通知するとの構成を,その「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」として,引用発明1に適用し,「ユーザが指定した商品について,販売価格の最安値が変更された場合に,当該ユーザに対し通知する通知手段」(相違点3に係る本願発明の構成)を得ることは,当業者であれば,容易に想到することができたものと認めるのが相当である。
 この場合に,引用例2に記載された発明自体が「最安値」の概念を有するものでないとしても,引用発明1に内在する本件要請に照らして,引用例2に開示された構成の「任意の通知時期」を「販売価格の最安値が変更されたとき」とすることは,当然に選択されるところであるから,「引用発明1に引用例2が開示する構成を適用した場合,当業者であれば,ある一つの販売店が採用する商品の価格に変更があった場合に顧客に通知するとの構成に想到する」との原告の主張を採用することはできない。』

設計事項の扱い

2008-02-03 17:49:51 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10478
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『・・・審決は,甲第1号証の各記載から,引用発明1として,課金を課金用識別情報の代わりにユーザー情報を用いて行う発明を認定したものと認められ,このとき,上記のとおり,ユーザー情報は,発券要求情報に含まれるから,引用発明1は,検索前にユーザー識別情報を送信するものである。

 また,審決は,「・・・」があることを認定したものであって,引用発明1に,「・・・」が存在し得ないことを前提とする原告の主張は,前提において誤りである。

 したがって,審決に,原告の主張する相違点の看過はない

 さらに付言すると,ユーザー識別情報を送信するステップがユーザーに一つのホテルを選択させるステップ」の前にあるか,後にあるかは設計事項であり,この点を相違点と解したとしても審決の結論を左右するものではない。』

(筆者メモ)
 相違点と引用文献1を適用と、ユーザ識別情報の送信のステップが、ホテル選択のステップの前にあるか、後ろにあるかの相違はあった。しかし、その相違は設計事項であり、結論を左右しないとした。

 設計事項とは、技術思想は同一で設計上の差にすぎないものをいうから、「結論を左右しない」は、設計上の差があったとしても、技術思想としては同一で実質的な相違点はないという意味に解釈できる。
 

進歩性の判断における特許請求の範囲の用語の意義の認定手法

2008-02-03 17:49:01 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10413
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について
(1) 本願発明の「テレスコピックシャフト」と引用発明の「ステアリングシャフト」について
 原告は,本願発明における「テレスコピックシャフト」は2つの管状部材が「伸縮自在」である点において,引用発明におけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」するだけの「ステアリングシャフト」と異なるとして,両者が一致するとした審決の判断は,一致点を誤認し,相違点を看過したものであると主張するところ,引用発明の上記構成については,当事者間に争いがないので,以下,本願発明の「テレスコピックシャフト」の技術的意義について検討する。

ア 「テレスコピックシャフト」の一般的意義
 まず,「テレスコピック」の一般的な語義について見るに,この語が英語の「telescopic」に由来するもので,その一般的な語義は「伸縮自在の」,「入り子式の」などの意味を有するものであることは各種の英和辞典から明らかであり,被告においてもこの点を争うものでないことは弁論の全趣旨に照らして明らかである。そして,本願発明と技術分野を同じくする自動車技術に関する「自動車用語中辞典」(平成8年9月15日,株式会社山海堂)305頁(甲第8号証)には,「テレスコピック・ステアリング」について「ステアリングホイールが軸方向に伸縮するもの」との記載があることからすると,自動車の技術分野において,「テレスコピック」といえば,一般的には,「伸縮自在な」動きを意味するものと解するのが相当というべきである。

 しかしながら,当然のことではあるが,語句の解釈は,上記のような当該語句が有する一般的な語義を前提としつつも,当該語句が使用される文脈との関係においてその意味を確定することが不可欠であり,上記のような一般的な語義をそのまま適用すればよいといったものではない。そこで,本件における「テレスコピック」の語の意味を本願発明の請求項1の文脈において検討することとする。

イ 本件出願の請求項1の記載における「テレスコピックシャフト」の意義
 請求項1は前段と後段の2つの段落から成るところ,前段には,2つの管状部材を「・・・軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせて成り,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフト」と規定されているから,上記「テレスコピック」を前項の一般的な語義に照らすならば,「2つの管状部材が「伸縮自在に」嵌め合わせて成(る)・・・テレスコピックシャフト」を意味するものと一応理解することができる

 そこで,更に進んで上記の理解が請求項1の後段においても矛盾なく採用され得るか否かについて検討するに,後段においては,「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」2つの管状部材は,そのうちの1つの抵抗手段を備えた管状部材が,他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用して,所定の摺動位置を超える短縮を歯の変形抵抗を伴って生じさせるものであることを規定しているから,後段における2つの管状部材の動きは,専ら,「収縮方向」の動きであって,2つの管状部材が伸張する方向に動く場合を含むものでないことは後段の記載から明らかである。

 そして,以上のことを踏まえて,請求項1を全体として見るならば,本願発明の特徴的構成が後段部分にあることや「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」と規定する前段部分において,2つの管状部材の動きの態様については何ら具体的に規定していないことなどに照らすと,請求項1は,後段に規定した本願発明の特徴的な構成,すなわち,上述した「収縮方向の動き」を実現するために,2つの管状部材の関係が「テレスコピック」の嵌め合い構造であることを規定したものと解するのが相当というべきである。

ウ 本願明細書における「テレスコピック」の用語法
 念のため,本願明細書の記載において,2つの部材が上記のように「収縮方向」にだけ動く場合にも「テレスコピック」なる用語が用いられるかどうかについて見るに,本願明細書には以下の記載がある。すなわち、

「・・・。」

「・・・。」

上記の各記載によれば,本願明細書においては,2つの管状部材から成るシャフトで専ら「収縮方向」にのみ動くものであってもこれを「テレスコピック構造」,「テレスコピックシャフト」などと呼んでいたことが認められるから,原告主張のように「テレスコピック」なる用語から直ちに嵌合関係にある2つの部材が「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難であるといわざるを得ない。

 したがって,本件出願の請求項1における「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」との規定部分をもって,2つの管状部材が原告主張のように「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難というべきであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ないから,採用することは出来ない。

エ 結論
 引用発明のステアリングシャフトにおけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」方向だけの動きをすることは当事者間に争いがないから,これと本願発明の「テレスコピックシャフト」を上記の点において一致するとした審決の判断に誤りはなく,審決に相違点の看過はない。』

旧著作権法による著作権存続期間の判断事例

2008-02-03 17:48:25 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)16775
事件名 著作権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『3 争点3(本件両作品の著作権の存続期間の満了時期)について
旧著作権法による本件両作品の著作権存続期間
ア 上記第2,2(前提となる事実)によれば,本件両作品は,現行著作権法の施行前に公表された著作物であると認められるところ,同法附則7条は,同法の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については,当該著作物の旧著作権法による著作権の存続期間が現行著作権法の規定による期間より長いときは,なお従前の例によると規定していることから,まず,本件両作品の旧著作権法による著作権の存続期間について検討する。

イ 旧著作権法は,22条ノ3において,映画の著作物の著作権の存続期間につき,独創性を有するものについては3条ないし6条及び9条の規定を適用し,独創性を欠くものについては23条の規定を適用すると定めていたところ,上記第2,2(前提となる事実)によれば,本件両作品は独創性を有する映画の著作物であると認められるから,本件両作品の著作権の存続期間は,旧著作権法3条ないし6条及び9条の規定により規律される。
この点,旧著作権法は,

3条 発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス
2 数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス
4条 著作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発表又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
5条 無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス但シ其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ
6条 官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス

と規定し,著作権の存続期間について,著作者の死亡時期を起算点として一定期間存続するものとした上で(3条,5条ただし書),著作者の死亡後に発行又は興行された著作物については,当該発表又は興行の時点を(4条),無名又は変名著作物及び団体の著作名義で発行又は興行された著作物については,当該発行又は興行されたとき(5条本文及び6条)をそれぞれ起算点として一定期間存続するものと定めている。これらの規定の仕方に加えて,上記1のとおり,元来,著作者となり得るのは自然人であるとされていたことにかんがみれば,旧著作権法は,著作権の存続期間につき,著作者の死亡時期を起算点として一定期間存続することを原則とし,著作者の死亡時期が観念できなかったり,判別できないため上記原則を適用できない無名・変名著作物及び団体著作物について,例外的に5条本文及び6条によって規律するものと解される。

 そうすると,旧著作権法6条が定める団体著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは著作者の死亡時期を観念ないし判別することができないものをいうと解するのが相当である。

ウ これを本件についてみると,本件両作品のクレジットには,「松竹映画」と団体である原告名義の表示のほか,「監督黒澤明」の表示がされているところ(甲15,乙9),これは著作者である黒澤の実名を表示したものと認められるから,本件両作品は,著作者の死亡時期を観念ないし判別することができない著作物であるとはいえない
 そうすると,上記第2,2(前提となる事実)及び争点1の認定によれば,本件両作品は,著作者である黒澤の生前に公開されたものであることが認められるから,これらの著作権の存続期間は,旧著作権法3条により規律されるというべきである。
 旧著作権法3条及び52条1項は,当該著作物の著作権の存続期間は,著作者が生存している間及びその死後38年間と規定しているところ,黒澤は平成10年(1998年)9月6日に死亡したのであるから(甲2),旧著作権法の規定に基づく本件両作品の著作権の存続期間は,同法9条により,平成11年(1999年)1月1日から起算して38年間,すなわち平成48年(2036年)12月31日までとなる。

エ 被告は,本件両作品が団体著作物であり,旧著作権法6条,52条2項の規定により,団体著作物の著作権の存続期間は公表後33年となるから,本件両作品の著作権保護期間は既に満了していると主張するが,この主張が採用できないことは,以上の説示に照らし明らかである。』

旧著作権法下で譲渡を受けた著作権の頒布権の有無の判断事例

2008-02-03 17:47:46 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)16775
事件名 著作権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『2 争点2(原告は本件両作品の頒布権を有するか)について
 現行著作権法29条1項は,映画の著作物の著作権の帰属について定めているところ,同規定は,現行著作権法施行前に創作された映画の著作物には適用されず,同著作物の著作権の帰属については,なお従前の例によるとされた(現行著作権法附則5 条1項)。本件両作品は,現行著作権法施行前に創作された映画の著作物であるから,その著作権の帰属(承継)について,旧著作権法が適用されるのであるが,旧著作権法には,映画の著作物の著作権の帰属(承継)について直接定めた規定はない

 そうすると,現行著作権法施行前に創作された映画の著作物について,著作者ではない映画製作者が当該映画の著作権を取得するには,当該映画の著作権を原始的に取得した著作者から,著作権の譲渡を受けることを要するものといえる。

 これを本件についてみると,本件両作品の著作者である黒澤は,同作品の著作権を取得したものと認められるところ,本件両作品の映画製作者である原告は,自らが原始的に本件両作品の著作権を取得した旨を主張するものではないが,「松竹映画」との表示を付して本件両作品を公開・興行し,原告が著作権者である旨の表示を付して本件両作品を収録,複製したDVD商品を販売しており(甲1の1,1の2,15,乙9),これに対して黒澤ないしその相続人等が異議を唱えていたなどの事情は証拠上うかがわれず,黒澤の相続人が代表者を務め,黒澤に関する諸権利を管理している株式会社黒澤プロダクションは,黒澤が本件両作品の著作権を原告に移転することを容認しており,本件両作品の著作権が原告に帰属することを認める旨述べていること(甲2)にかんがみれば,黒澤は,原告に対して本件両作品の著作権を譲渡していたと推認することができる。
 したがって,原告は,黒澤から本件両作品の著作権を承継したというべきである。

原告が,黒澤から本件両作品の著作権を承継したとしても,頒布権については,現行著作権法において初めて権利として認められた(26条)ものであるから,現行著作権法施行前に著作権の譲渡が行われた場合に,当該著作物の頒布権についてどのように考えるべきかが問題となる。
 この点,現行著作権法附則9条は,「この法律の施行前にした旧法の著作権の譲渡その他の処分は,附則第15条第1項の規定に該当する場合を除き,これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす。」と規定しているが,その趣旨は,旧著作権法に基づく著作権と,現行著作権法に基づく著作権とでは,その種類及び内容に差異が存在することから,法により内容が規定されるという著作権の性質上,権利内容が拡大した部分についても処分の対象となっていたものとして扱うものとすることと解される。
 そうすると,旧著作権法下において著作権を全部譲渡した場合には,特段の事情のない限り,現行著作権法により権利内容が拡大された著作権の全部を譲渡したとみなされるというべきである。

そして,本件両作品の著作権の譲渡に関する上記の各事情や,黒澤が本件両作品の著作権に含まれる特定の支分権を自己に留保する意思を有していたと認めるに足りる証拠がないことに照らせば,本件においても,原告は,黒澤から本件両作品の著作権の全部を承継したと認めるのが相当であり,これを覆すべき特段の事情はないというべきである。
 したがって,原告は,本件両作品の頒布権を有すると認められる。 』

旧法による映画の著作者の判断事例

2008-02-03 17:46:52 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)16775
事件名 著作権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『1 争点1(本件両作品の著作者)について
現行著作権法16条は,映画の著作物の著作者を定めているところ,同規定は,現行著作権法施行前に創作された著作物については適用されない(現行著作権法附則4条本件両)。作品は,現行著作権法施行前に創作された著作物であるから,その著作者について,現行著作権法16条は適用されず,旧著作権法が適用されるところ,同法においては映画の著作物の著作者について直接定めた規定はない

 そこで,旧著作権法における映画の著作物の著作者について検討すると,旧著作権法においても,現行著作権法と同様に,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属する思想又は感情を創作的に表現した著作物の保護を目的としていると解され,思想又は感情を創作的に表現し得るのは自然人のみであり,元来,著作者となり得るのは自然人であるとされていたのであるから,映画の著作物の場合も,思想又は感情を創作的に表現した者が著作者となるというべきであり,具体的には,現行著作権法16条と同様に,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が著作者であるというべきである。

そして,本件両作品において,黒澤は,監督を務めており,本件両作品の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,それを覆すに足りる証拠はない。

 確かに,本件両作品は,劇場公開用の娯楽映画であって,映画会社である原告が資金提供を行い,その管理の下で多数のスタッフやキャストが関与して製作されたものであるが,そのことから,直ちに,黒澤の創作的な寄与の程度が減じられるものではないし,黒澤は,本件両作品の脚本も担当していたこと(甲15,乙9)からすると,監督のみを務める者と比較して,より一貫したイメージを持ちつつ,全体的形成に創作的に関わっていたというべきである。
 したがって,黒澤は,他に著作者が存するか否かはさておき,少なくとも本件両作品の著作者の一人であると認められる。

 被告は,当時の映画関係者の考えに照らせば,本件両作品の著作者は映画製作者である原告である旨主張するが,当時の映画関係者の考えや,映画製作者を著作者とする解釈が一般的であったことを示す資料もなく,被告の上記主張は認められない

 また,被告は,本件両作品のような娯楽映画においては,多数のスタッフやキャストが関与し,出資者である映画会社と実際に創作作業に従事した者らとの関係も複雑なのであるから,この場合には,映画製作者を著作者とみるべきであると主張するが,このような事情を考慮しても,上記において検討したとおり,黒澤が著作者であることが認められるのであって,被告の上記主張は理由がない。』