知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

一部研究者の氏名を表示せずした研究発表は不法行為を構成するか

2008-02-03 17:52:38 | Weblog
事件番号 平成19(ネ)10030
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官飯村敏明


『3 争点(2)(被告らによる研究発表が原告の研究成果を奪う不法行為となるか
否か)について
(1) 原告主張の不法行為の成否
 原告は,本件各マウス(本件マウス①~⑥)に係る研究成果が原告の単独の成果であるとして,被告らが本件各研究発表をしたことは,原告に帰属すべき単独の研究成果を侵奪したという意味で不法行為に該当すると主張する。
しかし,前記2認定のとおり,本件各マウスに係る研究成果は,原告が単独で行った着想,発案による原告の単独の研究成果ではなく,被告Y2が重要な部分を担当,関与した研究成果であるから,被告らが本件各研究発表をしたことが原告の単独の研究成果を侵奪した不法行為に該当するとの原告の主張は,その前提を欠き,理由がない

(2) 補足的検討
念のため,被告らの本件各研究発表において,原告の氏名を表示しなかった点が不法行為に該当するか否かについて,進んで検討する。すなわち,本件研究発表1,2は本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表という形式で,本件研究発表3は本件講座の研究グループの発表という形式で,被告Y2,被告Y1及び己らによって学会発表されたが,原告は発表者に含まれず,また,研究グループの構成員としてもその氏名が表示されることがなかった点について,不法行為の成否を検討する

ア事実認定
 前記争いのない事実等,前記1及び2の認定事実を総合すれば,以下の事実が認められる。
・・・

イ判断
(ア) 上記アの認定によれば,原告には,本件各マウスの共同研究者,又は共同研究に寄与ないし貢献した者の一人として,本件各マウスに係る研究成果について研究発表をする場合には,自己の氏名を挙げて,公表される利益を有しているということができる。

 他方,上記認定の諸事情,すなわち,本件各研究発表の主題及び内容,本件各研究発表の内容に関する原告の寄与及び貢献の程度,被告らが,原告の氏名を発表者又は研究グループの構成員として表示することなく,本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表又は本件講座の研究グループの発表という形式で,本件各研究発表を行うに至った経緯等を総合考慮すると,被告らが,原告の氏名を表示することなく,本件各研究発表をしたことは,その形式において適切ないし配慮を欠く点があったとはいえるものの,少なくとも,社会的に是認し得る限度を逸脱し,原告の上記利益を侵害するものとまではいえず,不法行為法上違法であると評価することはできない

(イ) なお,被告Y1は,病理学及び腫瘍学がその専門分野であり,同被告が本件講座の教授として着任したのは平成15年12月であること(乙34)に照らすならば,被告Y1はマウスのMHCに係る研究に関しては専門外であって,被告Y1が被告Y2の原稿を点検した行為は,おおむね形式的な点にとどまっていたことは明らかであり,被告Y1の氏名を発表者の1人として本件各研究発表において掲げることは,前記1(6)ウの研究者行動規範にいう「名誉著者として,実際に貢献をしていない人の名前を入れる」ことに当たり,同規範にいう「広義の研究ミスコンダクト」に相当するというべきである。

 そうすると,本件各研究発表において,発表者として被告Y1の氏名を挙げたことは,研究発表の在り方として,適切ではなかったといわざるを得ない。しかし,前記ア認定の諸事情に照らすならば,このような形式で被告らが本件各研究発表を行った点が,原告との関係で,不法行為法上違法であると評価することはできない

(ウ) 以上によれば,被告らが原告の氏名を表示することなく本件各研究発表をしたことは,不法行為を構成するものではない。』

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