知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

分割出願の新規事項と訂正

2006-02-27 22:30:00 | 特許法44条(分割)

◆H15. 9.25 東京高裁 平成14(行ケ)188 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法44条(分割)

(経緯等)
対象特許は、特許第3043694号の特許(平成4年1月16日に出願された平成4年特許願第5742号(以下「本件原出願」という。)の分割出願。 平成9年11月27日に特許出願され,平成12年3月10日に特許権設定登録。請求項の数は1。 特許異議の申立。 この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書について,訂正を請求したものの、特許庁は,審理の結果,平成14年3月4日に,「特許第3043694号の請求項1に係る特許を取り消した。

(原告主張と判示事項一覧)
原告: 特許法120条の4第2項の規定の趣旨に照らすと,分割要件違反を理由として指摘された事項を削除する訂正は許容されてしかるべきである
判示事項:(特許法120条の4第2項の趣旨) いったん特許となった発明については,その対象を確定して権利の安定を保証する趣旨から,特許明細書の訂正は,むやみに許容すべきではない。他方,明細書中に瑕疵が存在する場合,その瑕疵を是正して無効理由や取消理由を除去することができるようにしなければ,特許権者に酷であり発明を適切に保護することができない。 特許法120条の4第2項は,上記の相反する要請の調和の観点から,一定の事項を目的とする場合に限って特許明細書の訂正を許容することを規定したものである。このような同条項の趣旨に照らすと,特許査定がなされた後に取消理由通知を受けた場合に,取消理由を回避するための訂正が認められるためには,同条項に規定された要件を満たすことが必要であることは,明らかなことというべきである。

原告: 原明細書に記載されていない発明が本件明細書に含まれていることが分割要件に違反するとの前提に立つならば,本件明細書の記載内容は,本件原当初明細書との関係で言えば不整合な記載事項であり,かつ,その記載事項は分割出願の明細書の記載事項として記載してはならない事項を誤って記載したものである。 したがって、訂正請求に係る訂正は,特許法第120条の4第2項2号もしくは3号に規定された「誤記の訂正」若しくは「明りょうでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当するものと扱われるべきである。
判示事項1:特許法120条の4第2項にいう「願書に添付した明細書又は図面」とは,訂正請求時の特許明細書である本件明細書のことであると解すべきことは,条文の文理上明らかである。この規定によれば,同条項に規定する訂正の目的の要件を満たすか否かは,訂正請求時の特許明細書である本件明細書と,訂正後の明細書とを対比して判断すべきことが明らかであって,原当初明細書との関係を考慮することはできない。 原告: 本件訂正請求を認めないことは,結果として,本件出願の審査段階で分割要件を欠くことを看過したまま特許査定をした審査上の過誤の責を特許権者に負わせることとなり,不合理である。
判示事項2:特許が登録要件を欠くことが審査段階で看過され特許査定及び設定登録がなされた後に,特許異議の手続の段階でこのことが判明し,取消理由通知がなされることがあることは,特許法が制度として当然に予定していることである。特許法が,このような場合において,審査段階で登録要件を欠くことを指摘しなかったことを理由に訂正を広く認める立場を採用していないことは,訂正の事由を一定の場合に制限した特許法120条の4第2項ただし書の規定から明らかというべきである。 実質的にみても,このような特許権者は,登録要件を欠く出願を自らした者であるから,いったんそのまま特許査定及び設定登録を受けた以上,その後において,結果的に,審査段階で登録要件を欠くことが指摘された場合に比べて不利益な扱いを受けることになったとしても(例えば,新たに分割出願をし直すことができなくなるなど),やむを得ないというべきであって,このことを不合理ということはできない。 原告の主張するところは,結局のところ,分割要件違反の理由として指摘された事項を削除する訂正でありさえすれば,特許法120条の4第2項に規定された目的を満たすか否かを判断するまでもなく,許容されるべきである,というに帰し,分割出願の明細書の訂正の名の下に,分割出願のやり直しを認めるべきである,というに等しいものであって,このような主張は,採用することができない。

 原告: 本件原当初明細書に接した当業者は,本件難燃剤が,樹脂一般や従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂や,応用例2の樹脂組成物においても有効であることを,明文の記載がなくとも,本件原出願時の技術常識に照らし,当然に理解することができるから,これらの樹脂に対して適用する難燃剤の発明も本件原当初明細書に実質的に記載されているとみるべきである
 判事事項:  本件原当初明細書には,本件難燃剤は,特定の適用対象である樹脂との関連において記載されており,同明細書中に他の適用対象については一切記載されていないことは上記のとおりであり,このような本件原当初明細書の記載状況の下では,明文の記載がないにもかかわらず,そこに記載された難燃剤が他の樹脂にも有効であることが実質的に記載されているとみることができる,というためには,相当に明確な根拠が必要であるというべきである。 仮に,原告が主張するように,本件原出願当時,従来公知の有機リン系難燃剤が樹脂一般に対し難燃化の点で有効であるとの技術常識があったとしても,そのことは,本件原当初明細書の上記記載状況の下で,同明細書において新規とされている難燃剤が,一般に他の樹脂に対しても同様の効果を奏することが自明であるとするに足りるものではないことが,明らかである。

(感想)
実務を行う上で、たいへん参考になる判示事項である。


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