知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

分割要件を満足しないとした事例

2010-01-24 19:08:28 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成20(行ケ)10276
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年01月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

(2) 取消事由1(分割要件についての判断の誤り)について
ア本件発明1の構成要件(D)の「被覆」について
(ア) 本件発明1の構成要件(D)の「被覆」は,前記(1) の明細書の記載を考慮すれば,あくまでも容器内壁が「フルオロエーテル組成物」によって被覆状態になったということを意味する

 ところで,「被覆」という用語は,一般的な技術用語として捉えると,本件発明の実施例3及び7のような,液状物質で一時的に覆われた「被覆」状態だけでなく,塗料を塗布し,乾燥ないし硬化して恒常的な塗膜とした「被覆」や,予め形成されたシートを貼り付けた「被覆」も包含するものと認められるところ,本件発明では,本件明細書中に「被覆」の具体的な説明や定義もないから,「ルイス酸抑制剤」から形成される「被覆」には,上述のような広範な「被覆」が包含されることとなる

 ところが,前記第3の1(1) ア(イ) において原告が主張するように,原出願明細書等に「被覆」という用語が記載されている箇所は,実施例3に関する段落【0040】及び実施例7に関する段落【0056】だけである。

 このうち,段落【0040】には,・・・,本件発明に係る「被覆」には該当しない実施例というべきであり,本件発明とは関係がないというほかない。

 また,段落【0056】には,・・・,この段落【0056】の記載を前提としても,「被覆」の態様は回転機に2時間掛けるという特殊な態様に限定されている上,「ガラス容器」以外の容器の内壁に「水」以外のルイス酸抑制剤を被覆することは何ら開示されていない。

 このように,段落【0040】及び【0056】に記載されているのはルイス酸抑制剤の一例としての「水」であり,しかも,いずれの場合もセボフルランに溶解していることが前提とされているのであるから,当業者が,出願時の技術常識に照らして,セボフルランに溶解していない水以外のルイス酸抑制剤で容器の内壁を「被覆」することでセボフルランの分解を抑制できるという技術的事項がそこに記載されているのと同然であると理解できるとはいえない

 したがって,原出願明細書等に,「水飽和セボフルランを入れて,ボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に,ルイス酸抑制剤の量に応じて,適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない

 以上のとおり,原出願明細書等には,構成要件(D),すなわち,「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」は記載されておらず,その記載から自明であるともいえないから,分割要件を満足するとした審決の判断は誤りである。

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