知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

拒絶理由の手交をして特許査定後、当該拒絶理由の指定期間内にされた分割出願(原審)

2007-08-05 12:06:43 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成8(行ウ)125
裁判年月日 平成9年03月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

『2 分割による出願をすることができる時期及びこれに関連する規定について、その沿革をみるに、現在の特許法(昭和三四年法律第一二一号)施行当初は、手続の補正ができる時期について一七条一項本文に「手続をした者は、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正ができる。」と定め(ただし書で、出願公告決定、請求公告決定の謄本の送達後の補正は、六四条の規定により補正をすることができる場合に限定されていた。)、他方、分割による出願をすることができる時期については、四四条二項に「前項の規定による特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後はすることができない。」との規定が置かれていた
 それが、昭和四五年法律第九一号による改正により、手続の補正ができる時期について一七条一項本文が「手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。」と改正され(ただし書で、出願から一年三月を経過した後出願公告決定送達前、出願公告決定送達後、請求公告決定後の補正は、一七条の二、六四条の規定により補正をすることができる場合に限定する。)、一七条の二を新たに設け、特許出願の日から一年三月経過後出願公告決定謄本の送達前の願書に添附した明細書又は図面の補正について、一号ないし四号に掲げる場合に限りできるものとされるとともに、特許出願の分割については、従前の四四条二項が削除され、四四条一項に、「特許出願人は、願書に添附した明細書又は図面について補正ができる時又は期間内に限り、・・・することができる。」旨の規定が設けられた
 右に認定したとおり、現在の特許法の施行当初には、手続の補正が可能な時期について<ins>、「事件が審査、審判又は再審に係属している場合」に限るものとされ</ins>、特許出願の分割が可能な時期について、<ins>「特許出願について査定又は審決が確定した後はすることができない。」とされていた</ins>のであるから、出願につき特許をすべき旨の査定の謄本が出願人に送達されることによって確定し、審査又は審判に係属しなくなった後は、手続の補正も特許出願の分割もすることができなかったことは明らかである
 昭和四五年法律第九一号による改正によって、手続の補正が可能な時期は、「<ins>事件が</ins>特許庁に係属している場合」に限るものと改められたが、それは同じ改正で審査請求制度が導入されたことにより、特許出願によって直ちに事件が<ins>審査に</ins>係属しているといえなくなったので、出願後審査請求までの間も手続の補正ができるようにするためのものと解される

 もっとも、特許査定謄本が出願人に送達されて確定した後登録までの間も事件は特許庁に係属しているという余地があるから、右改正によって、特許査定の確定後もなお手続の補正が可能になったと解する余地がある。しかしながら、少なくとも、特許権の内容の変動を生ずるおそれの高い特許願に添附した明細書又は図面の補正に関する限り、そのように解するのは相当ではない
 勿論、出願公告決定謄本送達後の特許願に添附した明細書又は図面の補正については法六四条により時期、目的事項について厳格に限定されているが、<ins>出願人が出願公告決定謄本の送達後拒絶理由通知を受けた場合、早期に意見書を提出し、それによって審査官が迅速に再考慮した結果、意見書の提出期間として指定された期間を残して特許査定が確定する可能性があることは実際の運用上は例外的とはいえ、法の予定したところであり、その残期間内に法六四条の限定も、事件が特許庁に係属しているという要件も充足する、特許願に添附された明細書又は図面についての手続の補正書が提出されることは理論的にはあり得る</ins>。しかしながら、法にはそのような場合に対応するため当然必要な、手続補正の審査の主体、行政処分として覊束力を有する確定した特許査定の変更の手続についての規定は何ら設けられていない。そうであるのみか、そもそも、出願公告決定送達後の特許願に添附された明細書又は図面の補正は、出願人に拒絶理由を消滅させ特許を受ける機会を与えることを眼目とするものであり、すでに特許査定が確定した発明について、明細書又は図面を補正する機会を与える必要性はない
 これらのことを考慮すると、法一七条一項の「事件が特許庁に係属している場合」との文言にもかかわらず、少なくとも願書に添附した明細書又は図面の補正が可能な時期は、特許査定が確定する前に限るものと解するのが事柄の性質上相当である

 次に昭和四五年法律第九一号による改正によって、分割による出願ができる時期について、法四四条は、「願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」に限るものとしたが、これは、分割の制度が、もとの特許出願の願書に最初に添附した明細書又は図面に開示している発明であって分割の際にもとの特許出願の願書に添附している明細書又は図面にも開示している発明についても新たな特許出願をする便宜を与えるものとして、明細書又は図面についてする補正と同様な働きをしているので、その補正の場合と同様の時期の制限をしたものと解される

 したがって、法四四条一項にいう「願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」には、具体的には、前記第二、二7記載の時又は期間というほかに「特許査定が確定するより前」という時期の制限があるものと解するのが相当である。

3 したがって、本件原出願について特許査定がされ、その謄本が原告に送達されたことにより確定した後にされた本件分割出願は不適法であり、かつその瑕疵を補正する余地がないものであった。』

『二 原告は、本件通知書の指定期間内に本件原出願について特許査定をしたことは違法である旨主張する

1 法五〇条は、審査官は、拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定していたが、その趣旨は、審査官が、特許出願に拒絶理由があるとの心証を得た場合に直ちに拒絶査定をすることなく、その理由をあらかじめ特許出願人に通知し、期間を定めて出願人に弁明の機会を与え、審査官が出願人の意見を基に再考慮する機会とし、判断の適正を期することにある

 ところで、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることは、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であって、特許査定をしようとする場合に要求されるものでないことは、法五〇条自体から明白である。
したがって、拒絶査定をしようとする場合には、指定した期間の経過を待って、右期間中に提出された意見書、右期間中にされた手続の補正、特許出願の分割を考慮した上で拒絶査定をする必要があるけれども、右期間中に提出された意見書又は右期間中にされた手続の補正を考慮した結果、特許査定をすることができると判断した場合には、無為に指定した期間の経過を待って、その後、さらに、追加の意見書が提出されるか否か、再度の手続補正がされるか否か、特許出願の分割がされるか否かを見極める必要はなく、指定期間の途中であっても特許査定をすることができるものであり、むしろ、そのような取扱いこそが望ましいものということができる
意見書提出の期間として指定された期間は、特許出願人が明細書又は図面について補正することができる期間とされている(法一七条の二第三号、法六四条一項)がその趣旨は、拒絶理由通知を受け、その拒絶理由のある部分を補正により除去することにより、特許すべき発明が特許を受けることができるようにすることにある。

 特許出願の分割は、願書に添附した明細書又は図面の補正と同様の効果を持ちうることから、明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、特許出願の分割ができるものとされていることは前記のとおりである
これらの規定は、拒絶理由通知を受けた特許出願人に指定された期間内に意見書の提出のほか、付随的に拒絶理由を回避するための手続補正書の提出及び出願の分割の機会も与えたものといえるけれども、特許査定をするべき場合に査定を遅らせてまで、補正及び分割の機会を保障したものと解することはできない。』

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