知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

ある構成を省略できるかどうかの判断

2007-07-30 07:43:47 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成18(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『 原出願当初明細書等の上記①の記載からは,(b)成分が重要な意義を有することが認められるものの,(c)成分に比べて(b)成分の重要度がより強く認識されているからといって,(c)成分を含有しない発明が記載されていることにはならない。
また,確かに,実施例の組成物が含有する(d)成分やマレイン酸が任意成分であることは,原出願当初明細書等に明示的に記載されているが,任意成分であるとの記載がない(c)成分を,これらと同列に扱うことができないことは明らかである。
そして,原出願当初明細書等の上記③の記載は,(a)成分,(b)成分となり得る化合物の例を列挙するものであるが,原出願当初明細書等には,(a)成分及び(b)成分を含有し,(c)成分を含有しない組成物について記載されていないことは,前記イのとおりであり,かかる組成物の各成分となり得る化合物の例が記載されているということはできない。
 なお,原告が指摘するとおり,審決は,原出願当初明細書等に(a)成分と(b)成分とを含有することによる効果が示唆されているとしているが,すでに説示したとおり,原出願当初明細書等では,(c)成分が課題との関係で重要な役割を果たすものとされており,(c)成分を含まない組成物が課題を解決するに足る充分な性能を有することは,原出願当初明細書等から把握することができない。』

『特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されず,拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟においても,同様に解すべきものであるから(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),拒絶査定不服審判において特許法29条1項各号に掲げる発明に該当するものとして審理されなかった事実については,取消訴訟において,これを同条1項各号に掲げる発明として主張することは許されない。しかしながら,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合わせにつき審決と異なる主張をすることなどは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許されないとすることはできない。

 出願に係る発明につき,審判手続において公知事実から当業者が容易に想到することができるとして特許法29条2項に該当するものとして拒絶査定が維持された場合に,当該審決に対する取消訴訟において,被告が出願に係る発明は当該事実との関係で同条1項に該当すると主張することは,審判官が,出願に係る発明と当該公知事実との相違点を特に指摘し,そのために出願人が補正を行う機会を逸したことが認められるなどの特段の事情が存在しない限り,許されるというべきである。けだし,特許法が,特許出願に対する拒絶査定の処分が誤ってされた場合における是正手続として,一般の行政処分の場合とは異なり,常に審判官による審判の手続の経由を要求するとともに,取消訴訟は拒絶査定不服審判の審決に対してのみこれを認め,審決訴訟においては審決の違法性の有無を争わせるにとどめる一方で,第一審を東京高等裁判所の専属管轄とし(知的財産高等裁判所設置法により,東京高等裁判所の特別の支部である知的財産高等裁判所がこれを取り扱う。),事実審を一審級省略している趣旨は,出願人に対し,専門的知識経験を有する審判官による前審判断経由の利益を与えつつ,審判手続において,出願人の関与の下に十分な審理がなされることを期待したものにほかならないところ,上記の場合には,出願に係る発明と審判手続において審理された公知事実については,既に,出願人の関与の下に,審判官による判断がなされているからである。そして,この場合には,取消訴訟において新たな相違点についての判断が必要となるものではなく,出願に係る発明と既に審判手続において審理された公知事実との同一性を判断することは,改めて専門知見の下における判断を経る必要があるものとはいえない。』

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