知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲はそれ自体で明確に

2006-02-26 18:00:59 | 特許法36条6項

◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)346 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法36条5項

(原告主張:クレーム不明確でも発明の詳細な説明を参酌して明確になればよい)
『原告は,特許請求の範囲の記載が,それ自体で不明確であったとしても,発明の詳細な説明の記載を参酌してそれが明確になる場合は,出願に係る発明の要旨の確定には何ら支障がないのであるから,このような特許請求の範囲の記載も,旧特許法36条5項及び6項に規定する要件を満たしているというべきである,このことは,最高裁平成3年3月8日判決(民集45巻3号123頁)からも明らかである,と主張する。』

(最高裁判例の解釈)
1.『上記判例は,特許出願に係る発明の新規性あるいは進歩性を判断する場合における,特許出願に係る発明の請求項の要旨の認定について述べた判例であり,旧特許法36条5項について判断をしたものではないから,本件については,その適用はない,と解すべきである。このことは,上記判例が,「特許法第29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるに過ぎない。」(下線付加)と判示しているところから,明らかである。』

2.『特許出願に係る発明の新規性あるいは進歩性を判断する場合における,当該発明の要旨を認定する場合において,特許請求の範囲の記載を前提として,当該発明の要旨を認定し,あるいは,上記判例がいうような例外的な場合に明細書における発明の詳細な説明を参酌して要旨を認定した上で,その発明の新規性あるいは進歩性の判断をする,ということには十分合理性がある。しかし,新規性あるいは進歩性の判断の前提としての発明の要旨の認定をいかにして行うか,ということと,特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の記載が,旧特許法36条5項が規定する要件に合致しているかどうかとは,問題を全く異にするものである。特許請求の範囲の記載は,できる限り,それ自体で,特許出願に係る発明の技術的範囲が明確になるように記載されるべきであり,旧特許法36条5項2号の「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」すべきであるとした規定は,この考え方を具体化した規定であると解すべきである。原告の上記主張は,旧特許法36条5項の規定の解釈としては採用することができない。』

(特許法施行規則第24条様式29備考7,8の解釈)
『原告は,特許法施行規則第24条様式29備考7,8を引用して,本願出願のように,特許請求の範囲の記載中の用語の技術的意義が明確でないときは,発明の詳細な説明中の定義を当然に参酌することができる,と主張する。 しかし,特許法施行規則第24条様式29備考7,8は,明細書中で使用する技術用語は,学術用語を用いること,用語は,普通の意味で使用し,明細書全体を通じて統一して使用すること,用語を特定の意味で使用する場合は,その意味を定義して使用することを規定しているだけのことであり,特許請求の範囲の記載について,殊更に,不明確あるいは不明りょうな用語を使用したり,特許請求の範囲で明らかにできるものを発明の詳細な説明に記載するにとどめたりして,特許請求の範囲の記載内容をそれ自体では不明確なものにしてもよい,との趣旨を規定したものではないことが明らかである。原告の上記主張も採用することができない。』

(感想)
 すごい。私の中で整理できなかったリパーゼ判決後の混乱に終止符を打った判決!。山下和明裁判長のファンとなる。


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