知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

必須の構成を発明特定事項から削除した分割出願

2009-10-31 22:08:44 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成21(行ケ)10049
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)
 原告は,分割出願に際して本件原出願明細書から削除された構成である「本件連結材」は,細断機の作動時にも非作動時(揺動側壁の開放時)にも,細断機として必要な剛性を確保する上で不可欠な構成要素ではなく,その削除は,新たな技術的意義を追加するものでもないし,当業者であれば,本件原出願明細書において「本件連結材」を有しない発明が記載され,又は「本件連結材」が任意の付加的事項であることが記載されているのも同然であると理解することができるから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり,分割出願の要件を充足する,よって,分割出願の要件を欠くとした審決は,分割出願の要件に係る認定判断を誤ったものであり,違法なものとして取り消されるべきである旨主張する。
 しかし,原告の上記主張は,以下に述べるとおり,理由がない。

(1) 事実認定
 本件原出願明細書(甲2)の【特許請求の範囲】においては,出願に係る細断機が「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」を有する構成が記載されている。また,本件原出願明細書の【発明の詳細な説明】においても,
「【発明の目的】本発明は,メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】)
と記載されるとともに,
「【発明の効果】・・・請求項1の発明によれば,前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。また,2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。更に,2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」(段落【0004】)
と記載されている
。さらに,【発明の実施の形態】を説明した【図3】,【図5】及び【図7】においても,「本件連結材」が明確に示されている(別紙「本件原出願明細書図面」【図3】,【図5】及び【図7】の符号12参照)。

(2) 判断
 以上のとおり,本件原出願明細書には,発明の目的を「メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供すること」とし,具体的には「前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。」,また,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」,更に,「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」発明が記載,開示されている。
 そうすると,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない

 したがって,本件原出願明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。

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