知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

訂正の適否、一部訂正の意志の推認の否定の事例

2008-02-24 21:04:12 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10242
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)について
(1) 誤記訂正目的の有無
原告は,訂正事項gは誤記の訂正を目的とするものであり,理由(1)に係る審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。

ア 訂正前明細書(甲9)の記載
・・・
イ 訂正前明細書における「通気撥水性」の意義
(ア) ・・・
(イ) ・・・
(ウ) 以上のとおりであるから,本件発明における「透液性」のフラップ部材シートは,「通気撥水性」のシートより高度の「透液性」があり,「通気撥水性」のシートを用いた場合よりも蒸れ防止効果が大きいものと解するのが合理的であり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載は,これを裏付けるものであって,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載のままでは,本件発明の作用効果の説明として不合理であるということはない

ウ 出願の経緯,出願前の技術等
(ア) 本件当初明細書では,「通気撥水性」という語は用いられていなかったが,本件拒絶理由通知書(甲14)を受けて,原告は,次のように補正した。

 すなわち,本件手続補正書により,発明の詳細な説明(段落【0016】)の「・・・。」との記載を,「・・・。」と補正したことが認められる(弁論の全趣旨)。
 また,上記補正の契機となった本件拒絶理由通知書(甲14)の引用に係る引用例3(甲5)には,「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行~4行)との記載がある。

(イ) そうすると,上記補正は,本件発明1における「フラップ部」が,先行例1における「不透液性」シートのみでなく,より透液性が高いと解される「通気撥水性」のシートと比較して,更に高い「透液性」を示す「通気透液性」のシートであることを表現したものであって,本件発明1が,撥水性及び通気性を有するシートと比較して,蒸れの防止効果が優れていることを強調する目的でされたものと理解される。
 すなわち,上記補正では,引用例3における「撥水性および通気性を有する」シートを比較対象として意識したために,「通気撥水性」のシートという語を選択したのであって,「通気防水性」と記載すべきところを「通気撥水性」と誤記したものと解することはできない。

(ウ) 引用例3(甲5)に「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行~4行)と記載されているように,本件特許の出願前から「通気性と撥水性を有するシート」として種々のものが知られていたことが認められる。
 したがって,訂正前明細書に接した当業者は,同明細書の段落【0015】における「通気撥水性のシート」について,「通気性と撥水性を有するシート」を意味するものと理解するというべきであり,これを「通気透水性のシート」の誤記と当然に認識するということはできない

エ 小括
 以上を総合すれば,訂正前明細書【0015】における「通気撥水性」との記載は,「通気防水性」の誤記ということはできない。また,その他,訂正事項gは特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。これと同旨の理由(1)に係る審決の認定判断に誤りはない。』


『2 結論
(1) 訂正事項gと本件訂正全体の許否との関係について
ア 前記1(2)ウのとおり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」のシートを「通気防水性」のシートと訂正した場合,本件発明におけるフラップ部は,「通気撥水性」シートよりも「透液性」の程度が高いものに限られず,「通気防水性」のシートよりも「透液性」の程度が高ければよいと解釈する余地を生じることになる。
 したがって,本件訂正は,訂正事項gを含むことによって,訂正発明1及び2のいずれの関係においても,本件発明の技術的範囲を拡張又は変更するとの解釈の成立する余地の生じる訂正というべきであるから,訂正事項gは,単なる誤記の訂正にとどまる形式的なものではなく,特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものというべきである。

イ ところで,審判請求書(甲10の1)には,請求の趣旨として,「特許第3009482号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める,との審決を求める。」と記載され,複数の訂正箇所のうちの一部の訂正事項が認められなかった場合,二次的に残余の訂正のみを請求するとの格別の意思を認める合理的な理由もうかがえない。また,訂正事項gが,一部の請求項についてのみに関係を有する事項であると解することもできず,むしろすべての請求項に関係する事項と解するのが合理的である。

 そして,特許庁が,審判手続において発した平成19年3月16日付け訂正拒絶理由通知書(甲12)には,訂正事項gは,特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められないから,本件訂正は同号の規定に適合しておらず,訂正は許されない旨が記載されていたにもかかわらず,原告が提出した平成19年4月23日付け意見書(甲13)には,訂正事項gが許されないとしても,二次的に,その余の訂正事項に係る訂正については許されるべきであるとの審決を求めることをうかがわせるに足りる記載は存在せず,また,審判請求書が補正されたことも認められない(弁論の全趣旨)。

 本件における上記の経緯に照らすならば,本件では,訂正事項gに係る訂正が許されないものと判断された場合において,その余の訂正事項について,一部のみの訂正に係る審判を求めているとの合理的な意思を推認することはできない

ウ そうすると,本件において,審決が,訂正事項gについての訂正が許されない以上,本件訂正に係る審判請求が全体として成り立たないと判断した点に違法はない。』


(参考)
http://ip-hanrei.sblo.jp/article/9176988.html

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