知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

子出願が事後的に分割要件を満たさなくなった場合の孫出願の出願日

2007-08-05 11:19:41 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成15(行ケ)66
裁判年月日 平成15年09月03日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美


『(2) 特許出願の分割について定めた特許法旧44条1項は,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定していたから,分割出願が適法であるための実体的な要件としては,もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であることが必要である。さらに,分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有する(同法44条2項本文)ことからすれば,新たな出願に係る発明は,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要すると解される

 また,分割出願として孫出願が可能か否かについての明文の規定はないが,「二以上の発明を包含する特許出願」(親出願)に対して分割要件を満たす「新たな特許出願」(子出願)をし,さらに,「二以上の発明を包含する特許出願」(子出願)に対して分割要件を満たす「新たな特許出願」(孫出願)をすることを妨げる理由はないから,子出願及び孫出願の両者が分割要件を満たす場合には,孫出願の出願日を親出願の出願日に遡及させることを定めていたものと解するのが相当である

 したがって,孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには,子出願が親出願に対し分割の要件を満たし,孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし,かつ,孫出願に係る発明が親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであることを要するというべきである。』

『 本件において,孫出願は,親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願し,玄孫出願である本件特許出願は,孫出願を更に分割出願した曾孫出願を更に分割出願したものであるから,玄孫出願(本件特許出願),曾孫出願,孫出願及び子出願の各分割出願がそれぞれ特許法旧44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件発明1,2が親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,本件発明1,2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。

 しかしながら,子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書(甲19)により補正され,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなり,いったん特許権の設定登録がされた後,当該補正がされた発明のまま,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権は,初めから存在しなかったものとみなされた。

 したがって,当該補正がされた発明はもはや訂正される余地はなく,子出願に係る発明は,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,子出願が分割の実体的要件を満たさないことは明らかである。そうすると,孫出願及びそれ以降の分割出願の適否を検討するまでもなく,玄孫出願である本件特許出願の出願日が親出願の出願日まで遡及する余地はないというべきである。』

『(3) 原告は,子出願は,適法に分割出願されて登録をすべきことが確定した後に,特許法旧40条の規定により,出願日が手続補正書提出日と擬制されたものであり,分割の不適法が問われたものではないから,適法に分割されて確定した他の権利である孫出願及びそれ以降の分割出願には分割不適法の効果は及ばない,すなわち,子出願の出願日は,特許法旧40条の規定により,平成5年10月29日付け手続補正書(甲19)が提出された日に確定されたものの,同手続補正書が提出されるまで適法に手続がされたものであるから,それより前の同年3月19日付け手続補正書(甲18)に記載の実体的分割要件で,分割の時期的制限から同年10月29日に適法に分割出願された権利にまで,分割不適法の効果が及ぶものではないと主張する

 しかしながら,親出願,子出願,孫出願及びそれ以降の分割出願は,それぞれ別個の出願手続であり,特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものであっても,孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,飽くまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に親出願の出願日まで遡及するものではない。子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書により補正されたが,親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内のものでないこととなったから,上記補正は,本来,不適法なものとして却下されるべきものであったが,却下されることなく,当該補正がされた発明のまま,いったん特許権の設定登録がされた後,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権が初めから存在しなかったものとみなされたことは上記のとおりであって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われたものでないことは明らかである。』

『(4) 原告は,子出願は,適法に分割出願されて登録をすべきことが確定した後に,特許法旧40条により,出願日が手続補正書提出日と擬制されたと主張するが同規定の適用は,上記補正後の子出願に係る発明が,子出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,出願日が補正書提出の日である平成5年10月29日とみなされることをいうためであって,このことと,子出願が親出願に対して分割の要件を満たさないこととは別異の事項である
  原告は,また,孫出願は,特許法旧44条1項所定の「願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」という時期的制限を受けて,同年3月19日付け手続補正書(甲18)の内容を基に分割出願した他の権利であり,孫出願及びそれ以降の分割出願が子出願から適法に分割されていることは,本件審決も認定するところであると主張するが特許法44条2項本文に,「前項の場合は,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなす」と規定されているように,分割出願による遡及の利益の享受は,出願日が,「もとの特許出願」の出願日に遡及するというものであり,孫出願を「新たな特許出願」とすると,「もとの特許出願」とは子出願であるから,孫出願は,適法に分割された場合であっても,子出願の出願日に遡及するにすぎない

『(5) 原告は,さらに,本件特許出願に適用される昭和58年5月特許庁作成に係る審査基準においても,原出願が取り下げられ又は放棄された日と同日に出願された分割出願は適法であり,ただ,原出願が取り下げられ,放棄され又は無効とされた場合に,これらの行為がされた時点での原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一であるときには,分割出願は適法でないものとするとされており,子出願に係る権利が確定した後に無効になったからといって,孫出願及びそれ以降の分割出願までが無効になるものではないことは,特許庁における運用であると主張する
 しかしながら,子出願は,上記のとおり,特許法旧40条により,手続補正書の提出日が出願日とみなされたものであって,子出願が取り下げられ,又は放棄されたとみなされたものではないし,子出願が無効になったから孫出願が無効であるとの判断をしているものでもないことは明らかである。原告の上記主張は,本件審決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用の限りではない。』

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