知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

コピー機設置場所の提供が著作権を侵害する不法行為に該当するか

2008-02-10 11:41:23 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一

『3 争点3(被告の行為(本件土地法典の貸出及び民事法務協会に対する法務局内におけるコピー機設置場所の提供)が本件土地宝典の著作権を侵害する不法行為に該当するか)について
(1) 証拠(甲30,甲33,甲34,甲35,乙20,乙21)によれば,次の事実が認められる。

ア 本件土地宝典の管理状況
 法務局にある本件土地宝典は,法務局職員により管理されており,一般人が本件土地宝典の閲覧及び複写を申し込むと,法務局職員が本件土地宝典を申込者に貸与する。ただし,貸与された本件土地宝典の閲覧は,改ざん防止のため,法務局内においてのみ許されており,これを外部に持ち出すことはできないため,その複写をする場合は,法務局内に設置されたコインコピー機によってのみ複写することになる。

イ 法務局内のコインコピー機の管理状況
・・・

ウ 民事法務協会と被告の関係
 民事法務協会は,法務省所管の財団法人であって,その事業の一つとして,法務局において公図等を閲覧する人の利便等を図るため,同所にコインコピー機を設置し,その管理運営に当たっているものである。
 すなわち,民事法務協会は,法務局の貸与する図面等の複写について独占的な事業を営んでいるものである。そのため,コインコピー機の利用料金は市中にあるコインコピー機よりやや高額に設定されている。なお,被告は,コインコピー機の設置に関し,国有財産法18条3項及び19条に基づいて,法務局の建物の一部の使用を許諾し,民事法務協会から,国有財産の使用料を徴収している。

(2) 上記認定事実によれば,本件土地宝典は,広範な地域の公図及び不動産登記簿等の情報を一覧することができるため,不動産関係業者等が郊外地や山林地などの物件調査をするにあたって重用されており,また,各種申請における添付資料とされていることなどから,遅くとも原告らが本件土地宝典の著作権を譲り受ける以前から,現在に至るまで,不動産関係業者等をはじめとする不特定多数の第三者が,上記のような業務上の利用目的をもって,各法務局に備え置かれた本件土地宝典の貸出を受けて,各法務局内に設置されたコインコピー機において複製行為をなしてきたことは容易に推認し得るところである(甲14)。

 一方,このような公的申請の添付資料や物件調査資料としても使われるという本件土地宝典の性質上,貸出を受けた第三者がこれを謄写することは十分想定されるのみならず,閲覧複写書類の改ざん防止の見地から,コインコピー機は法務局が直接管理監督している場所に設置されているものであるから,各法務局は,本件土地宝典が貸し出された後に複写されているという事情については,十分に把握していたはずである。また,民事法務協会がコインコピー機を設置しているとはいえ,同協会は法務省所管の財団法人であって,被告が同協会に対し法務局内のコインコピー機設置場所の使用許可を与えており,かつ,実際にコインコピー機設置場所の管理監督をしているのは上記のとおり,各法務局である。

 よって,被告(各法務局)は,本件土地宝典の貸出を受けた者がこれを複写しているという事情を十分に把握していたのであるから,この複製行為を禁止する措置をとるべき注意義務があったのに禁止措置をとらず,漫然と本件土地宝典の貸出行為及び不特定多数の一般人による複製行為を継続させたことにおいて,本件土地宝典の無断複製行為を惹起させ,継続せしめた責任があるといわざるを得ない。
 また,民事法務協会は,コインコピー機の直接の管理者であり,不特定多数の一般人をして本件土地宝典の無断複製行為をさせ,これにより利益を得ていたのであるから,本件土地宝典の複製行為については,その侵害主体であるとみるべきである。そして,被告(各法務局)が本件土地宝典の複製を禁止しなかった不作為についても,被告が民事法務協会に対しコインコピー機の設置許可を与え,同設置場所の使用料を取得し,同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用されるものであること,法務局がコインコピー機の設置場所についても直接管理監督をしていることを考慮すると,各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。

 以上によれば,民事法務協会と被告とは,本件土地宝典の不特定多数の一般人による上記複製行為について,共同侵害主体であると認めるのが相当である。

 なお,被告は,本件土地宝典の複製行為により直接の利益を得ているわけではない。しかし,被告は,本件土地宝典の複製行為により利益を得ている民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を取得しているものである。また,本件土地宝典の複製行為については,民事法務協会と被告とが共同侵害主体であると評価すべきことは前記のとおりであるから,共同侵害主体と評価し得る者のいずれかが複製行為により利益を得ているだけで足りると解すべきである。

 被告は,本件のように,被告の行為による権利侵害の蓋然性は高いとはいえず,被告には結果発生の予見可能性すらない上,現実に権利侵害が発生している立証すらない場合については,被告の行為を著作権侵害行為と評価できない,と主張する。

 しかし,本件土地宝典の貸出とコインコピー機の設置により,不特定多数の一般人による本件土地宝典の違法複製行為が発生する蓋然性が高く,実際に複製行為がなされていたこと,及び,被告がその結果を十分に予見し,かつ,認識し得たことは前記認定のとおりである。被告の上記主張は採用し得ない。』

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