知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

認められた訂正の確定時点について

2008-02-16 21:12:41 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10455
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『4 本件訂正発明46について
(1) 前記第2,1記載の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲21の1,28,乙5)を総合すると,原告は,無効2003-35518号事件において,平成16年7月21日,請求項46に係る発明について・・・と訂正する内容の訂正請求をしたところ,特許庁は,平成17年6月24日,請求項46に係る発明についての訂正については,誤記の訂正を目的としていることを理由にこれを認めるとともに,訂正後の請求項40及び43に記載された発明についての特許を無効にするとの本件無効審決をし,その後原告は本件無効審決について審決取消訴訟を提起したが,本件訴訟係属中に本件無効審決が確定したことが認められる。

 他方,本件訂正審判請求において,原告は,本件特許の請求項38,40及び46に関して訂正審判を請求しているところ・・・,審判合議体は,本件特許の請求項46に係る訂正について,「誤記の訂正を目的とするものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,かつ実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。」と判断し,さらに本件訂正発明46の独立特許要件の有無を検討し,・・・として独立特許要件を肯定しながら,本件訂正発明38,40が独立特許要件を欠くことを理由に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたことが認められる。

(2)ア ところで,特許法は,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制を導入したものであるところ,同改正後の特許法の下においては,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに無効審判請求をすることができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らせば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに確定するというべきである。

 そして,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされた請求項について訂正請求がされ,「訂正を認める」とした上で,審判請求を不成立とする審決がされた場合には,訂正請求に係る請求項は,審決のうち当該請求項について審判請求不成立とした部分が確定した時に,当該訂正された内容のものとして確定するというべきである(当庁平成19年6月20日決定(同年(行ケ)第10081号),同年7月23日決定(同年(行ケ)第10099号),同年9月12日判決(同18年(行ケ)第10421号)参照)。

 このように,改善多項制導入後の特許法の下においては,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,請求項ごとに生ずるものであり,その確定時期も請求項ごとに異なり得るものである。

 これを言い換えれば,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続においてされた審決に対する取消訴訟においては,審決の取消しを求める当事者(原告)は,当該訴訟において取消しの対象とされている請求項に係る審決部分に関しては,審決が当該請求項について訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを含めて,その当否を争うことが許されるが,当該訴訟において取消しの対象とされていない請求項について審決が訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを争うことは許されないということである。

 そうすると,そもそも,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,特許権者から2以上の請求項について訂正請求がされた場合には,審判合議体は,原則として,各請求項ごとに訂正請求の許否を判断すべきものであり,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,その余の請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,改善多項制の下における特許法の解釈としては,特段の事情のない限り,許されないというべきである。

イ 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされていない請求項について訂正請求がされ(特許法134条の2第5項後段参照),当該訂正請求につき「訂正を認める」との審決がされた場合は,審決のうち,当該請求項について「訂正を認める」とした部分は,無効審判請求の双方当事者の提起する取消訴訟の対象となるものではないから,審決の送達により効力を生じ,当該請求項は,審決送達時に,当該訂正された内容のものとして確定すると解するのが相当である。

 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においては,審判合議体は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が独立特許要件を欠く等の理由により許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,特段の事情のない限り,特許法上許されないというべきである。また,この場合において,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することも,特段の事情のない限り,特許法上許されないものである。

(3) そうすると,本件特許の請求項46は,同請求項を対象とする訂正請求を認めた本件無効審決の送達時において,当該訂正された内容のものとして確定したというべきである
 そして,前記のとおり,当該訂正請求による訂正後の請求項46の内容は本件訂正発明46と同一であるから,本件訂正審判請求のうち請求項46に係る部分は,本件特許の請求項46について,本件無効審決により既に訂正されて確定した内容と同一内容に訂正を求める内容であって,無意味なものである(なお,訂正審判請求書(甲21の1)及び訂正審判請求書手続補正書(甲21の2)の記載に照らし,本件訂正審判請求において,原告が本件特許の請求項46についても訂正を求めていると解さざるを得ないことは,既に前記(1)において説示したとおりである。)。

(4) 本件審決は,本件無効審決に対して原告が審決取消訴訟を提起したことにより,本件特許に係る請求項46の訂正も確定していないとの理解に基づき,請求項46の訂正の許否について審理の対象としているが,これは上記の理解と異なるものであり,是認することができない

 すなわち,本件無効審決のうち請求項46について「訂正を認める」とした部分は本件無効審決の送達と同時に確定しているのであるから,本件訂正審判請求の審理を担当する審判合議体としては,こうした理解に基づいて,請求人(原告)に対し釈明権を行使して,訂正審判請求書の補正により請求項46の訂正部分を削除することを求め,請求人(原告)においてこれに応じない場合には,本件無効審判請求中請求項46に関する部分については,不適法なものとして却下すべきであったものである(特許法135条)。』

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